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文字数 3,018文字

二人が密会した帰り道、4人は話し合って勇者部の方針を決めた。


レベル4の勇者の要求を飲み、七不思議クエストに協力する。

ただし勇者アプリを壊そうとする相手の目的は邪魔しない、と言う条件がカナセによって付け加えられた。


魔王アプリの事に関しては触れなかった。

意見が対立し、余計なトラブルを避けるためだ。

イズミちゃん、まだ起きてる?
ええ。

女子用に割り当てられた寝室。

二人ともまだ寝付けずにいた。

あのね、さっき朝食の買い出しのためにサクト君に手伝ってもらったというのは嘘なの。

勇者部の方針について話し合ってたんでしょ?

私が居るとこじれるだけだし。


だから後回し。最後に伝えた。

結果的にそうなっちゃったかもしれないけど、除け者にしようとしたわけじゃないよ。

最初は全然別の話を聞いてもらってて……

乙森君は元々あちら側の人間、影浦君と煌咲さんは特別な関係。

私だけ部外者なんだから優先順位が低くなるのは当然だわ。


気を遣わなくていいし、私も全然気にしてない。

乙森君に言われて仕方なくついてっただけだから。

優劣なんかないよ。

私にとってイズミちゃんは特別な友達。


もちろんサクト君も特別だし乙森君や四十万君も……

みんなその人じゃないとダメな特別な関係を持ってると思うな。


例えば……今からする話、イズミちゃんにしか話せないもん。

だから、こっち向いて欲しい。

イズミちゃん、帰りの時からずっと私の顔を見てくれない。

今も隣で寝てるのに、ココナはイズミの背中に語り掛けていた。


――そんなつもりはなかった。

――無意識に避けてたのだろうか。

――でもなぜ? 疎外感を感じたから?


イズミが寝返りを打つと、そこにはココナの泣き顔があった。

実は……私、サクト君を拒絶してしまったの……。

でも、フラれたのは私の方。


泣いていい?

…………。

抱きつかれたイズミはどうしていいか分からず、そのまま固まってしまった。

(私が知ってるサクト君はもう、この世界には存在しない。

気付いたから忘れたんだ。

そして運命が変わった。


これは最良の結果。

友達であり続けるという選択肢が生まれたのだから。


あの時、あの場所で出会わなければ、こんな想いをしなくて済んだのかな?

でも……

出会わなかったとしても、私がサクト君にとって許せない仇である事に変わりない。


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。)

(なんだろう。

凄くモヤモヤする……。)

イズミはこの感情の名をまだ知らない。

暫くすると、静かにココナの寝息が聞こえてきた。







サクトもまた寝付けずに自室で一人、天井を見つめていた。

(ああは言ったものの、昔ココナに何をしたのか気になるな……。


まさか……ガキの頃に「大きくなったら結婚しよう」とかベタなノリ約束して、ココナはずっとそんな事を覚えていたとか……。


いやいや、流石にそんなに幼稚じゃないだろ……。

でもココナの性格ならあり得るか?


だったらやっぱりココナは俺に惚れてたのか?)


ある結論が導き出され、衝撃のあまりサクトは起き上がった。

「ずっと好きでした」―――過去形じゃん!


つまり、現在の俺に幻滅して卒業しましたという事じゃないのか!?


おお、全部辻褄が合うぞ!

あいつ、普通に白馬の王子様願望とか持ってそうだし!


謎が解けてスッキリしたわー!!


あれ、でもなんだか勿体ない事したような……。

スッキリし過ぎて空虚感が……。


……自業自得か。寝よ。

ベッドに潜り込むサクト。

ウトウトし始め……異変に気付いて再び起き上がった。

……ん? 焦げ臭くね?

扉の隙間から赤々とした明かりが漏れている。

嫌な予感がしてすぐに部屋から飛び出した。

なっ!?


おいっ、みんな火事だっ!!

起きろっ!!!

