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文字数 2,537文字

迫り来るモンスターの群れ。

ルート上には先のモンスターが踏みつぶし、跳ね飛ばしていった車や通行人の凄惨な姿があちこちに散見している。


イズミはうずくまり、失禁しながら嘔吐していた。

あれだけ大見え切ってやって来たのに、何してるのイズミ……っ!

心は強く持とうとしているのに身体は正直だ。

根は臆病でヘタレな自分を忠実に再現している。

このまま影浦くん達のところへ突っ込ませるわけにはいかない!


無様でもいい、私は私の仕事を果たさないと!

口元を拭い、震えが止まらない両足を奮い立たせ、泣きながらもイズミはしっかりとモンスターの軌道をその目に焼き付けた。
バトルコマンド、たたかう!
戦う意思を宣言し勇者アプリが彼女を戦闘モード、フルプレートの騎士姿へと変身させる。
動けなくたってっ!

その場で再びうずくまって丸くなるイズミ。

情けない姿だが体裁や誇りなど投げ捨て、みんなの役に立つことを誓った。

その結論がこの作戦だ。


先頭のゴブリンライダーが彼女を無視し通り過ぎていく。

これは仕方ない。全部止めるのは不可能だ。

狙いは巨大なダンゴ虫、ボスモンスターのみ。


これは捨て身の賭けだ。

失敗すれば死ぬだろう。


クエストをクリアすれば生き返ることが出来るが、クリア出来なければ勇者には必ず死が訪れる。

だから初めて出来た親友のために、彼女は命を投げ売ってもいいと決心したのだ。

力が足りないのなら、命で止めてみせるっ!!

地響きと共に巨大質量が迫ってくる感覚。

暗闇の鎧の中で彼女はその瞬間を待つ。


巨大ダンゴ虫が彼女に乗り上げた。

こんのぉぉぉぉぉ!!!

それは些細な動きだったが、絶妙に配置された位置関係が最大限に生かせる作用点だった。

彼女に乗り上げて僅かに傾いた重心が大きく動く。

勢いをつけたまま巨大モンスターはビルに激突し、轟音を響かせながら横転した。


押しつぶされている車のように、もしかしたら彼女も圧死していたかもしれない。

しかし彼女の防御力が勝ったのだ。

や、やった……っ!

喜んだのも束の間、ボスモンスターであるマッドクロウラーが転倒されたことで、ゴブリンライダー達のアルゴリズムに変化が現れる。

反転し、プレイヤーを襲うアクティブモンスターと化したのだ。


さらにマッドクロウラーも球形状態を解き、イズミをターゲティングする。

はぁはぁ、間に合って!
青ざめた顔で胸を強く抑えながらココナは懸命に走った。
イズミちゃんっ!?
ココナが追い付いた時、イズミはすでに敵に囲まれリンチに遭ってる状態だった。
聖剣スキル発動、光聖剣クラウソラス!

ココナの魔法のステッキに光の刃が発生する。

イズミに群がるゴブリンライダーを斬りつけようとするが、人型のモンスターであることに一瞬躊躇してしまう。


その隙を見逃さず、リザードランナーのテイルアタックがココナを弾き飛ばした。

きゃあ!!

いとも簡単にダウンを奪われ、魔法のステッキも遠くに転がってしまう。


二体一組のモンスターは同時に別の動きが可能、ヘイトも個別に設定されている。

リザードランナーはココナを警戒しつつ、騎乗しているゴブリンライダーは執拗に曲刀でイズミを攻撃し続ける。


すぐさま起き上がりステッキを探すココナ。

しかしそこにマッドクロウラーのブレス攻撃が放射される。

な、何これ。


痺れて……動けない。

毒霧に包まれて動けなくなったココナが地に伏す。


地面に這いつくばった状態で、イズミが攻撃され続けている様子を見せつけられる。

やめてぇぇぇ!!


狙うなら私を狙って!!

泣き叫ぶココナ。

当然その声がモンスターに届くことはないが、イズミにはハッキリと届いていた。

……煌咲さん!?


影浦くん達と一緒じゃないの?

一つ一つの攻撃によるダメージは軽微で実感はないが、データ上は着実にダメージを受けているようだ。

たとえ1%のダメージでも100回攻撃されれば死ぬ。

HPが一定値を下回り、警告メッセージが響いた。


このまま時間稼ぎ出来れば死んでもいい、そう思っていた。

しかしココナが死ぬところは見たくない。


フルフェイスの顔を僅かに動かすと、倒れているココナの上にマッドクロウラーの巨体が覆い被さろうとしていた。

ココナを押し潰す気だ。

させないっ!

――彼女を死なせてしまうところを見たら、きっと私はダメになる!


しかし自分自身、鎧の重さで動けない。

絶対的な防御力と引き換えなのだ。

煌咲さん、私を呼んでっ!!


アイアンメイデン発動、ナイトオブリベリオン!!

マッドクロウラーの巨体が土煙を上げながらココナにのしかかった。







まさかあいつら……。

戦闘を終わらせたサクトとウララのチームがココナの知らせを聞いて現場に駆け付けた。


――が、時すでに遅かったようだ。

……その身を犠牲にして時間を稼いでくれたんですね。


あと4分あります。

大丈夫、必ず生き返らせますよ。

いや、そうじゃない……。
パーティーのステータスを表示するサクトのアプリには、まだ死亡ログは流れていない。

それどころかずっと攻撃ログが続いているのだ。


よく見るとマッドクロウラーの腹部が僅かに浮き上がっている。

奥で何かがつっかえているようだ。

私は煌咲さんを守り抜くと決めた!


絶対よっ!

マッドクロウラーが断末魔を上げ消滅する。


その下には巨大な盾をパイルバンカーで大地に固定させた、ビキニアーマーの剣士の姿があった。

守られるように倒れていた魔法少女も意識はあるようだ。


ココナの勇者コマンドで懐に召喚されたイズミが盾をつっかえ棒にし、装甲に覆われていない腹部を攻撃し続けたのだ。

もはや鉄壁の騎士じゃなく絶壁の騎士だろ、あれは……。

これが彼女の新たなコマンド、鎧を盾と剣に変える技。

しかし本人はほぼ防御力ゼロの状態となる。


スタイルが露になったイズミのビキニアーマー姿は公開処刑状態だった。

クエストクリア

奇跡を現実に実装します








突如目の前に出現する柔らかい温もり。

激しい破壊音が襲い掛かり、状況を思い出す。

そうだった、俺達は……。
顔を上げると、暴走車が直前でスリップし電柱に激突、横転しているのが見えた。
君達、大丈夫!?

あっちにも被害者がたくさん居る!

早く救急車を!!

俺が……神頼みに助けられたのか?
あの……そこお尻なんですけど……。
サクトの右手はうつ伏せに倒れているウララのむっちりとしたお尻の上にあった。
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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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