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文字数 3,237文字

クエスト:境界線上の暴走者

タイムリミット:00:28:45

参加プレイヤー:10/10


ココナ LV3 HP100%

サクト LV3 HP100%

イズミ LV2 HP100%

サクトとウララはアプリで戦況を確認しつつ走り続けていた。


足に自信があるサクトだが持久力は並だ。

少々息が上がりつつある。

暑苦しい服装だからというのもあるが。


対するウララの方は汗をかいているものの、まるで息切れしていない。

やはり体育会系のようだ。

30分を切ったか。


プレイヤー数増えてるな……。

きっと山田さんの仲間ですね。

転勤した二人を勇者コマンドで呼んだんだと思います。


大丈夫、あのパーティーの結束は強い。

逃げずに協力してくれると思いますよ。

そう、勇者以外には逃げるという選択肢がある。

バトルコマンドで『たたかう』を選択すれば戦闘用コスチュームに切り替わり、『にげる』を選択すればその場で離脱可能だ。

また、『たたかう』を選んだとしても戦闘エリア外に出れば離脱可能である。


いざとなればまだ変身していない委員長には『にげる』を選択してもらう、サクトはそのつもりだった。

『影浦くん、山田さんのパーティーが交戦開始したわ。


モンスターのダメージ状況から、ウララさんの仲間が交戦した相手で間違いないそうよ』

自分が司令塔になっても良かったが戦力として投入された以上、委員長が居て助かったと言える。

そしてこの状況を楽しんでいる自分が居ることも認めざるを得ない。

ソロゲーマーだった自分がパーティー戦を楽しんでいるとは……。
無意識にサクトの口角が吊り上がる。
どうしたんですか?
山田さん達が交戦しているみたいです。

あのパーティーなら勝てますよ。

レベル4のクエストすらクリアしたことがある猛者ですから。


ただみんな中年のおじさんなので持久力には難ありですけどね。

お腹も出てるし。ふふふ。

一瞬だけ振り返って笑顔を見せると、すぐにまた走ることに集中するウララ。

しかし彼女は気付かないふりをしながら、サクトの表情の変化を読み取っていた。
どうやらサクトさんもこちら側の人間のようですね。
長い直線の大通りに出たところで停止するサクトとウララ。
これは……やっぱり生々しすぎてあの二人には戦わせられないな。
通りを走行していた車はことごとく蹂躙され、至る所に血やガソリンがまき散らされていた。

まさに地獄絵図だ。


しかしそれはモンスターがここを通ったということであり、委員長の推測を信じるならまたこのルートを通ってやって来るだろう。

私の仲間はもうすぐ着きます。

ここで待ちま……

言いかけたところで言葉を止めるウララ。


遥か前方に動きがある。何かがこっちに向かってきているのだ。

下がりましょうか。


一度合流して……

いえ、距離を詰められたら迎撃準備を整えにくくなります。

あの集団を山田さん達の下へ行かせるわけにはいかない。


ここで罠を張りますよ。

ちょうど利用出来るものがあります。


見せてあげますよ、俺の攻略法ってやつを。

ウララは反対しなかった。

自信たっぷりのサクトのお手並みを拝見したいという思いの方が強かったのだ。

向こうから飛び込んできてくれるならこれほどイージーなことはないぜ。


バトルコマンド、フレイムワークス発動。

ドラゴンマイン、トリプルイグニッション!

サクトはレベルアップによって同じ魔法を同時点火させることが可能になった。

進行ルートに地雷魔法を敷き詰める。

ほどなくして地響きと共にモンスターの集団がやって来た。

ゴブリンライダーが3体、その後ろから20メートルはあろうかという巨大なダンゴ虫が車を踏みつぶしながら転がってきている。


ウララを避難させ、道路の中央でモンスターを引き付けるサクト。

これも生き延びるためだ。悪く思うなよ。


ロケットファイア、イグニッション!

杖の先からロケット花火が発射され、すぐ前のアスファルトの上で炸裂する。

これは攻撃用ではない、点火用だ。

サクトの魔法は花火がモチーフとなっており、花火同士誘爆させることが出来るのも特徴となっている。


導火線は詠唱時間を表しており着火してから発動までにタイムラグがあるが、導火線の短い魔法で誘爆させることで任意のタイミングで発動させることが可能だ。

まずは機動力を奪う!