すでにサクトの居る2階はあちこち火の手が上がっていた。

1階はまだマシなようだ。


サクトの脳裏にある光景がフラッシュバックする。

それは自分ともう一人の少年が、燃え盛る火の中である女性を引きずっている光景だった。

あの時とは状況が違う。


ハルっ、乙森っ、ココナと委員長を頼む!


俺はヒメリを連れてく!

すぐさま隣の妹の部屋を開けようとする―――が、バックドラフト現象を思い出して一瞬とどまる。

ガスが溜まった不完全燃焼の密室に、熱された空気が入ると爆発する現象だ。

おいっ、ヒメリ!

起きろ!!

激しく呼び続けるが返事はなかった。


一酸化中毒で気を失ってるかもしれない。

この状況が続けば助かっても脳にダメージが……。


病室で生命維持装置に繋がれた女性の姿が思い浮かぶ。

冷静になろうとするも、焦る気持ちが勝りつつある。

状況から考えると火元は2階か?

まさかヒメリの部屋から?

よく見ると扉の上から黒い煙が出ていた。

中で何かが燃えているのだろうか。


ドアノブが熱い。

サクトは意を決し扉を開いた。

……マジかよ!?

妹の部屋はすでに火の海になっていた。

扉の裏側まで燃え始めている。

嘘だろ!?


ヒメリっ!!

ベッドに人影はない。

いや、ベッドどころか部屋に人影らしきものはないように見えた。

(先に気付いて逃げたのか?


いや、あの足で逃げるには助けを求めるだろう。

トイレか?)

2階のトイレは妹の部屋に近く、そちらもすでに火の海になっていた。

用心しながら伺ってみるも、そこにも人影らしいものは見当たらない。

おいっ、どこだヒメリっ!!

2階の火災の勢いは増し、サクトは仲間の助けを借りるため1階に降りた。

すぐさまリビングのTVの前で座っているハルを発見する。

おいっ、ハル!


何してんだ、起きろっ!

乱暴に揺さぶるサクト。

気を失っているのか起きる様子はなく、ハルはぐったりしていた。

マジ必死過ぎ。

まずは落ち着いたらぁ?

緊張感のない声がサクトの後ろからかけられる。


振り向くとそこに立っていたのはカナセだった。

しかしどこか様子がおかしい。

どう見ても現実じゃないよね?


夢にしては妙にリアルだしぃ、そもそもここどこ?

あんた誰?

乙森、こんな時に何ふざけた事……


いや、まさか……。

TVのリモコンを操作するサクト。

どの放送も一時停止状態だった。

……いつの間にかエンカウントしてたのか。


睡眠時のエンカウントって……反則だろ。

改めて魔王アプリの恐ろしさが分かる。

つまり、その気になれば魔王はいつでも勇者を殺せるということ。

俺はスマホを取りに戻る。

乙森はココナと委員長を起こしに行ってくれ。

まだ質問に答えてくれてないんだけどぉ。


ココナと委員長って誰よ?

どこに居んの?

また魔物に操られてるのか?


乙森、スマホは持ってるな?

持ってるけどぉ、これで起こせばいいの?
ちょっと見せてくれ。

乙森に指示して勇者アプリを操作させる。



クエスト:嫉妬の業火

タイムリミット:01:43:22

参加プレイヤー:4/4


ココナ LV3 HP 100%

サクト LV3 HP 81%

イズミ LV3 HP 100%

カナセ LV2 HP 100%



ログを確認したところ、サクトは火炎によるDOTダメージを受けていたが今はおさまってるようだ。

交戦記録はサクト以外に見当たらない。

誰の神頼みか一発で分かった気がするわ……。


丸腰で一人でスマホ取りに戻るのは危険な気がするな。

仕方ない、自分で呼びに行くか。


とりあえずいつ襲われても戦えるように、お前は変身しとけ。

変身??
「バトルコマンド、たたかう」だ。

え? なにこれ?

マジヤバくない!?

アイドル衣装にチェンジしたカナセのリアクションが初々しい。

様子が変なのは敵の攻撃によるものではないみたいだが、今は原因を探るよりココナとイズミを起こす事が先決だ。

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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