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文字数 3,237文字
クエスト:境界線上の暴走者
タイムリミット:00:28:45
参加プレイヤー:10/10
ココナ LV3 HP100%
サクト LV3 HP100%
イズミ LV2 HP100%
サクトとウララはアプリで戦況を確認しつつ走り続けていた。
足に自信があるサクトだが持久力は並だ。
少々息が上がりつつある。
暑苦しい服装だからというのもあるが。
対するウララの方は汗をかいているものの、まるで息切れしていない。
やはり体育会系のようだ。
そう、勇者以外には逃げるという選択肢がある。
バトルコマンドで『たたかう』を選択すれば戦闘用コスチュームに切り替わり、『にげる』を選択すればその場で離脱可能だ。
また、『たたかう』を選んだとしても戦闘エリア外に出れば離脱可能である。
いざとなればまだ変身していない委員長には『にげる』を選択してもらう、サクトはそのつもりだった。
自分が司令塔になっても良かったが戦力として投入された以上、委員長が居て助かったと言える。
そしてこの状況を楽しんでいる自分が居ることも認めざるを得ない。
一瞬だけ振り返って笑顔を見せると、すぐにまた走ることに集中するウララ。
しかし彼女は気付かないふりをしながら、サクトの表情の変化を読み取っていた。まさに地獄絵図だ。
しかしそれはモンスターがここを通ったということであり、委員長の推測を信じるならまたこのルートを通ってやって来るだろう。
遥か前方に動きがある。何かがこっちに向かってきているのだ。
あの集団を山田さん達の下へ行かせるわけにはいかない。
ここで罠を張りますよ。
ちょうど利用出来るものがあります。
見せてあげますよ、俺の攻略法ってやつを。
ウララは反対しなかった。
自信たっぷりのサクトのお手並みを拝見したいという思いの方が強かったのだ。
サクトはレベルアップによって同じ魔法を同時点火させることが可能になった。
進行ルートに地雷魔法を敷き詰める。
ほどなくして地響きと共にモンスターの集団がやって来た。
ゴブリンライダーが3体、その後ろから20メートルはあろうかという巨大なダンゴ虫が車を踏みつぶしながら転がってきている。
ウララを避難させ、道路の中央でモンスターを引き付けるサクト。
杖の先からロケット花火が発射され、すぐ前のアスファルトの上で炸裂する。
これは攻撃用ではない、点火用だ。
サクトの魔法は花火がモチーフとなっており、花火同士誘爆させることが出来るのも特徴となっている。
導火線は詠唱時間を表しており着火してから発動までにタイムラグがあるが、導火線の短い魔法で誘爆させることで任意のタイミングで発動させることが可能だ。
設置していた地雷が誘爆し、連鎖した巨大な火花が吹き上がる。
さらに潰された車のガソリンに次々に引火し大爆発が起こる。
基本的にモンスターにはスキルを介した攻撃でしかダメージを与えられない。
しかし間にスキルを挟みさえすれば、この爆発も武器となり得るのだ。
大爆発の連鎖に直撃したリザードランナーのHPがゼロになり次々に消滅、騎乗していたゴブリンライダー達が火だるまになりながらサクトの後方へ吹き飛んでいく。
すぐさまサクトは道路脇へ移動し、導火線に火をつけておいた次の魔法を発動させる。
巨大ダンゴ虫、マッドクロウラーが火の海をものともせず突っ込んでくる。
その側面にサクトの最大級の打ち上げ花火魔法『ダイナミックボンバー』を炸裂させる。
激しい閃光と爆発と共にマッドクロウラーが横転した。
その光景を一部始終観察していたウララは感嘆の声を漏らした。
力量もさることながら、一人で大群に立ち向かっていく度胸、次の攻撃への布石など、一人で無双するサクトの姿にウララは興奮する。
機動力を失い、マッドクロウラーも転倒されたことでゴブリン達の行動パターンに変化が現れる。
火だるまになりながらも抜刀し、サクトをターゲッティングする。
ゴブリンの前に躍り出ると、目にも止まらぬ鋭い回し蹴りでゴブリンが持っていた曲刀を弾き飛ばすウララ。
さらにその反動を利用して身体を捻り、屈んでゴブリンに足払いをかけて転倒させる。
スマホが変化した武器を介さなければダメージそのものを与えることは出来ないが、体術によってチャンスを作ることは出来る。
相手が燃えていようがHPというバリアを利用し、躊躇なく接近戦を挑む。
ジャンプし重力も利用して勢いを付け、転倒しているゴブリンの喉元に閉じた鉄扇を突き刺す。
そして鉄扇を開き切断。
一撃死が発動しゴブリンが消滅する。
どうやら鉄扇は刃物のようにも使えるらしい。
見た目とは裏腹にワイルドな戦い方をするウララ。
遠巻きに彼女の戦いぶりを見ていたサクトも思わず見とれてしまう。
後輩にカッコイイ所を見せて油断したのか、すっかり他のゴブリンへの注意を怠っていた。
ウララに2体のゴブリンが迫る。
――が、次の瞬間、ゴブリンはきりもみしながら空中へ跳ね飛ばされていた。
颯爽と後方から現れた紳士が突きの構えを取ると、その前にエネルギー球のようなものが出現する。
同時に空中にブラックホールのような穴も現れた。
紳士がエネルギー球を突き、それが空中に跳ね飛ばされていたゴブリンに命中。
弾かれたゴブリンがブラックホールの中に落ちていく。
さらに跳ね返ったエネルギー球が紳士の下に戻り再びショット。
これもゴブリンに命中しブラックホールの中に叩き込んだ。
どうやら彼はビリヤードをモチーフとした魔法戦士のようだ。
その後ろからもう一人の男がゆっくりと近づいてくる。