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文字数 2,009文字

…………。

人見知りの激しい妹が賑やかになったリビングを、敵意丸出しの目で階段から伺っている。


恐らく一晩中兄とゲームするつもりだったのだろう。

リビングにはたくさんのゲーム機とソフトが並べられていた。

あ、ヒメリちゃん、久しぶり!
……誰?

あれ? 忘れられてる?

ハルにぃだよ。

オムツだって変えてあげたことあるのに。

ッ!?

どんだけ前の話だよ。

ほら、お前が保育園行ってた頃、面白いお姉さんと一緒に遊びに来てただろ?

あぁ、アキねぇの金魚の糞……。

思い出してくれたのは嬉しいけど、辛辣……。


ヒメリちゃん、初めまして。

私はココねぇだよぉ♪

(あざとい……。)

ワイはカナにぃや。

待たせてすまんなぁ。

飛び切り美味い晩飯こさえるさかい、もうちょい待っててな。

えーっと私は……。

いいんちょでいいぞ。

どうして私だけ名前じゃないのよ!


前から思ってたけど、いい加減委員長って呼び方やめてくれない?

イズミって呼んで欲しかったのか?

そっ……、そっち?

名前覚えてるんだ……いや、アプリに表示されてるし……ゴニョゴニョ


……別にどっちでもいいけど?

赤くなってプイっと横を向く委員長。ツンデレか。

どうやらあんまり歓迎されとらんようやなぁ。

いつの間にか妹の姿が消えていた。

たぶんまた部屋に引きこもったのだろう。

ああもう、めんどくさい奴め。
悪いことしちゃったかなぁ。
……シスコン。

ただの人見知りだ!

いい加減社交性身に着けさせないとな。

サクトが言うかね。

ヒメリちゃん、あれでも学校じゃモテモテなんだよ。

へぇ、そうなんだ。

可愛いもんね。

どこが?

どう見ても並だろ。

ただゲーム好きで話が合う男子が多いだけだ。

女として見られてねーよ。


つか、なんで小学校事情まで知ってるんだよ、お前は。

兄離れ、妹離れ、どっちの方が先になるのかしら。

言っとくがシスコンってのは冗談だからな!?


俺は妹の事、可愛いだなんて思ってない!

おにぃ、これ返すね。

いつの間にか妹が戻って来ていた。

リビングのテーブルに本を置くと、小慣れた様子で松葉杖をついて2階に戻って行く。

ヒメリちゃん器用だね。

私だったらあんな風に階段上れないよぉ。

ほほぉ、これはこれは。

宣戦布告とちゃうか?

置かれた本を見てニヤけるカナセ。

サクトに戦慄が走る。

なんてもの妹に見せてるのよ!

最っ低っ!!

……やっぱり大きい方がいいんだ。
『巨乳お姉さんの朝まで生奉仕』――それが本のタイトルだった。
あのクソガキぃぃぃ!!





―――――――――――――――――――





『いただきまーす!』


男3人、女3人。

かつてここまで賑わったことのない影浦家のリビングには食卓が追加され、その上にはカレーライスとフルーツサラダ、そしてよく分からないぐちゃぐちゃの卵料理が6人分並んでいた。

……フッ。

「この程度か」と言わんばかりのヒメリの表情。

そう、彼女(?)達は試されていたのだ。

嫌味な小姑かよ。

これは……お金になるね!

最初にカレーを口にしたハルの一言。

こいつは普通に美味いと言えんのか。

どや。ワイとココナっちのコラボカレー。

一見普通のカレーやけど、カレー粉の調合から始めた本格派や。

いや、ほんとお前ナニモンだよ。
その言葉に触発されるようにヒメリもカレーを口に運ぶ。
……っ!?
あ、ごめん。辛かった?
……美味しい。
少しは大人になったか。

イエーイと手を合わせるココナとカナセ。

ちなみにサラダも二人で作ったらしい。

こっちのフルーツで彩られたマッシュポテトも中々美味い。

問題はオム……スクランブルエッグだが……。

(救いようがないこの一品、俺が救ってやるか。)
ドバーっとカレーにぶっかけるサクト。
何やってるの、おにぃ。

カレーに卵は鉄板だろ。

うん、美味い。

…………。

それは失礼だよ、おにぃ。

せっかく美味しいカレーが台無しだよ。

――失礼はお前だよ!


社交辞令を覚えたかに見えたが、ただストレートに感想を述べただけだった。

慈悲の無い素直さに打ちひしがれるイズミ。

わ、私もちょっと辛いの苦手だから卵かけよーっと。

ココナのフォローがもはや痛々しく感じる。

気まずい空気を変えるためにカナセが話題を変えた。

さぁて、この後のイベントやけど、みんなでゲーム大会なんてどうや?
……ニヤッ。

「ちょっとアドバンテージ取ったからっていい気になるなよ。

今度はこっちがゲームでボコボコにハメ殺して絶望の味をご馳走してやる」


そういう顔だ、これは。

えー、ゲームなんてつまんない。

せっかく夏だし若い男女が集まってるんだからさ、ホラー映画でも見ようよ。

とっておきの持って来たし。

げほっげほっ。


テ、テスト勉強に決まってるでしょ!

まぁまぁ。

ヒメリちゃん、お兄ちゃんと遊ぶつもりだったところお邪魔しちゃったんだし、少しでいいからみんなで遊んであげようよ。

その後勉強教えて、イズミちゃん。

そ、それもそうね。
さすがココナっち。優しいなぁ。
あの、僕の意見は……。
……プッ。
「遊んであげる? 遊んでやるのはこっちだよ」の顔だな、これは。
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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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