第25話 『不運』の推測

文字数 5,220文字

藤友君から着信があった。

「おそらく犯人か協力者は『サニー』だ。近づくな」

えっなんで。予想外の答えに僕は驚く。
藤友君は順番に話す。

「とりあえず今日の確認だが、東矢は今日、3,4,5本目の腕の発見場所と思われるところで同じ怪異の存在を感じたってことでいいんだよな? で、廃墟では気配はなく、キーロのストラップからは同じ怪異の気配がした」

うん、全部同じだと思う。すごく気持ち悪かった。

「じゃあ、多分『腕だけ連続殺人事件』とキーロはおそらく関係があるんだろう。ただ、原因についてはキモオフとは無関係の可能性もなくはないんだが」

「えっ? どういうこと?」

「ストラップでつながりはあるとしても、より広範囲に呪物が無作為に配られていたり、別の場所で呪われたのかもしれない。より多くのターゲットの最初にキモオフの参加者が固まっているだけかもしれない。目的はキーロが被害に合わないことだろう? 目的の達成には、複数方面のリスクを検討しないとだめだろ。オフが無関係の場合のパターンも考えないと片手落ちじゃないか?」

そんなこと全然考えてなかったよ……。

「思い込むと足をすくわれるといっただろ」

うう、反論ができない。

「それに被害者が参加者かもはっきりとはわからないしな」

「どういうこと?」

僕のつぶやきにこたえて、電話口の藤友君はなりすましの可能性がある、という。
そもそもキモオフ参加者が被害者なのか。

3本目の腕はブレスレットから『くまにゃん』さんの可能性は高いけど、『くまにゃん』さん又はブレスレット作成者が犯人で、違う人物の腕にブレスレットだけをつけた可能性もある。

4本目の腕はそもそも疑わしい。掲示板と記者の話で二東山ふもとのコンビニが被害地という特定はしうる。だが、『でりあの彼氏』さんのものという証拠は全くない。無関係の可能性も高い。もともとキーロさんは『でりあの彼氏』さんの連絡先は知らないし、その腕自体も見ていないから不確実。

うーん、そういえば確かにそうなのかな。

5本目の腕は、報道の映像と位置情報の場所は一致している。けど腕が『神津ペッカー』さんのものかは確定できない。『神津ペッカー』さんの携帯から位置情報が発信されただけで、携帯は別の者が操作した可能性がある。たまたま腕を発見した『神津ペッカー』さんが面白半分にメッセしただけの可能性も。

仮に参加者が犯人の場合も、もともとは『でりあの彼氏』さんとか被害者と思われている者自身が犯人で『サニー』さんや『よっち』さんの携帯を奪って成り済ましている可能性もあった。

そろそろ頭が混乱してきたかも。

「けれど、さっきのLIMEで『サニー』の言動が不自然すぎる。やはりキモオフ参加者が狙われて被害者になっている可能性が高いだろう」

「不自然?」

「じゃあ順番に。まず、今回の目的はキーロが被害にあわないことだな。それなら『腕だけ殺人事件』が『本当に無差別殺人の場合』は考慮にいれても仕方がない。俺も東矢も同じように巻き込まれる可能性があるってだけだ。それに無関係の場合は正直対策が立てられない。とりあえず一人になる状況を作らないことくらいだな」

「まあ、確かに本当に無差別なら、出歩かないくらいしか対策はないよね」

「そうすると、何らかの因果にキーロが巻き込まれたのだとして、その理由を考えよう。他に心当たりがない以上、第一には参加者の全員又は一部がターゲットとなったと仮定しよう。犯人が参加者を襲うためにはその相手を特定する必要があるよな。けれども、参加者は企画の直前に集められ、しかも飛び入りがいる。事前に参加が確定できたのは『でりあ』、『でりあの彼氏』、『神津ベッカー』、『くまにゃん』の4人。すでに死んだと目される5人にも1人足りない。あとは匿名か飛び入りだ」

うん、そこまではわかる。
匿名のだれかはキーロさん、『よっち』さん、『サニー』さん、えーとそれから『みちとし』さん。

「少なくとも、1人分についてはそれが『誰』かという情報すら現地でないと手に入らないよな。IDで判別したとしても被ることがある。飛び入りも含めて全員分、少なくとも5腕分の情報がないと誰を襲っていいのかもわからない」

「それに加えて殺すためにはどこかで会わないといけない。被害者の居場所がわからないと話にならないんだ。そのためには連絡先が必要だ。各個人の連絡先が得られたのは、実際に参加した参加者だけだろう。だから犯人又はその共犯者がキモオフ参加者の中にいる」

えっ、ああそうか、相手がだれかわからないと襲えないのか。
襲う方の視点なんて全然考えてなかったよ。
なんで藤友君そんなスラスラでてくるの? ちょっと困惑。

「今はっきりさせないといけないことは、参加者の中に犯人がいる場合、それは誰か。つまり、生き残っているうちの誰か、だ。キーロが『よっち』と『サニー』の本人を確認した以上、さっき言った成りすましの可能性は低い。だから犯人はそのどちらかに絞られる」

被害者じゃ……なくて?

