8-5
文字数 3,852文字
真夜中の駅前公園にはカップルの大学生グループらしき集団が居た。
それを眺めながら一人ブランコに座っているココナ。
その視界の片隅に、温かい缶紅茶が差し出される。
魔物に操られていたとは言え、告白したようなもの。
アハハーと薄ら笑いを浮かべてココナは誤魔化そうとした。
お前は最初から何も変わってなかったって言っただろ。
そう、最初から……。
お前は変わってるつもりかもしれんが、ずっと天然を装って誤魔化してきたズルい奴だ。
何かを隠すためにな。
そしてそれは俺が絡んでる事なんだろ?
世界が一瞬暗転し、時間が凍結する。
爆音の魔術師、サクトのチュートリアルモードを開始します。
女神様の声でシステムメッセージが響いた。
これで俺達以外は誰も盗み聞きする事は出来ない。
ここで何をしても俺達の記憶しか残らない。
たった一度しか使えない、お前と俺だけの貴重な時間だ。
それを俺はお前と話し合うためだけに使おうと思う。
お前は俺に何をしてもらいたい?
反射的に体が動いていた。
普段のココナからは想像がつかないほどの瞬発力で。
頬をさするサクトの前のココナは仁王立ちで、その瞳から少し遅れて涙が溢れ出した。
その場で泣き崩れるココナ。
頷……かなかったが、否定もしなかった。
言いながら頭をポンポンと撫でるサクト。
妹をあやしていた時のやり方が合っているのか分からないが、他にどうしていいか分からない。
ずびぃぃぃ。
全く躊躇しなかった。
ただ抱き着くような形になり、サクトは今更ながら恥ずかしさが込み上げてきた。
さて、あっさり白状してくれたので時間的に余裕が出来た。
せっかくなのでサクトはもう一つの話を進めることにした。
本心を吐き出した事でスッキリしただろ?
だからもう俺の顔色は窺わなくていい。
そもそも俺は覚えてないんだから恩義を感じる必要もない。
仲間として、友達として接してくれ。
ココナは魔王アプリの存在を知っているか?
無言。どう反応していいか迷ってるようだ。
知らなければ即、答えが帰って来ていただろう。
それはつまり、いつも通り嘘で誤魔化すか。
今のこのタイミングでそれをやっていいのかという迷いだ。
肯定と考えて間違いない。
ココナの両肩を掴み、激しく尋問するサクト。
ココナの頭が激しく揺れる。
なんだそれ。
だがこんな近くに貴重な情報源が居るとは思いもしなかった。
プレイヤーの死はクエストの失敗によって現実に実装される。
それはクエストを作っている魔王によって殺されてきた事を意味する。
勇者アプリは実は対戦ゲーム仕様だったのだ。
つまり魔王は勇者の敵である。
裏を返せば勇者は魔王の敵である。
何も間違ってはいない……のか?
何となく引っ掛かる言い方なのは気のせいだろうか?
魔王も勇者同様、複数存在する。
色んな考えがあってもおかしくはない。
もちろんココナの記憶違いという可能性もある。
もちろん勇者の集いが行っている不正、
そもそもココナは勇者アプリの運営システムに介入しようという気はさらさらなかったのだから、当たり前と言えば当たり前かもしれない。
ただ人助けをしたかっただけ。
シンプルな理由だ。
ゲーム感覚で遊んでいるサクトにとってはどちらかと言えば利用する側だが、金儲けがしたいわけではない。
ゲームは最終的にエンディングを目指してクリアするもの、それが彼のポリシーだ。
学生という立場だから言える事で、今後変わっていく可能性もある。
それにココナのグランドクエストも分かっていない。
少なくとも今はまだ、結論を出す段階ではないだろう。
アプリの仲間マーカーを示すサクト。
これを見れば仲間達の現在位置は一目瞭然。
こっそり二人の様子を見ようと後を付けられていたのだ。
(サクト君はあの人に会いたがってる……。
あれから一度も会ってないのは事実だけど、その前にも会ってるんだよ。
サクト君もね。
そして、私よりその人のことを知ってる感じだったよ。
でもそれはサクト君にとってとても辛い……忘れてしまった過去の1ページ……。
そしてサクト君は私の事を……。)
腕をサクトの背に回し、ココナの顔が迫る。
お互いの時間がゆっくり感じる。
心臓の鼓動の速さと時間の流れの速さは反比例の関係にあるのだろうか。
触れるか触れないかの瞬間―――
ブランコから立ち上がり、イズミとカナセを見つけたココナが駆け寄っていく。
すぐさま隠れようとした二人だったがすぐに観念し、雑談を交わし始めた。
ただ一人、サクトだけが取り残され茫然としている。