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文字数 2,413文字
委員長の内藤イズミが影浦サクトと煌咲ココナに提案する。
そろそろ梅雨も明けようかという昼下がり。
三人は人気のない旧校舎の空き教室に集まっていた。
放課後は溜まり場になることもあるが、限られた昼休みにわざわざ離れの旧校舎を利用する生徒は滅多に居ない。
各々の昼食をつつきながらここに集まるようになったのは委員長の提案だった。
委員長が新しく仲間に加わり、彼女は勇者アプリから逃れる術を提案するようになった。
普通の人間の普通の反応だ。
しかしサクトにとってはいい迷惑だった。
じゃあ委員長だけ試してくれ。
それで結局逃れることが出来ず、アプリの機能を使えなくなっただけになっても知らないぞ。
ただバッテリー切れててもクエスト中は使えるし、スマホの買い替えのことだって女神様は考えてるだろ。
そもそもこのアプリはスマホの中に入ってるようで、データとしてはどこにも存在してないからな?
無駄だと思うぜ。
委員長の戦闘経験はまだあの一回きりだった。
自ら死地に赴くには心の準備が出来ていない。
彼女は気を強く持とうとしているが、本質は極度のビビリなので身体の方が動かないのだ。
簡単なクエストで慣らしていこうというサクトの提案もまだ受け入れられずにいる。
クエストが始まっても逃げるという選択肢は存在する。
しかし勇者だけはそれが認められず、勝つか負けるかしかない。
だからこそ委員長もデスゲームを回避する方向に必死なのだ。
この話は平行線を辿りそうだ。
サクトにとってはぶっちゃけどうでもいいことなので、仕方なく奥の手を使うことにした。
クエスト初日に女神様が言ってたシステムである。
任意で発動出来るがクエストと違って他のパーティーのプレイヤーは参加出来ない。
例のもう一人の勇者の特定に使えるかと思ったが、無理そうなので別の目的のために温存しておくことにしたのだ。
別の目的とは戦闘訓練ではなく、任意で時間を止められることによって発生するリアルのメリットのためだ。
それこそカンニングだってやりたい放題。
そんなことに使うつもりはないが、きっと何かの機会に使いたくなることがあるかもしれない。
少し考えた後、保留の意思を伝える委員長。
もしかしたらサクトと同じことを考えたのかもしれない。
えっと……私一人暮らししてて、そろそろ日用品とか色々買い足さなきゃいけなくて、冷蔵庫も空っぽだし、しっかりきっちりしてる人の意見も聞きたくて、力持ちの人も欲しくて、せっかくだから琴吹市の量販店に行きたくて、ついでに家も案内したら勇者部も出来るし……
サクトも委員長も両親はどうしたと気にはなったが、お互い突っ込まないように話題を逸らした。
色々と複雑な家庭なんだろう。
それを察してか、ココナの唐突な提案に乗ってあげることにした。