設置していた地雷が誘爆し、連鎖した巨大な火花が吹き上がる。

さらに潰された車のガソリンに次々に引火し大爆発が起こる。


基本的にモンスターにはスキルを介した攻撃でしかダメージを与えられない。

しかし間にスキルを挟みさえすれば、この爆発も武器となり得るのだ。


大爆発の連鎖に直撃したリザードランナーのHPがゼロになり次々に消滅、騎乗していたゴブリンライダー達が火だるまになりながらサクトの後方へ吹き飛んでいく。


すぐさまサクトは道路脇へ移動し、導火線に火をつけておいた次の魔法を発動させる。

巨大ダンゴ虫、マッドクロウラーが火の海をものともせず突っ込んでくる。

その側面にサクトの最大級の打ち上げ花火魔法『ダイナミックボンバー』を炸裂させる。


激しい閃光と爆発と共にマッドクロウラーが横転した。

これでもダメージなしかよ。

想像以上に硬いな……。


だが止めることは出来たぜ。

凄い……っ!

その光景を一部始終観察していたウララは感嘆の声を漏らした。

力量もさることながら、一人で大群に立ち向かっていく度胸、次の攻撃への布石など、一人で無双するサクトの姿にウララは興奮する。


機動力を失い、マッドクロウラーも転倒されたことでゴブリン達の行動パターンに変化が現れる。

火だるまになりながらも抜刀し、サクトをターゲッティングする。

お姉さんも負けてられないですね。

ゴブリンの前に躍り出ると、目にも止まらぬ鋭い回し蹴りでゴブリンが持っていた曲刀を弾き飛ばすウララ。

さらにその反動を利用して身体を捻り、屈んでゴブリンに足払いをかけて転倒させる。


スマホが変化した武器を介さなければダメージそのものを与えることは出来ないが、体術によってチャンスを作ることは出来る。


相手が燃えていようがHPというバリアを利用し、躊躇なく接近戦を挑む。

やはり亜人系の敵はやりやすいですね。

ジャンプし重力も利用して勢いを付け、転倒しているゴブリンの喉元に閉じた鉄扇を突き刺す。

そして鉄扇を開き切断。

一撃死が発動しゴブリンが消滅する。


どうやら鉄扇は刃物のようにも使えるらしい。


見た目とは裏腹にワイルドな戦い方をするウララ。

遠巻きに彼女の戦いぶりを見ていたサクトも思わず見とれてしまう。

すげ……。

スキルなしで漫画みたいに動ける人居るんだな。



……!?

ウララさん、後ろだっ!

後輩にカッコイイ所を見せて油断したのか、すっかり他のゴブリンへの注意を怠っていた。

ウララに2体のゴブリンが迫る。


――が、次の瞬間、ゴブリンはきりもみしながら空中へ跳ね飛ばされていた。

やれやれ、試合とは異なり一対一とは限りませんよ。


ランアウト、スティンガーショット。

颯爽と後方から現れた紳士が突きの構えを取ると、その前にエネルギー球のようなものが出現する。

同時に空中にブラックホールのような穴も現れた。


紳士がエネルギー球を突き、それが空中に跳ね飛ばされていたゴブリンに命中。

弾かれたゴブリンがブラックホールの中に落ちていく。

さらに跳ね返ったエネルギー球が紳士の下に戻り再びショット。

これもゴブリンに命中しブラックホールの中に叩き込んだ。


どうやら彼はビリヤードをモチーフとした魔法戦士のようだ。

助かりました、マスター。
ウララさんはいつも詰めが甘いですね。
マスターと呼ばれたこの紳士がウララの勇者だろうか?

その後ろからもう一人の男がゆっくりと近づいてくる。

さて、雑魚は片付いたな。


残りはデカブツだけだ。

ウララのもう一人の仲間は怪盗風の仮面をつけた男だった。

やるじゃないか、少年!


君の力は拝見させてもらった。

ぜひとも我がチームにも欲しかったね。

そりゃどうも……。

それではズバッと解決編いってみようか。


後はこの怪傑の勇者に任せたまえ。

勇者ってそっちかよ。
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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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