「その中で、『サニー』を怪しんだ根拠は大きく二つある。昨日、最初に感じた違和感は、見分けがつくのか、という問題だった。『サニー』は写真の腕が『くまにゃん』のだと断定したんだよな? 確認だが、『サニー』は参加者全員と初対面ってことだよな。それにグループも『くまにゃん』とは違ったんだろ?」

確かに僕はそう聞いている。

「場所は夜の廃虚だ。暗い。初めて会って、一緒に行動もしていない。それなのになぜブレスレットが『くまにゃん』のものだと断定できるんだ? 人のブレスレットなんてそんなに注視するところなのか? 普通、写真を見ただけで判別できるものなのかな」

確かに僕だと他人がどんなアクセサリーをつけているかどころか、翌日になればどんな服を着ていたかもあやふやだ。でも。

「でも、『サニー』さんはアクセサリーを作る仕事をしてるから、特徴的なブレスレットだとわかるんじゃないかな」

僕は情報を組み合わせてなんとか考えを捻り出す。

「俺も昨日はその可能性を考えた。では、二つ目の違和感は発想。つまり『サニー』のLIMEの奇妙な点」

「何かおかしいかな。心配しているように見えるけど」

「3本目の腕がブレスレットで『くまにゃん』のものと判別できたとして。『くまにゃん』の腕が見つかったからってキモオフに結びつけるか? 突発的に開催されたオフ会だぞ? 普通なら単に偶然、知人が猟奇事件に巻き込まれたか、万一狙われたとしても『くまにゃん』の人間関係が原因と思わないか?」

あれ? 確かにそういわれれば。
僕は最初からキモオフ参加者が狙われてるって聞いたからそう思ったけど、普通に考えればどうなるんだろう。

「普通はこの流れで『くまにゃん』が『腕だけ連続殺人事件』の被害者だと思っても、キモオフ参加者

狙われたとは思わない。キーロも最初は、別に『くまにゃん』が狙われたと思ったわけではなく、単に被害者が『くまにゃん』のものか確認したくてメッセしてるように見える。それに発想がおかしいところは他にもある。この『サニー』のメッセの流れはどう見える?」

心配してるみたいに、不安そうに、……見えるけど。

「これは誘導だ。キーロが写真が『くまにゃん』の腕かと聞いたら、『サニー』は間違いないと断定して、その上で、『でりあ』と『みちとし』が被害者で、『キモオフに行ったメンバーが狙がわれている』と言い切っている。この2人についてはさっき推測した3から5本目のようなヒントも何もない。なのにこんな風に言うのは、よほど思い込みが強いのでなければ」

藤友君の声は静かに断定する。

「2人が1,2番目の被害者であり、返事がないことを知っている、つまり犯人だからだ。『くまにゃん』をブレスレットで断定したのもおそらく同じで、切断した腕に特徴的なブレスレットがあるのが目についただけなんじゃないかな」

僕は考えもしなかった可能性に青くなる。
急に強い風が吹き、怪異の残り香が舞う。
座っていたコンクリートの車止めから冷気があがってきた。

「不自然な部分は他にもある」

他にも? まだあるの?

「腕の写真がアップされたのは10:30だ。そしてキーロがLIMEしたのが11:30、そして『サニー』のレスも11:32。この時点で既に『でりあ』と『みちとし』に電話したという。いくらなんでも早すぎないか? 一度しか会ってないやつに生存確認の電話なんてかけるか?」

一度しかあったことがない人……。

「仮に電話をして出なかったとしても、月曜日の10時半とか11時半とかの時間帯だ。働いていれば仕事をしている。俺らだって授業中だ。出なくてもおかしくないだろ? 普通多少時間をおいて、もう一度電話しようとするものじゃないかな。キーロ以外が返事したのも12時を回ってからだ。それに『よっち』がいうように、終わった企画の未読スルーはおかしなことじゃない。普通はこんな拙速な判断をしないと思う」

