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文字数 2,055文字

勇者アプリ―――それは人々の願いを叶える人智を超えたスマホアプリ。


私立神須賀高校2年生、煌咲(きらさき)ココナはアプリに選ばれた勇者である。


勇者が立ち向かう魔物とは、人々の神頼みによって書き換えられる人工的な運命が具現化したもの。

一時停止した世界で魔物を退治することで、その運命は解放され現実に実装される。

しかしその実態は、敗北すれば心不全という形で現実にプレイヤーの死が実装されるデスゲームボランティアだった。


共に戦う事が出来る仲間は3人まで、勇者を含めて4人パーティーがフルメンバーとなる。

仲間達は戦闘から逃げる事が可能だが、勇者は逃げる事が出来ず勝つか死ぬかの選択肢しかない。

無理矢理巻き込まれた者、ボランティアで協力する者、ゲーム感覚で協力する者、勇者を救うために協力する者、目的は様々だが勇者ココナにも遂に3人目の仲間が加わった。



【魔法使い】影浦サクト


2年1組の目立たない男子生徒。

ゲームが得意でパーティーの中心人物。

足には自信があり、運動能力もパーティーの中では一番高いようだ。

スキルは花火をモチーフにした強力な火炎爆裂魔法だが使用回数制限が厳しい。

命中率も低いため接近戦をメインとする。



【騎士】内藤イズミ


2年1組のクラス委員を務める女子生徒。

正義感が強く頭の良い優等生。

臆病な所があったが、パーティーの貴重な前衛として最も急成長した人物。

スキルで防御力に特化したフルプレート姿になれるが、身動きが取れなくなるという弱点を持つ。

防御力を捨てる事になるが、攻撃可能なスタイルへのフォームチェンジが可能。



【狩人】乙森(おともり)カナセ


2年5組、煌咲ココナのクラスメイトの男子学生。

彼の素性については特に記載する必要はないだろう。

罪滅ぼしという名目で自ら煌咲ココナのパーティーに志願した。

スキルはライフルの弾丸を使い分ける事で様々な状態異常を与える遠距離デバッファーのようだ。

まだ加入したばかりで、成長傾向など詳細は不明。



特記事項―――


クエストは魔王アプリを持つプレイヤーが生み出している。

言わば勇者アプリとは命を賭ける事で神が介入しなくなった、民営化された神頼みシステムである。

影浦サクトはその情報を手に入れた可能性があるが、パーティーに打ち明けている様子はない。

これを利用しない手はないだろう。



【勇者】煌咲ココナ


2年5組のイジメに遭っている女子生徒。

7年前、マスコミを賑わせた悲劇の少女。

実名報道はされていないが学校側は把握済み、生徒の中で知る者は生徒会を含めごく僅か。

事件のもう一人の当事者、西条ネネと同クラスにしたのは圧力に屈した学校側の失策である。

彼女が勇者となったきっかけとも考えられる。

恐らく煌咲ココナにはあまり時間は残されていないのだろう。


―――そして彼女がこのエリアを支配する魔王と最も関係が深い人物である。


(……時間がないのはこちらも同じだが。)
一人きりの生徒会室にノックが響き、彼はノートパソコンを閉じた。
入りたまえ。
会長、4人をお連れしましたわ。
わぁ、ドラマの社長室みたい!
いや、社長は言い過ぎだろ。

でも思ってたより豪華なのね……。


それな、ほとんど鞘家さんの私物やで。

生徒会室に入って来るなり口々に部屋の印象を述べるサクト達。

私立校ではあるが、いわゆるお金持ち学校ではない。

しかし絵画やクッション性の高そうなソファーなど、不釣り合いな物品がアクセントになっているのは事実だった。

ようこそ、生徒会へ。

いや、こちら側の勇者の集いと言った方がいいかな?

という事はあちら側もご存知なんですか?

誘われた事があるからね。知っているのは当然さ。


――僕は断ったがね。

マジで生徒会長が勇者だったのかよ……。

ベタ過ぎて拍子抜けだな。

逆だよ。

勇者だから生徒会長になった。

確かにアプリへの対策として、メリットあるかも……。

おい、委員長。

俺は次期生徒会に入りたくねぇからな。

ででででもっ、人助けのためにそこまでするなんて尊敬しますっ!

私のことも影からいつも助けてくれて本当にありがとうございましたっ!

慌ててお辞儀するココナ。

素直な良い子ちゃんである。

会長の座は汚いやり方でもぎ取ったし、君を助けなきゃ僕も死ぬ。

称賛される事じゃないよ。

で、今更になって正体を明かした理由は何ですか?
ちょっと、そういう態度は失礼でしょ。
サクトの袖を引っ張りながら講義するイズミ。

七夕の短冊に書いていただろう。


「もう一人の勇者と一緒に戦えますように」と。


願いを叶えてあげただけだよ。

アプリの力を使わずにね。

あ、ありがとうございます!
(いや、絶対嘘だろ……。)

もちろん条件付きとなるわけだが、ここに来たという事は乙森君の要求を呑んだという事。

最後に直接確認させてもらうよ。

立ち上がり、勇者ココナパーティーの面々を一瞥しながら続ける。

協力するのは利害が一致する時のみ。

貸し借りはなし。

僕の正体は他の勇者に教えない。


そして、僕の目的を邪魔しない事。

それは―――

一区切り付けて、会長の眼光が鋭く光った……ように見えた。

神を殺す事だ。

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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