ココナのアプリにはこれまでに収集したスカウト可能な人間の情報が職業名と共に表示されている。
戦士や武闘家が多いのは若い学生に絞っているからだろうか。
僧侶に至っては一人も居なかった。そもそもヒーラーがゲームに存在するのか不明だが。
ただ表示されている職業名は大まかなもので、具体的なロールと能力は仲間にするまで分からない。
例えばサクトは魔法使いだが、爆音の魔術師というロールとフレイムワークスという能力は伏せられているといった感じだ。
まぁ実際俺達に足りないのは物理前衛職なんだがな。
火力は高いが手数と防御面に欠ける。
そもそも勇者の通常攻撃がなぜおもちゃみたいなステッキなんだ……。
いや、俺も魔法使いのくせに遠距離攻撃出来ないからお互い様だ。
あまり職業名にこだわると痛い目を見るかもしれん。
能力的に欲しいのは、まともな武器を持っててタフな前衛、さらに回復魔法も持ってると最高だな。
……それって思っきり勇者じゃん!
すまん、攻めてるわけじゃないんだがつい……。
確か仲間枠は3人、勇者含めて最大4人パーティーだったよな?
うん。
でも一度仲間を登録すると、その人を脱退させて他の人を加入させるなんてことは出来ないよ。
つまり戦う気のない奴を入れると取り返しがつかなくなる。
やっぱり一番重視するべきは本人のやる気だな。
この中に信頼出来そうな奴は居るか?
まぁ俺も似たようなもんだけどな……。
本当に信頼出来る奴なんて早々居ない。
家族ですら信頼出来ねぇもん。
え、えっとそれは……
そう、四十万くんに聞いたから!
少なくとも同級生に絞ろうぜ。
年下や年上が居ると気を遣ってしまう。
遊びであって遊びじゃないからな。
言いたいことが言い合える間柄じぇねぇと……。
……そうだ!
サクトくん、気になる女の子とか居ない?
これをキッカケに付き合えるかもしれないよ!
私も全力で応援してあげるから!
さっきまで慎重に考えてたのに、なんだその不純な動機は……。
いや、俺がココナにその気になったらどうしようという危機感からの保険か?
え、サクトくん、そっちの人だったの?
ごめん、気付かなかった……。
戦力的な意味でだっ!
それに前にも言ったが、こういうシチュエーションは男の憧れなんだよ。
私は愛の力で頑張る女の子の方が頼りになると思うけどなぁ……。
俺のためにそんなことしてくれる女なんて二度と居てたまるかよ。
……いや、すまん。こっちの話だ。
(何言ってんだ、俺は)
そろそろ昼休みが終わる。
続きは放課後な。
私は今、確信したよ。
やっぱりサクトくんを止めてくれる人を仲間にするべきだと思う。
自分に都合のいいことだと分かってる。
でも絶対見つかるはず。
……ううん、私は見つけなきゃいけないんだ。
去り行くサクトの後ろ姿を見つめながら、ココナは自分に言い聞かせた。
それは彼女が密かに葛藤していた問題を解決する唯一の手段に思えたから。
錆びついていた歯車が再び回り始める感覚。
自分の本当の目的を再確認した、その矢先だった。
そういえばさぁ、あの煌なんとかってブリっ子女、また男を引っ掻き回してるらしいじゃない。
ブリっ子て、いつの時代の表現だよ。ウンコかよ。
まぁ糞みたいな女だけど。キャハハハ!
わざとらしく大声で噂話をする女子グループの声が、人がまばらになった食堂中に響き渡る。
聞き覚えのある声に立ち去ろうとしたココナは歩みを止めた。
あら、煌咲さん。
食堂に居るなんて珍しいわね。
新しい個室も追い出されたのかしら?
煌咲さんいつも個室で食べてたの?
女性用は混むから占拠しちゃ不味いでしょ~。
そんな言い方したら便所飯してるのバレちゃうじゃん。
あ、ごめぇん。言っちゃった☆彡
便所飯って理解出来ないんだけど、やっぱり用を足しながらカレーを食べるのかしら?
可愛い顔して……これがギャップ萌えってやつ?
ブリっ子ココナたんマジ萌え~。
そんな子に惚れるなんて新しい彼氏もドン引きだわ。
陰湿な女子トークに沈黙する食堂内。
その沈黙を破ったのは傍でカレーを食べていた女子生徒だった。
ちょっと、食堂で汚い話はやめてくれない?
見ての通りドン引きされているのは貴方達の方よ?
は? なんだお前。
もしかしてブリブリココナたんのお友達?
大親友よ!
私のような優等生に先生にチクられたくなかったらさっさと失せることね。
あ、こいつ学年トップクラスの頭でっかちだよ。
何も知らないくせに偉そうに……!
喰い付こうとする女をなだめ、リーダー格の女がそっとココナに耳打ちする。
今日のところは引き下がるけど、貴方のこと絶対許さないから。
法で裁けないなら社会的に抹殺してやる。
たとえ私達自身が周りにどんな風に思われようとね。
そう告げると、感じの悪い女子グループはゾロゾロと立ち去って行った。
流石委員長、曲がったことは許さない!
男前過ぎて僕が女だったら惚れてたよ。
今までどこに居たのか、拍手しながら狐顔の男がココナと優等生に歩み寄ってくる。
別に気にしてない。
どうせ男は女をエッチな目でしか見れない生き物だし。
その方が気が楽だわ。
本当に気にせず、カレーを食べ続ける委員長。
一連の騒動にもまったく動じていないようだ。
あ、あの……助けてくれてありがと。
……でも巻き添えに遭うから嘘はよくないと思う。
あの人達が言ってたことは本当だし、私は酷い女だから……。
きっと私を困らせるために今度はあなたを標的にするよ。
誤解はちゃんと解いておくから口裏を……。
内藤イズミ。
貴方と同じ2年生。
そこの四十万くんと同じ1組よ。
5組の煌咲ココナでしょ?
知ってるわよ、有名人だもの。
黒い噂ばかりだけど。
気にしないで。
私にとって貴方は特別。
絶対何があっても守ってあげると決めたから。
委員長にそんな一面が……。
この情報は高く売れそうだ!
ちょうどいいから付け足して頂戴。
そんなことで喜ぶ人間に私は興味ないから。
それと……そんな下衆なこと続けてると、貴方にも鉄槌下すわよ。
……ご馳走様。
そろそろ午後の授業が始まるわよ、貴方達。
委員長はそう言い残し、ココナに電話番号のメモを手渡すと食堂を後にした。
呆気に取られるように呟き、四十万ハルも退散しようとする。
しかしココナがそれを引き留めた。
あ、あの、四十万くん。
訊きたいことがあるんだけど!