人とは。悪魔とは。(10)

文字数 601文字

「あいつだ! あいつこそが悪魔だ」

老婆は叫んだ!

炭になった郷珠を人差し指で指す。

その声は、おどおどしている。

「郷珠さんは違う! 私達を悪魔から守ろうとしたんだ」

私は言う。

「守る? あいつは自殺を見せつけて、嫌な思いを与えてきたのだ。悪魔に違いない!」

老婆は立ち上がり、ずかずかと床を踏み歩いて、出入り口まで行くと、扉を閉めた。

「あなたは最低な人だ。私には、あなたが悪魔に見える」

私は老婆に言う。

その声に、怒りが滲む。

「ふん! 何を言うか。お前も悪魔に犯されたか」

老婆は私に言い放ち、席へ戻った。

私の中で何かが弾けたのを感じた。

それは、煮えたぎった何かだった。

気が付けば、私は、老婆に掴みかかっていた。

私を止める者は居ない。

私は止める事が出来ない。

私は両手で、老婆の胸ぐらを掴む。

「私達は、あなたの信仰するアーをずっと待ってきた。しかし、全然助けに来てくれないじゃないか! 私達は、あなたを信じて、じっと耐えてきた。しかし、みんな死んでいった! あなたが悪魔だ!」

老婆の顔に、私は顔を近づけて、怒鳴った。

「黙れ! もう来る。今暴れて、私が怪我をしたら、来るものも来なくなってしまうぞ」

「うるせえ!」

私は、右手に拳を握り、振るい上げる。

どうしてだろうか。

私の目から、ぼろぼろと涙が溢れ出る。

その涙に、妻と娘の笑顔が滲む。

私は、止める理由が見当たらなかった。

ぎゅっと拳を緊く握り、老婆の左頬へ目掛けて突いた。
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