第22話 楓の休日
文字数 1,364文字
六月も半ばに入った日曜日。
久しぶりの晴天だというのに、楓に外出の予定はなかった。
そもそも、休日に何処かへ出かけるという習慣がないのだから、必然ともいえる。
あったとしても買い物。主に食料品と製菓材料、そして紅茶。
けど、その紅茶も最近――紅葉がいなくなってから、一度しか買いに行っていない。
この街にある唯一の紅茶専門店には、紅葉たちが中学生の頃から通っているため、店員の多くと慣れ親しんでいた。
だからこそ、楓が一人で来たのを珍しがり、話しかけてきた。
勿論、楓は適当に誤魔化した。が、一人だけ事情を知っている若い男性スタッフがいて、同情されてしまった。
なんでも、千代子から聞いたらしい。
――きっともう、全員が知っているに違いない。
そう思うと、足が遠くなっていった。また、茶葉の消費量がぐんと減ったので、買い足す必要性もなかった。
せっかく高校生になったというのに、楓はよりいっそう出不精になっただけ。ファッションに対するこだわりもなく、服といえば母親か姉が買ったものか貰いもの。
なので、チャイムが鳴れば部屋着の上からエプロンをかけた状態でも平気で顔を出す。
「っと、宅配便です」
宛名の確認や冷蔵品という喚起。事務的な応対を終えると、楓は一人愚痴る。
「なんでこのタイミングで……」
宅配の中身はケーキ。悪態を咎めるかのように、オーブンが鳴り、楓はキッチンに戻る。
送られてきたケーキは冷蔵庫に入れ、焼き上がったばかりのケーキを取り出す。
クレーム・ダマンドに旬の果物。上に細かなクッキー生地――シュトリューゼルを散らしたチェリーパイ。
果汁がぐちゅぐちゅと煮立って甘い香りが鼻腔をくすぐるも、二台分を食べるのはさすがに厳しい。特に送られてきたのは、生クリームと日持ちもしそうにないので応援を呼ぶ。
リビングにある電話を取り、深呼吸。頭の中で会話を組み立ててから、かける。
『なに? 楓』
ツーコール前に三津の声。
『……いや、ケーキ食べにこない? 母さんから送られてきたんだけどさ』
『……珍しい』
間があったのは、今日が何日かを確認していたからだろう。
『他に誰か来る?』
『特に予定はないけど……。千代子先輩とか捺さんも呼ぼうか?』
『あ、うん……。なら、私のほうから電話する』
『助かる』
『それじゃ。そうだ、楓――』
余計なお世話だと、訴える前に電話は切られた。
楓は仕方なく自室に戻り、三津の指定した服を探し始める。白のハーフパンツにネイビーのポロシャツ。本当にあったと楓は呆れる。よく、他人の服を覚えているものだと。
キッチンに戻り、ケーキにナイフを入れる。集中。どちらも八等分、綺麗に切れた。着々と準備をする。最近は使われていないリビングのテーブルを片づけ、食器やカップも一度洗っておく。
予想以上に時間がかかり、焦り出すも一向にチャイムは鳴らなかった。十分、二十分……都合はいいのだが引っ掛かる。全ての支度が整ったのは、三十分後。
まだ、誰も来ていない。捺を除けば徒歩五分以内。不思議に思っていると、やっと響いた。出迎えに行くと、見慣れた顔触れ――同じ部活の塩谷に、同じ班の瀬川と山内がいた。
久しぶりの晴天だというのに、楓に外出の予定はなかった。
そもそも、休日に何処かへ出かけるという習慣がないのだから、必然ともいえる。
あったとしても買い物。主に食料品と製菓材料、そして紅茶。
けど、その紅茶も最近――紅葉がいなくなってから、一度しか買いに行っていない。
この街にある唯一の紅茶専門店には、紅葉たちが中学生の頃から通っているため、店員の多くと慣れ親しんでいた。
だからこそ、楓が一人で来たのを珍しがり、話しかけてきた。
勿論、楓は適当に誤魔化した。が、一人だけ事情を知っている若い男性スタッフがいて、同情されてしまった。
なんでも、千代子から聞いたらしい。
――きっともう、全員が知っているに違いない。
そう思うと、足が遠くなっていった。また、茶葉の消費量がぐんと減ったので、買い足す必要性もなかった。
せっかく高校生になったというのに、楓はよりいっそう出不精になっただけ。ファッションに対するこだわりもなく、服といえば母親か姉が買ったものか貰いもの。
なので、チャイムが鳴れば部屋着の上からエプロンをかけた状態でも平気で顔を出す。
「っと、宅配便です」
宛名の確認や冷蔵品という喚起。事務的な応対を終えると、楓は一人愚痴る。
「なんでこのタイミングで……」
宅配の中身はケーキ。悪態を咎めるかのように、オーブンが鳴り、楓はキッチンに戻る。
送られてきたケーキは冷蔵庫に入れ、焼き上がったばかりのケーキを取り出す。
クレーム・ダマンドに旬の果物。上に細かなクッキー生地――シュトリューゼルを散らしたチェリーパイ。
果汁がぐちゅぐちゅと煮立って甘い香りが鼻腔をくすぐるも、二台分を食べるのはさすがに厳しい。特に送られてきたのは、生クリームと日持ちもしそうにないので応援を呼ぶ。
リビングにある電話を取り、深呼吸。頭の中で会話を組み立ててから、かける。
『なに? 楓』
ツーコール前に三津の声。
『……いや、ケーキ食べにこない? 母さんから送られてきたんだけどさ』
『……珍しい』
間があったのは、今日が何日かを確認していたからだろう。
『他に誰か来る?』
『特に予定はないけど……。千代子先輩とか捺さんも呼ぼうか?』
『あ、うん……。なら、私のほうから電話する』
『助かる』
『それじゃ。そうだ、楓――』
余計なお世話だと、訴える前に電話は切られた。
楓は仕方なく自室に戻り、三津の指定した服を探し始める。白のハーフパンツにネイビーのポロシャツ。本当にあったと楓は呆れる。よく、他人の服を覚えているものだと。
キッチンに戻り、ケーキにナイフを入れる。集中。どちらも八等分、綺麗に切れた。着々と準備をする。最近は使われていないリビングのテーブルを片づけ、食器やカップも一度洗っておく。
予想以上に時間がかかり、焦り出すも一向にチャイムは鳴らなかった。十分、二十分……都合はいいのだが引っ掛かる。全ての支度が整ったのは、三十分後。
まだ、誰も来ていない。捺を除けば徒歩五分以内。不思議に思っていると、やっと響いた。出迎えに行くと、見慣れた顔触れ――同じ部活の塩谷に、同じ班の瀬川と山内がいた。