夜の息づかい(24)

文字数 508文字

首を押さえる篠生の両手の指と指の間から、血が溢れ出る。

篠生の両目の黒目が、ゆっくりと下に動く。

下まぶたに黒目が半分くらい入ると、すっと、真ん中に戻る。

再び力が抜けていくように、黒目が下がっていく。

黒目は動き続けている。

遂には、篠生の体に力が抜ける。

両腕をだらんと下ろし、首もすわらない。

黒目の動きも止まった。

そして、だんだんと息をする力も弱まり、息を引き取った。

妻は、篠生が亡くなったのをしっかりと見送る。

妻は、にやりと口角を上げて、立ち上がる。

妻の表情は悪魔を宿したかのような面持ちだった。

妻は、横たわる娘に近づくと、両膝を地面について、しゃがんだ。

娘の頭を撫でる妻。

私は、妻に近づいた。

妻は近づいた私を見上げる。

妻の両目には、大きなクマができている。

「ごめんなさい。この子が」

妻は私に言う。

私はしゃがみ、妻を抱き寄せる。

妻は、抜け殻のように力が抜けている。

「ねえ、私を殺して」

妻は、突然、私に言った。

その言葉の意味を理解する間も無く、妻は話を続ける。

「この子が、ちゃんと、三途の川を渡れるか心配だから」

「何を言ってる」

私は答える。

「お願い。一人で死ぬのは怖いから、あなたの手の中で死にたい」

「できるはずないだろ」
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