濃霧(6)

文字数 824文字

 駐車場を渡り終えた私達は、レストランを目指す。

レストランに向かう途中、左から中年の男性が歩いてくる。

その男性は白杖を持ち、一歩一歩を確認しながら歩いている。

私は、ぴょんぴょんと、はしゃぐ娘の手を引っ張り、立ち止まる。

娘は驚いて、私の顔を見上げる。

「あの人が通るのを待とうか」

私は娘に言う。

その男性は白杖の先端で点字ブロックの形を細かく捉えて歩く。

私達の前を通り過ぎていった。

「あれ何? 何で棒で突いているの?」

娘が言う。

「目が見えない人だよ。あの棒を使って、前に何があるか確認しているんだ」

「へえー」

私の言葉に娘は驚いた表情を見せる。

私達は再びレストランへ足を進める。

「ねえねえ、私、歩けているよ、凄い?」

娘が大きな声で言う。

娘は目を閉じながら歩いていた。

娘が私と妻の手を強く握る。

「そうだね、凄いね」

私は娘に言う。

「うん!」

娘は目を閉じ、手を繋ぎながら、スキップで足を進める。

おぼつかない足取りのスキップ。

時々、繋いだ手が引っ張られる。

「レストラン、ずいぶん混んでいるね」

妻が言う。

レストランの外まで、人が並んでいた。

「本当だな、ちょうどお昼時だからな」

 私達は、列の最後尾に並んだ。

「ハイキング間に合いそう?」

妻が私に訊ねる。

「今日のハイキングは家族向けのコースで、目安時間は三時間って書いてあったから大丈夫じゃないかな」

私は答える。

「良かった。じゃあ何食べようかなー」

妻はそう言いながら、レストランの前に並ぶ、のぼりを見ている。

のぼりは、地域限定のアイスクリームを謳っている。

「まーた、甘い物を食べようとしているな」

私は不敵な笑みで妻に言う。

「別に。食べたいわけではないけど、どうしても食べて欲しいって言うなら、食べてもいいんだから」

妻はそう言うと、高飛車に言いながら顎を上げる。

妻のその行動を見た娘も真似をする。

顎を上げて高飛車を装い、頬が膨らんでいる。

その娘の行動はとても愛くるしい。

私と妻は顔を見合わせて、ふふふと幸せを分かち合った。
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