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文字数 2,537文字
迫り来るモンスターの群れ。
ルート上には先のモンスターが踏みつぶし、跳ね飛ばしていった車や通行人の凄惨な姿があちこちに散見している。
イズミはうずくまり、失禁しながら嘔吐していた。
心は強く持とうとしているのに身体は正直だ。
根は臆病でヘタレな自分を忠実に再現している。
その場で再びうずくまって丸くなるイズミ。
情けない姿だが体裁や誇りなど投げ捨て、みんなの役に立つことを誓った。
その結論がこの作戦だ。
先頭のゴブリンライダーが彼女を無視し通り過ぎていく。
これは仕方ない。全部止めるのは不可能だ。
狙いは巨大なダンゴ虫、ボスモンスターのみ。
これは捨て身の賭けだ。
失敗すれば死ぬだろう。
クエストをクリアすれば生き返ることが出来るが、クリア出来なければ勇者には必ず死が訪れる。
だから初めて出来た親友のために、彼女は命を投げ売ってもいいと決心したのだ。
地響きと共に巨大質量が迫ってくる感覚。
暗闇の鎧の中で彼女はその瞬間を待つ。
巨大ダンゴ虫が彼女に乗り上げた。
それは些細な動きだったが、絶妙に配置された位置関係が最大限に生かせる作用点だった。
彼女に乗り上げて僅かに傾いた重心が大きく動く。
勢いをつけたまま巨大モンスターはビルに激突し、轟音を響かせながら横転した。
押しつぶされている車のように、もしかしたら彼女も圧死していたかもしれない。
しかし彼女の防御力が勝ったのだ。
喜んだのも束の間、ボスモンスターであるマッドクロウラーが転倒されたことで、ゴブリンライダー達のアルゴリズムに変化が現れる。
反転し、プレイヤーを襲うアクティブモンスターと化したのだ。
さらにマッドクロウラーも球形状態を解き、イズミをターゲティングする。
ココナの魔法のステッキに光の刃が発生する。
イズミに群がるゴブリンライダーを斬りつけようとするが、人型のモンスターであることに一瞬躊躇してしまう。
その隙を見逃さず、リザードランナーのテイルアタックがココナを弾き飛ばした。
いとも簡単にダウンを奪われ、魔法のステッキも遠くに転がってしまう。
二体一組のモンスターは同時に別の動きが可能、ヘイトも個別に設定されている。
リザードランナーはココナを警戒しつつ、騎乗しているゴブリンライダーは執拗に曲刀でイズミを攻撃し続ける。
すぐさま起き上がりステッキを探すココナ。
しかしそこにマッドクロウラーのブレス攻撃が放射される。
毒霧に包まれて動けなくなったココナが地に伏す。
地面に這いつくばった状態で、イズミが攻撃され続けている様子を見せつけられる。
泣き叫ぶココナ。
当然その声がモンスターに届くことはないが、イズミにはハッキリと届いていた。
一つ一つの攻撃によるダメージは軽微で実感はないが、データ上は着実にダメージを受けているようだ。
たとえ1%のダメージでも100回攻撃されれば死ぬ。
HPが一定値を下回り、警告メッセージが響いた。
このまま時間稼ぎ出来れば死んでもいい、そう思っていた。
しかしココナが死ぬところは見たくない。
フルフェイスの顔を僅かに動かすと、倒れているココナの上にマッドクロウラーの巨体が覆い被さろうとしていた。
ココナを押し潰す気だ。
――彼女を死なせてしまうところを見たら、きっと私はダメになる!
しかし自分自身、鎧の重さで動けない。
絶対的な防御力と引き換えなのだ。
戦闘を終わらせたサクトとウララのチームがココナの知らせを聞いて現場に駆け付けた。
――が、時すでに遅かったようだ。
それどころかずっと攻撃ログが続いているのだ。
よく見るとマッドクロウラーの腹部が僅かに浮き上がっている。
奥で何かがつっかえているようだ。
その下には巨大な盾をパイルバンカーで大地に固定させた、ビキニアーマーの剣士の姿があった。
守られるように倒れていた魔法少女も意識はあるようだ。
ココナの勇者コマンドで懐に召喚されたイズミが盾をつっかえ棒にし、装甲に覆われていない腹部を攻撃し続けたのだ。
これが彼女の新たなコマンド、鎧を盾と剣に変える技。
しかし本人はほぼ防御力ゼロの状態となる。
スタイルが露になったイズミのビキニアーマー姿は公開処刑状態だった。
クエストクリア
奇跡を現実に実装します
突如目の前に出現する柔らかい温もり。
激しい破壊音が襲い掛かり、状況を思い出す。
あっちにも被害者がたくさん居る!
早く救急車を!!