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文字数 4,824文字
あまり素早くはないのだが、昼休みということもあり障害物と化した生徒の間を縫って逃げるのはいささか骨が折れる。
どんくさい勇者と違い、ローパーは軽快なフットワーク(?)で廊下を這い回り距離を詰めていく。
足がもつれてすっ転ぶ勇者。
公衆の面前でパンツ丸出しである。
しかしその姿に注目する生徒は誰一人として居ない。
なぜなら今この世界で動けるのは勇者アプリに参加しているプレイヤーとモンスターだけだから。
ローパーの魔の触手が迫る。
声の主の黒ずくめの魔法使いは、昼休みで人気のない体育館に待機していた。
コマンドを詠唱し、勇者のステッキから突風が巻き起こる。
コントロール可能な竜巻は、迫るモンスターを軽々と巻き上げ体育館の中へ吹き飛ばした。
しかしモンスターにダメージはほとんどない。
これは攻撃技ではないのだ。
待機していた魔法使いがロケット花火を放つ。
火線はモンスターではなく、すぐ前の足元に着弾する。
――ズドドドドドドォン!!
ふっ飛ばされてきたモンスターの足元から次々に火柱が巻き起こる。
設置型攻撃魔法『ドラゴンマイン』をあらかじめ複数設置しておき、直接点火(イグニッション)しないでロケット花火で一斉に点火、誘爆させたのだ。
奇跡を現実に実装します
遂に念願のヤキソバパンげっとぉ!!
食堂の一角、行列の出来た購買部で女子生徒が喜んでいる姿がスマホカメラに捉えられている。
勇者ココナのスマホは勇者アプリの現実での機能のひとつ、スキャンモードが起動している。
神頼みをしている人間、あるいは仲間にスカウト可能な人間をカメラに映すことで情報が得られるモードだ。
ただし戦闘を繰り返し経験を積んだものの、ノーコンなので近距離型魔法使いであることは今も変わらない。
その後、戦力アップのために積極的にレベル1のクエストを消化し経験値を稼ごうとしていたのだが、コンビネーションは強化されたもののレベルアップはしていない。
スキャンモードは勇者にしか使えないが、ステータスは現実でも確認出来る。
プレイヤーにしか勇者アプリの画面は見えないが、他プレイヤーの画面を見ることも可能だ。
ココナが顔を寄せサクトのスマホ画面を覗き見る。
向かい合う前髪通しが軽く触れ合う。
ただ今日はちょっと少ないように感じる。
奇跡の効果が関係あるのか分からないが、おかげで隅っこで目立たない席を確保出来たのは幸いだった。
しかしココナは結構目立つので、人の目を気にして挙動不審になるサクト。
サクトの固有スキル、フレイムワークスは花火を模した魔法スキルで、複数点火し時間差で発動出来る特徴がある。
瞬間的に高火力を叩き出すことも可能だが、使用回数制限が結構厳しいので節約しないとスライム戦の時のように弾切れとなってしまう。
ココナの固有スキル、ヘブンズゲートは補助系中心の魔法のようでダメージソースとなるものが存在しない。
翼が生えて空を飛んだり、都合の良い神風を巻き起こしたりと、天使や神などを彷彿とさせる系統のようだ。
唯一の攻撃技が聖剣スキルのクラウソラスだが、レベルアップしても使用回数は3回のままで、若干光刃を発生させている時間が延びただけだった。
ココナのアプリには色別にカテゴライズされたクエストリストが並んでいる。
すべてスキャンモードで情報収集したものだ。
青色クエストは自分から始めない限り強制的に始まることがない、非アクティブクエスト。
赤色クエストは神頼みした人間の一定範囲内に近づくと強制的に始まるアクティブクエスト。
黄色クエストは期限付きの神頼みで、タイムアウトになると赤色クエストに変化する。
基本的に願いがショボいほどモンスターは弱くなり、赤色クエストになると強力な能力が付け足される。
以前に戦ったスライムの超回復のように、元のモンスターが弱くても戦況をひっくり返す能力が付くことがあるのだ。
いつ、どのような状態で戦闘に入るか分からないため、不意打ちで即全滅する可能性もある。
しかし願いの詳細が分かれば、いつ赤色に変わるか予測することは可能だ。
さらに神頼みの内容がクエスト内容にも影響するため、攻略の糸口にもなる。
つまり、リアルでの情報集めも大事と言える。
どういうルートから情報を集めているのか分からないが、学内のことなら大抵のことを知り尽くしている情報屋なのだ。
レベル3ですら未知の領域。
最大レベルは敵、味方ともレベル5らしい。
つまりかなりの高難易度クエストと言える。
さらに赤色になって強化されれば……
どこの誰かも未だに分からないままでいる。
グランドクエストと呼ばれる各勇者に設定されている特殊クエストをクリアすればゲームクリアとなる。
ただし、その勇者パーティーはゲームから開放されるが、他の勇者パーティーはそのままゲームを続けなければならない。
ゲームオーバーはクエスト参加中の全プレイヤーが全滅し、勇者の死が現実に実装されること。
戦闘に参加しなかった仲間達は勇者アプリから開放される。
コンティニューは存在しない。
そして勇者アプリから解放される第三の選択。
それはクエストが生成される仕組みをなくす、つまり勇者アプリそのもののサービスが続けられない状態にすればいい。
しかしサクトにとっては最初からこの選択肢はない。
出来れば飽きるまでこのデスゲームを遊んでいたいとさえ思っている。
ゲームクリアを目指すかどうかは実際リーダーであるココナ次第なのだが、どうもこの手の話題は話したくないようだ。
いや、そういう話をしたいんじゃない。
消防士が危険な仕事だって分かるよな?
それが分かってて消防士は仕事をしてるんだ。
消防士だけじゃない。
世の中には命懸けの仕事をしている人間なんて山ほど居る。
そのほとんどが自ら望んでその職についている。
言いたいことは分かるな?
そういった種類の人間はどういった形であれ、命を懸けても人の役に立ちたいと思ってるもんだ。
そういう人間になら声をかけてもいいんじゃないか?
(ただ一銭にもならないけどな)