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文字数 3,400文字

クエストが神頼みの内容によって変わるのはご存知ですよね?


今回のクエストは私の不注意から誰かが神頼みしてくれたことで発生したと思っていました。

しかし実際はそれだけじゃなかったようです。

原因は一台の暴走車。

逆走し、歩道に乗り上げ、通行人を跳ね飛ばしながら暴走した車は、転んだウララのすぐ目の前まで迫ったところで時間が止まった。

状況的にはウララが轢かれないように誰かが神頼みした、と考えるのが妥当だろう。

それを複数の目撃者が同時に願えば複数のモンスターがポップすることになる。


問題はこの車がいつから暴走していたか。

悲鳴はもっと遠くから聞こえていた。

突然目の前で暴走を開始したわけではないのだ。


単純に暴走を止めて欲しいと願った者も居れば、怪我人を助けたいと願った者も居るはず。

その場合、原因は同じでも神頼みの内容が微妙に違ってくる。

非常に稀なケースだが、この場合はボスモンスターも複数ポップすることがあるらしい。

私の仲間が交戦したモンスター群と、山田さんのパーティーが遭遇したモンスター群は全く別集団です。

どちらにもひと際大きなボスモンスターの存在を確認しています。

少なくとも2体、もしかしたら私とサクトさんが遭遇した集団も別だとしたら3体以上存在するのかもしれません。


しかもボスモンスターはレベル3、配下のモンスターは2種類居ますがどちらもレベル2です。

あれクラスが複数居るのかよ……。
あれとは先日死闘を繰り広げたドライアードのことである。

とてつもない攻撃力を持った強敵だった。

まずはゴブリンライダー。

巨大トカゲに騎乗した亜人系のモンスターです。

亜人系は武器などのアイテムを使用します。

曲刀を腰に下げており、行動パターンが変わると使用するかもしれません。


トカゲの方はリザードランナー。

人間の足で追いつけないほどのスピードで走ります。


ボスモンスターと思われるのがマッドクロウラー。

巨大なダンゴ虫のような姿をしており、丸まって転がっています。

その装甲は硬く、生半可な攻撃ではビクともしないそうです。


これらのグループが別々の場所で人々を跳ね飛ばしながら爆走してます。

現場はかなり凄惨なようですが……大丈夫ですか?

この二人はちょっと厳しいかもしれんな……。

そしてここからが一番重要です。


これらのモンスターはアクティブモンスターではありません。

プレイヤーを見つけても無視して走り続けます。

交戦すれば多少抵抗するようですが、すぐに去っていきます。

は?

タイムリミットを思い出してください。

このクエストのモンスターは時間切れを狙ってるんですよ。


そして人の足では追いつけないくらい速い。

つまり待ち伏せるしかなく、さらに倒し切れるだけの高火力が必要ってことか。

エリアが広いため全員で一つずつ潰していく暇はありません。

分散して索敵しながら倒した方がいいでしょう。


山田さんのグループは恐らく大丈夫だと思いますが、私のグループは二人では火力不足なので応援が必要です。

出来れば私以外にもう一人、高火力の方に付いて来て欲しいです。


後の二人は敵の位置を探していただきたいのですが……。

高火力と言えばサクトくんだよね?


私だと足手まといになりそう……。

いや、神風の術は足止めに使える。

それに空を飛べば探しやすいしショートカットも出来るしな。


むしろこの作戦はココナに掛かってる。

空を飛べるんですか!?


それは凄いです……!

あれ?


もしかして頼られてる?

俺はウララさんのパーティーに合流する。

ココナは上から敵の位置を教えてくれ。

いざという時は神風に期待してるぞ。

……私は?

委員長はココナのお守りに決まってるだろ。

こいつバカだから一人じゃ当てにならん。

あれ?


