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文字数 1,402文字
帰りは裏口へ案内された。
もう23時だ。
学生服姿のまま店内を通るのはマスターに迷惑を掛ける。
見送るウララに呼ばれ振り返るサクト。
甘い香りとほっぺに柔らかい感触……。
笑顔で手を振りながら扉を閉めるウララ。
サクトは呆けたまま固まった。
閉めた扉にそのまま背を預け、反芻するウララ。
サクトがこちら側に来てくれたことで、自制していた心が緩んだ結果の行動だった。
メグムが店舗に戻ったのを確認し、ウララはスマホを取り出した。
そこにはいつの間に撮ったのか、草むらの上で上半身をはだけたサクトの姿が映っていた。
家路を辿りながらぼんやりと月を見上げる。
特にその行動に意味はない。
実物を確かめてはいないが、二人が嘘を言ってるようには見えなかった。
これで聖域だけでなく様々な疑問の辻褄が合う。
もしかしたらレベル4勇者も魔王とすでに手を組んでいるのかもしれない。
それなら接触に慎重になる理由も分かる。
MMORPGではよくあることだが、運営の管理を飛び越え、独自のルールで付加価値を付けて楽しむユーザー集団が居る。
良い意味ならいいが、悪い意味なら犯罪になることもある。
確かにそんな利用法も予想出来た。
ただそれにはコミュニティーが必要だ。
勇者の集いはそのためのネットワークだったというわけか。
目的は分かったが、メグムの言う通り情報を開示する相手を選ぶ。
きっとココナと委員長は嫌悪感を示すだろう。
これはどっちが正しいという問題ではない。
サクトも概ね賛成だと思っている。
ただクリア出来ないように見えても、クリア出来るように作られているのがゲームなんですよ。
雑魚狩りの無双アクションもそれはそれで気持ちいいでしょう。
だがクエストの仕組みが分かった以上、俺はハイスコアを目指しますよ、ウララさん。
……いや、ARURAさん。
彼女のアクションがかっこ良く見えた一番の理由、それは格闘アクションゲームを模倣していたから。
ウララもまたゲーマーだったのだ。
今日手に入れた情報からそれを確信したサクト。
ココナの母親だって救えるかもしれない。
病も奇跡で治してしまう、それはもう神の領域だ。
自宅に着いたのは日付が変わりそうな時間だった。
家の中もすでに消灯している。
流石に堂々と帰るわけにはいかず、泥棒のようにこっそり侵入するサクト。
抜き足差し足、二階の自室へゆっくり向かう。
その時、突然階段の明かりが付いた。
――階段の上に何かが居る!
ヒメリの怒りは最高点に達していた。
まぁ当然の反応だろう。
怪我した傷心の妹をあれだけ雑に扱えば。
サクトが鏡を見てキスマークに気付いたのは、妹がブチギレて不貞寝した後だった。
Quest6:大人の階段 ――END
Next Quest:星に願いを