そういわれると、そうなのかな。
なんだか、自分の足元が崩れていくような感覚。
疑問にも思っていなかったことが、不確かになっていく。

「ペッカーについても同じだ。「助けて」とレスしただけでペッカー

襲われたといっている。例えば東矢は俺から「助けて」って連絡があっても襲われたと思わないだろ?」

「困ってるとは思うかもだけど、確かに襲われたとまでは思わないかもしれない」

「普通、助けての一言で連続殺人事件の被害者になったとは考えない。それに、『サニー』がどの発言にレスをしてるかもわかりやすい。『サニー』は『腕だけ連続殺人事件』の話題にはレスしているが、5/28の事件と関係ない話題にはレスしていない。興味がないからじゃないかな」

確かに『神津ペッカー』さんと『よっち』さんの会話にはレスがない。

「以上から、『サニー』は明らかにキモオフ参加者が被害にあっているという方向に話を不自然に誘導している。
基本的には『よっち』の感想のほうが普通だと思う。誘導に成功したのはキーロだけだ。写真を見ていたからそこは仕方がないのかもしれないが、ここまで不審点が積みあがれば、『サニー』が犯人又は犯人の共犯としか思えない。」

藤友君はいったん息をついて、続ける。

「で、今後の見通しを考えよう。『サニー』はキーロと『よっち』に個別に会いたいっていう連絡をしてきたんだろ。『サニー』が犯人なら、キモオフ参加者に会う理由は、誘い出して殺すためだ。おそらく『神津ペッカー』は二人で会って殺された。あのレスの様子なら呼ばれたら飛んでいきそうだろ?」

誘い出して殺す……ため……?。
「殺す」という具体的な単語におののく。

「神津ペッカーのメッセージと位置情報を発信したのも『サニー』かもな。罠をはってLIMEで『よっち』かキーロがくるのを待っていた可能性もある。それで、連絡がきたってことはキーロはタゲられたままだ。ただ、キーロは友人といるというとすぐに話を取り下げた。『サニー』は相手が一人でいることを希望している。まあ、普通そうだよな、殺そうっていうんだからリスクは低いほうがいい。あるいは、キモオフ参加者しか殺すつもりはないのかもしれない。だから、『サニー』に一人で会っちゃだめだ」

えっちょっと待ってよ、それ『よっち』さんやばいじゃん。
思わず携帯を握る手に力がこもる。

「今日の夕方、『よっち』さんが『サニー』さんと会うことになってるんだ! 複数で大丈夫なら合流したほうがいいよね!?」

藤友君は電話口でしばらく黙った後、予告する。

「複数が安全という保障はない。相手は死体を隠せるからな。慎重を期しているだけの可能性がある。俺なら、行かない。ただ、そっちは末井がいるんだろ? じゃあ……やっぱり行くんだろうな。必ず複数でいろ。一人になるな。あと、リスクは考えて、やばいと思えばお前がキーロを引きずって逃げろ。キーロのためといえば末井は撤退するだろう」

ナナオさんは困っている人は助けようとする人だ。以前も自分を襲った怪異ですら助けようとしていた。

僕は一度電話を切って、2人に顛末を話す。『サニー』さんに会わないほうがいいという説明に、うまく『よっち』さんの危険性を抜かして話すことはできなかった。それに、僕も電話口で『よっち』さんの名前を発言してしまっていた。
予想通りナナオさんは『よっち』さんに会ったこともないのに助けに行くと言い、キーロさんもためらいながら助けに行きたいと言った。昨日話したばかりの人だから。
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登場人物紹介

東矢一人。

新谷坂の封印を解いた代わりに、自身の半分以上を封印される。再度封印を施すため、新谷坂の怪異を追っている。

不思議系男子。

末井來々緒。

「君と歩いた、ぼくらの怪談」唯一の良心。姉御肌の困った人は見過ごせない系怪談好きギャル。

坂崎安離。

狂乱の権化。ゆるふわ狂気。歩く世界征服。

圧倒的幸運の星のもとに生まれ、影響を受ける全てのものが彼女にかしづく。

藤友晴希。

8歳ごろに呪われ、それからは不運続きの人生。不運に抗うことを決めた。

坂崎安離の幸運値の影響によって多少Lackが上昇するため、だいたい坂崎安離に同行し、新たな不幸に見舞われる。

サバイバル系考察男子。

赤司れこ。

twitter民。たまにつぶやく。

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