生きること 存在すること
文字数 1,125文字
生きる意味、というものを時々考える。
私が「生きる」という言葉を使うのは不適切なのかもしれない。
でも、存在する意味なら、簡単。
私は、あの子の為に存在する。
「君に全てを任せるんだ」
彼は、そう言った。
その腕の中には、小さな生き物。弱くて柔らかい、生まれたばかりの。
「その為に必要な全てを君に与える」
だから、この子を。
そして彼は笑った。
その後ろでは、彼の友人が見守っていた。
彼女は、誰もいない時に私の元に来た。
「お願い」
ただ、それだけを囁くように言った。
しばらくして、彼はすぐに死んでしまって。
直後に彼女がいなくなった。
残された、その子と私。
しかし、本人の言葉通り、必要な全ては既に用意されていた。考えられうる中で余す所の無い、与えられるだけの全て、を彼が用意したらしいのは明らかで。
同じく残った彼の友人は肩を竦めて、言う。
「けーくんってば、過保護だからさ」
貴方はどうするのですか?
「僕? あ〜、色々頼まれてるからさ、そっちをしなきゃ。一応君たちの事も頼まれてるし、何かあったら呼んでよ。この子が大人になるまでは協力するから」
そうして私達は分かれた。
以来、その人を呼んだことはない。
その人は、何かあれば呼ばれる前に姿を現して、全てを片付けた後お礼を言う前に姿を消すような人だった。助けられた事は何度もあっても、呼んだことは、ない。
存在する、意味。
「この子が、大人になるまで」
彼は確かにそう言った。
大人…………成人になるまで?
ならば、それ以降は?
決められた役割を全うすることが、存在する意味。
ならば、私は。
日に日に、その子は大きくなっていく。
それは、私の存在する意味が消滅する時間が近づいている事を示している。自己の存在を守るというのが生きていく上での最低限の本能だとするなら、やはり私は生きているというわけではないのだろう。
存在している、だけの。
慕ってくる、その子。
他に大人はいない。
私はその子の為に存在し、そして守り育てる。
それは当然の成り行きと言えた。
「ねぇ!!」
明るい声。
「おっきくなったら、いっしょに……………………」
その子は、沢山の約束をねだった。
その度、私は「はい」と答えた。
他に解答は用意されていないから。
どれだけ時間が経っても、その子が真実を知っても、それは変わらず。
「ねぇ」
しがみついて。
「ずっと、一緒にいて。私がおばあちゃんになっても、一緒にいて」
約束が増える。
存在する意味は変わらないまま、約束は増えていく。
そして、延期されていく消滅までの時間。
私は、「はい」と答える。
その子の言葉にだけ、是と。
これは、彼の予想の範囲内?
いまではもう解らない。