第4話 ふたりの関係

文字数 1,061文字

 二人が部室をあとにし、職員室の前を横切ろうとしたら、一人の女生徒が出てきた。
 楓は足を止め、見下ろす。三津は突き進んでいたが、楓の視線がすれ違った女生徒に向けられているのに気付くと、止まった。

「えっと……なにか?」
 
 塩谷は明らかに気まずそうだった。
 楓たちにそのつもりはなかったのだが、挟まれる形。

「別に……」
 楓は素っ気なく言い放ち、通り過ぎた。
 
 三津と並び、
「あいつ、小さいよな」
 ぽつりと零す。

「たぶん、紅葉さんと同じくらい」
 
 急だったにもかかわらず、三津は楓の求めている答えを見出だしていた。

「でも、それだけだよ」
「……わかってる」
 
 外に出ると、早くも日が落ちかけていた。
 西日を受けて、三津の髪がきらきらと光っている。色素が薄いからか、反射して眩しい。肩までしかないはずが、視界全体に広がる。
 駅に近づくにつれて人は増え、楓は再認識する。

 ――やはり人目を引く、と。
 
 細身の楓と並んでも、スレンダーな体つき。脚も長く、規定のスカート丈の割には露出が目立つ。
 そんな彼女と楓は並んで歩いている。
 子供なら、簡単に入れそうな空隙をしっかりと保って。
 それでも、傍から見れば恋人同士に映るのだろう。
 
 楓はそれが不愉快だった。
 そのことが原因で、今まで嫌な思いや痛い目にあってきたのだから当然だ。
 
 今の二人は絵になっているが、昔は違った。

 三津の成長は早く、楓は遅かった。中学に上がったばかりの頃は、三津のほうが背も高く、大人びていた。同級生に限らず、男からは高嶺の花と思われるくらいに。
 比べて、楓は声変わりすらしておらず、華奢で髪も長かった。
 男子からは、オカマやオトコオンナとはやし立てられ、女子からは可愛いとマスコット的な扱い。
 
 一緒にいたのは、紅葉がいたからに過ぎないのに――楓はいつも思っていた。
 だけど、それを口にできるほど楓は強くなくて、ずっと耐えるしかなかった。
 
 改札を抜け、電車を待っているとやけに人が多い。
 他の車両の列は開いているのに、二人の傍に寄ってくる。溜息一つ。楓は周囲に侮蔑の目を向ける。
 
 その横顔を、まじまじと三津は眺めていた。
 
 一人の時は、楓以上に鋭い目つきで周囲を威圧しているのだが、今は完全に気を抜いている。あどけなさや口元の緩みが露わになっており、隙だらけ。
 この年相応の姿を見せつけられる度に、楓は三津のことを恨んだり、憎めなくなってしまうのだった。
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