掴みどころがなさ過ぎてまだ実感湧かないな。
実際現実に影響を与えてることって、ココナと情報を共有していることくらい。
そのココナも色々隠し事が多くて乗せられてる気がしないでもない。
本人に悪意は無さそうだし、無理に訊くのもなぁ……。
まぁゲームを楽しめれば俺はどうでもいいんだが。
おっはー。
最近早いね、サクト。
夜更かししてゲームするのやめたの?
時間に縛られないゲームを見つけてな。
ハル、お前もやるか?
勇者アプリを起動し、四十万ハルにスマホ画面を見せるサクト。
まさかのオカルト系……。
もしかして僕に呪いを移そうとした?
妹にも試したのだが、やっぱり一般人には何も見えないらしい。
高校に上がってからは二人に接点はほぼないので、口裏を合わせているようにも思えない。
ま、どっちにしろゲームなんて時間の無駄だね。
時は金なり。
そんな暇があったらお金になりそうな情報でも収集してるよ。
言いながらサクトの前の席に後ろ向きに座るハル。
窓際族の二人は教室の隅に陣取っている。
サクトが窓際の一番後ろ、ハルがその前である。
そう言えばさ、最近煌咲さんと仲良くしてるらしいじゃない。
二人一緒に居るところ結構目撃されてるよ。
まじか……。
目立たないようにしてるのに、アイツが目立つからなぁ……。
気を付けなよ?
煌咲さん可愛いけど敵が多いからさ。
これは友人としての注目。
でも面白そうなので直接助けたりはしない、そこんとこヨロシク!
ちょっと、さっきから五月蝿くて勉強に集中出来ないんだけど?
今日から中間テストよ、分かってるの?
隣の席で黙々と勉強している委員長からのクレーム。
教室には同じように勉強している生徒がチラホラ。
ただ余裕ぶっこいてるのか、すでに諦めが入ってるのか、遊んでる生徒と半々くらいだ。
(ヒソヒソ)
俺らよりよっぽど周りの方が五月蝿いのにな。
(ヒソヒソ)
まぁ確かに最近、サクトよく喋るよね。
今迄空気だったから余計イラっと来てるんじゃないの?
午前中の日本史、化学、英語、生物のテストが終わった。
昼食を挟んで午後から数学となっている。
流石に今日はココナも接触してくる気配はない。
というか普段から放課後以外はLIMEでメールするだけだが。
コンビニパンを頬張りつつ、今日の戦果を報告し合うサクトとハル。
サクトはどっちかという理系だもんね。
僕は暗記系なら得意なんだけどなぁ。
断言する、日本史は100点だよ。
(ヒソヒソ)
おいバカ、学年ベストスリーの優等生に睨まれるぞ。
一瞬隣の席の委員長がハルを睨んだが、すぐに勉強を再開した。
(ヒソヒソ)
昼食すら取らずに勉強してるよ。
お腹空かないのかな?
(ヒソヒソ)
そう言えば委員長が教室で飯食ってるとこ、見たこと無いな。
食堂が混雑してたら勉強する時間減るから、テスト終わってから食うんじゃね?
「では、始め」
教師の合図と共に数学のテストが始まった。
……あと20分か。
最後まで解けそうにないし、時間かかりそうな問題は飛ばすか。
テスト中で静かなため、念のため教室の時計、ついでに窓から見える旧校舎の時計塔も確認する。
時間は……止まってるな。
例の赤色緊急クエストか?
とりあえずココナと合流を……
立ち上がろうとして思いっきりずっこけるサクト。
何かに足を取られたのだ。
青いゲル状の触手が足に絡みつき、天井へ引っ張られていく。
天井には本体であろうゲル状の塊がへばりついていた。
スマホを取り出そうと右手をポケットに突っ込む。
――が、本体からもう一本の触手が伸び、右手を絡め取る。
スマホが床に落下する。
しまった!
バトルコマンド、たたかう!
くそっ……手に持っていないとダメか。
音声入力コマンドが受け付けられず、戦闘モードを起動することが出来ない。
サクトくん!
強制エンカウントしたみた……い……!?
そこに魔法少女風の衣装に身を包むココナがサクトのクラスにやって来た。
彼女が目にしたのは触手に襲われM字開脚しているサクトの姿だった。
冷静にココナはサクトのあられもない姿をステッキについたスマホで撮影し始めた。
スライムがサクトのズボンを下着ごとずり下げ、尻に触手を突っ込み始めた。
大丈夫、目を瞑ってやるから!
光聖剣クラウソラス!
サクトくんのお尻は私が守るっ!!
サクトの心配は杞憂に終わり、光の剣がサクトをすり抜け敵を切り裂いた。
スライムは真っ二つにされ、サクトの拘束が解かれる。
バカっ!
クエストはまだ終わってない、倒してないぞ!
ドロドロと体液を失い縮みながら、スライムは天井を這って教室の外へ逃げ出した。
スマホを拾い上げ、戦闘モードに変身するサクト。
スマホは杖へ、魔術師風のマントと帽子が学生服の上から装備される。
しかし、ひとつ収穫はあった。
聖剣に触れても何ともない。俺だけじゃなく壁もだ。
モンスターだけを斬る特性があるようだ。
良かったぁ。
サクトくんが女の子になってたらどうしようかと……。