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文字数 1,402文字

帰りは裏口へ案内された。

もう23時だ。

学生服姿のまま店内を通るのはマスターに迷惑を掛ける。


サクトさん……。

見送るウララに呼ばれ振り返るサクト。


甘い香りとほっぺに柔らかい感触……。

二人には内緒ですよ?

笑顔で手を振りながら扉を閉めるウララ。

サクトは呆けたまま固まった。

……まじか。




閉めた扉にそのまま背を預け、反芻するウララ。

サクトがこちら側に来てくれたことで、自制していた心が緩んだ結果の行動だった。

私もミナコさんのこと言えませんね……。
何度目の本気だよ……。

本気中の本気です……っ!


でも想いを打ち明けるのは全てのことを話してから。

この血塗られた手を握り返してくれるのなら……。

俺達を裁けるのは魔王だけだ。

メグムが店舗に戻ったのを確認し、ウララはスマホを取り出した。

きっと分かってくれると信じてました。

そこにはいつの間に撮ったのか、草むらの上で上半身をはだけたサクトの姿が映っていた。

ずっと貴方のファンで良かったです、ZAKUTOさん。






魔王アプリか……。

家路を辿りながらぼんやりと月を見上げる。

特にその行動に意味はない。


実物を確かめてはいないが、二人が嘘を言ってるようには見えなかった。

これで聖域だけでなく様々な疑問の辻褄が合う。


もしかしたらレベル4勇者も魔王とすでに手を組んでいるのかもしれない。

それなら接触に慎重になる理由も分かる。


MMORPGではよくあることだが、運営の管理を飛び越え、独自のルールで付加価値を付けて楽しむユーザー集団が居る。

良い意味ならいいが、悪い意味なら犯罪になることもある。

勇者アプリのRMT(リアルマネートレード)化……。

確かにそんな利用法も予想出来た。

ただそれにはコミュニティーが必要だ。

勇者の集いはそのためのネットワークだったというわけか。


目的は分かったが、メグムの言う通り情報を開示する相手を選ぶ。

きっとココナと委員長は嫌悪感を示すだろう。


これはどっちが正しいという問題ではない。

サクトも概ね賛成だと思っている。

ただクリア出来ないように見えても、クリア出来るように作られているのがゲームなんですよ。

雑魚狩りの無双アクションもそれはそれで気持ちいいでしょう。


だがクエストの仕組みが分かった以上、俺はハイスコアを目指しますよ、ウララさん。


……いや、ARURAさん。

彼女のアクションがかっこ良く見えた一番の理由、それは格闘アクションゲームを模倣していたから。

ウララもまたゲーマーだったのだ。

今日手に入れた情報からそれを確信したサクト。

なぜなら俺は廃ゲーマーだから。


イージーモードなんて糞くらえだ。

ココナの母親だって救えるかもしれない。


病も奇跡で治してしまう、それはもう神の領域だ。

廃ゲーマーから神ゲーマーへ。


悪くない。

自宅に着いたのは日付が変わりそうな時間だった。

家の中もすでに消灯している。

流石に堂々と帰るわけにはいかず、泥棒のようにこっそり侵入するサクト。


抜き足差し足、二階の自室へゆっくり向かう。

その時、突然階段の明かりが付いた。


――階段の上に何かが居る!

またアサガエリしたっ!


もうお兄ぃのことなんか知らないっ!

大っ嫌い!!!!

ヒメリの怒りは最高点に達していた。

まぁ当然の反応だろう。

怪我した傷心の妹をあれだけ雑に扱えば。


サクトが鏡を見てキスマークに気付いたのは、妹がブチギレて不貞寝した後だった。





Quest6:大人の階段   ――END




Next Quest:星に願いを

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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