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文字数 2,880文字
喫茶『ナインボール』を出た後、ココナの家に寄る予定だったがイズミとは駅で別れることになった。
電車の扉が閉まる。
車内のイズミに向かって笑顔で手を振るココナ。
照れ臭そうにイズミは手を振り返した。
一本の傘を共有する二人。
荷物持ちのサクトの両手が塞がっているので、ココナが傘に入れてあげる形になっている。
そう言いながら身体を寄せてくるココナ。
気まずそうに少し離れようとするサクト。
確かに妹は歳が離れているからか、「かまってちゃん」なところがある。
あの日見た古びたアパート。
ココナはここの二階に住んでいる。
玄関までという選択肢もあったが、今日のクエストについて話したいこともある。
やましい気持ちもなくはなかったが、平静を保つよう自分自身に言い聞かせて入室するサクト。
あの時はクエスト中だったこともあり、じっくり家の中を観察するのはこれが初めてだ。
居間の他には小部屋が二つ。
スライド式の戸で仕切られてはいるものの、開けっ放しなので丸見えだ。
一つはぬいぐるみで飾られた女の子らしい部屋。
少し年齢層が低く見えるがココナの部屋だ。
もう一つは仏壇が目立つ殺風景な部屋。鏡台とタンスくらいしかない。
多分電話した時に言ってた母親の部屋だろう。
生活感がなく、ココナが言った通り暫く家を空けているようだ。
ポットに水を補充しながら再びとんでもないことを言い出す。
今度は勘違いでも何でもない。
半身がぐっしょり濡れ、ブラジャーがうっすら透けているココナの姿に今更気付く。
変に避けようとしたせいで、サクトが濡れないよう自分が犠牲になっていたのだ。
流石に罪悪感を感じる。
そう言って一度自分の部屋に寄った後、バスルームへ消えていく。
衣擦れの音がし、すぐにシャワーの音が響いてきた。
ちゃぶ台の前で思わず体育座りになり、ポットのお湯が沸くのをただじっと見つめて待つ。
脳内に変身シーンで見たココナの裸体が浮かんでは消える。
サクトは気分を紛らすものがないか周囲を見回した。
カレンダーに書き込まれている予定は母親の字だろうか?
ココナの丸っこい筆跡とは明らかに違う。
いつから母親が居ないのか分からないが、ゴミの日などちょっとしたメモ程度。
その中でひと際目立つのが7月7日の花丸だ。
男友達にプレゼントを渡す習慣もないのに、ココナにだけ渡すというのも変な話だ。
それこそ意識してる証明になる。
そんなことをするのは、せいぜいうるさく催促してくる妹くらい。
親に渡してたのも幼い頃だけだ。
シャワーの音に混ざって可愛らしい鼻歌が聞こえてきた。
――多感な男子高校生が居るのに自由だなっ!
また妄想が膨れ上がる。
リセットボタンはどこだ!?
隣の部屋の仏壇に飾っている写真が目に入った。
目を凝らせばギリギリ分かる距離だ。
一緒に映ってるのは父親だろう。
母親は見切れており、父親の表情がよく分かるアングルとなっている。
わざわざそんな家族写真がそこに置いてあるということは……。
………………。
……何だ?
何かがひっかかる。
喉元まで出かかってるのに出てこない異物感。
見覚えがあるような、ないような……。
長袖シャツ一枚に短パンというラフな姿でココナが戻って来た。
サクトが難しい顔をして仏壇を見つめていることに気付く。
わざとらしく視線を遮るように身を乗り出し、テーブルの上のポットに手を伸ばすココナ。
サクトの前にシャンプーの香りと共に柔らかそうな太腿とお尻が現れた。
さらにシャツの裾からブラチラし……
――理性が死ぬ!!
逃げ出すという選択肢もあったが、下半身の状態から動くに動けなくなってしまったのだ。
平静を取り戻すためにそれを一気に飲み干すサクト。
制服の生地は黒いから目立ちはしないが……確かにこの状態で電車に乗るのはキツい。
結局洗って乾かすまで時間がかかるので、夕飯まで食べてく流れになってしまった。
下着ははいたままで上からバスタオルを巻く形になっている。