第47話 つまんない……恋

文字数 819文字

 失恋するのは初めてじゃないけど、慣れるものではないなと塩谷は思う。
 また、格好をつけて逃げ出した。やっぱり、自分には無理だ。

 ――恋で誰かと戦うなんて。

 親友だったからってのは、言い訳だったみたい。
 思い知らされて、更にへこむ。
 この先もずっと、似たような結果が待っているんじゃないかと思えて嫌になる。
 それでも、明日になれば笑わないといけない。

 じゃないと、心配される。
 じゃないと、みっともない!

 誰もいないトイレで声を押し殺して泣く。
 放課後だけど、文化祭の準備で生徒は多い。
 楽しそうな喧騒を、素通りできるぐらいには落ち着かないと帰れない。
 
 下校時刻まで、あと一時間しか残っていないのに……塩谷は携帯を見て、焦りを覚える。
 
 それなのに、楓のことを思い出してしまう。ちゃんと告白できたのかな? と余計な心配まで過ってしまう。
 西研という近い場所で見ていたから、気になって仕方がなかった。
 明らかに両想いな二人。いつの間にか応援したくなっていた。

 あまりに綺麗な恋をしていたから――

 傷が少なくなるように、塩谷は言い訳をできるだけ多く集めていく。
 そして、あの出会いすら偶然だと切り捨てる。
 あれさえなければ……憧れの、ただの、ありきたりな片思いで済んだ。

「……っく! うぅ……っ!」

 あれさえなければ……そう、思わないといけないのが辛い。

 だって、今でも覚えている。

 凄くドキドキした。
 何度も何度も思い返して、浸っていた。
 あんなわかり易く、恋に落ちたことなんて初めてだったから……運命だって思ってしまった。

 でも、それは勘違いで違うんだって……今は言い聞かせなくちゃいけない。

 そう、これは――つまんない失恋なんだ。                                                              
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