やっぱりバカにされてる気がする……。

はっきりバカって言われたわよ。

うぅ……。

でも否定できない……。

そうと決まれば山田さんの電話番号を伝えておきますね。


それでは可愛い魔法使いのココナさん、よろしくお願いします。

あ、私が勇者なんです……。

ウララはてっきり委員長と呼ばれているイズミが勇者だと思っていたようだ。

無理もない。ココナは魔法少女にしか見えないのだから。





遭遇したモンスターはいずれもすぐに走り去り、プレイヤーを無視して暴走している。

普通に走っても人間の足では追いつけない。

ルートを予測して待ち伏せる必要がある。


境界線上の暴走者――このクエスト名をヒントにウララパーティーと山田パーティーに分かれて布陣することになった。

サクトはウララと共に、彼女の仲間との合流に向かう。


ココナとイズミの二人はエリア中央あたりの高層ホテル屋上から索敵を担当することになった。

思ったより分かりにくいかも。


どうしよう……。

繁華街ということもあり、背が高い建物が乱立する上せせこましく入り組んだ市街は死角が多く、高所に移動しても索敵が難しい状況にあった。
……影浦くんは厄介払いしたかっただけなんでしょ。

そんなことないよ!


確かにウララさんは綺麗だけど……。

そういう意味じゃないわ。

戦力外通告をオブラートに包んだのよ。


ただ煌咲さんについては期待してると思う。

邪魔だったのは私……。


悔しいけど現場が酷い有様だと聞いて怖気づいちゃってるの。

たぶん私は殻に閉じこもったまま、また何も出来ない……。

……私はこの前の戦いに勝てたのはイズミちゃんのおかげだと思ってるよ。


きっとあの時、イズミちゃんに頼らなかったら、私もサクトくんもこの世に居なかったと思う。

結果論よ。

たまたま上手くいっただけ。

きっと私が居なくても何とかなってたと思う。

そういう風に考えるの良くないよ……。

モンスターの位置だって、影浦くんならもう目星がついてるはず。


エリアオーバーギリギリの外周、さらにモンスター同士衝突しないように同じ方向に間隔を空けて走ってるんだわ。

遭遇したパーティーの位置、方角から考えてほぼ間違いないと思う。

分散しないと厳しくなるように設定されてるんだわ。

ここから姿が見えないってことは予測通りってことね。


推測を裏付けるためだけに、エリア中心に近いここに私達を移動させたのよ。

凄い。やっぱりイズミちゃん頭いい。


でも……きっと直接戦うことだけが役に立つことじゃないと思うよ。

本当に私達に出来ることはもう何もないのかな?

私バカだけど便利な魔法持ってるから、イズミちゃんに私を上手く使って欲しい。

…………。


山田さんが居る位置はここ、影浦くんが向かってるポイントがこの辺り……。

一度交戦した位置が……

ノートを取り出し、スマホのマップを比べながら何やら計算を始めるイズミ。

不機嫌に不貞腐れていたがココナの一言で自分なりの戦いを始めたようだ。

もしもすべてのモンスターが同じコースを走っているとしたら……。


すぐ横のビルが邪魔ね。

煌咲さん、空を飛ぶ魔法で見て欲しい方角があるの。

建物が多くて見えるかな……。

モンスターそのものを見つける必要はない。

この世界で動けるのはプレイヤーとモンスターだけ。

電線が揺れてたりとか何でもいい、動いてるものがないかそれだけを意識して。


見て欲しいのはこの直線道路沿い。

カメラのズーム機能も使うといいわ。

分かった!


バトルコマンド、ヘブンズゲート発動。

エンジェルウィング!

ステッキに翼が生え、ゆっくり上昇していくココナ。

翼はただのエフェクトでありこれが羽ばたいていて飛んでいるわけではない。

正確には一定時間、自在に浮くことが出来る魔法なのだ。


イズミの指示通り、ステッキに張り付いたスマホのカメラをズームさせ、何かしらの変化がないか注意深く観察する。

あ、街路樹が揺れてる!
山田さんのパーティーが遭遇した道沿い……。

ウララさんの仲間が交戦したモンスターがそこまで移動して来たと考えるのが順当ね。


やっぱり時計回りにすべてのモンスターが同じルートを回ってるんだわ。

すぐさまサクトに電話をかけるイズミ。
もしもし、影浦くん?


モンスターの集団をひとつ見つけたわ。

恐らくウララさんの仲間が遭遇したやつだと思う。

山田さんのパーティーに知らせて迎撃してもらうわ。


それとモンスターはみんな同じルート上を走ってる可能性が高い。

モンスターが通った後の形跡を辿って反対方向に進めば見つけられるはず。

これで交戦位置を調整して有利な状況で戦えると思う。


ここから先、私が連絡係になって随時みんなの情報を伝えるわ。

良かった。


やっぱりイズミちゃんは私なんかより頼りになるよ。
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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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