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文字数 3,631文字
彼女の性格から事情を察したようだ。
今日はあの日と違ってそこそこ客が入ってる。
夜の店に変身したからだろうか?
あの日と同じ定位置に座ってる人物も居る。
探偵のメグムだ。
目が合い軽く会釈するサクト。
スタッフルームと言っても狭い事務室のようなものだった。
奥に従業員用の更衣室がある。
大人が一人入れるくらいだが。
更衣室から半裸の若い男性が着替えながら出てきた。
思わず両手で顔を覆い反対を向く、女性らしい反応を見せるウララさん。
ココナとはえらい違いだぜ。
それはこっちのセリフだろうがよっ!
入って来るなら言え、部外者!
つか、なに学生連れ込んでるんだよ、淫乱占い師。
落ち着いたところで折り畳み机を囲んでパイプ椅子に座る三人。
あ、俺?
気にすんな。
どうせまた勇者アプリとか言うスマホゲーのことだろ?
あんたらも必死だな。
そこにメグムも入って来た。
経緯を説明するウララ。
メグムは一瞬だけ考える素振りを見せ、口を開いた。
俺は超口が堅いから安心しな。
ミナのような尻軽女とは違う。
詐欺計画を話し始めても誰にもチクったりしねぇよ。
不安ならこのステージ終わるまでちょっと待ってくれよな。
あぁっ、糞がっ!
喋りながらやってたせいでミスしちまった!
ちと早いがシフトインしてやったらいいんだろっ!?
ぶつくさと文句言いながら店舗に消えていくアルバイトの男。
彼はプレイヤーではないが全く無関係というわけでもない。
彼も俺が連れて来た訳ありの人間だ。
まぁ一般人の反応なんて案外大したことないんだがな。
実際体験出来なきゃ信じるはずもない。
普通のゲームの話をしているようにしか聞こえんさ。
君も最初はそうだったろ?
ウララが額の汗を拭った。
いつもほんわかしてるウララが一瞬動揺したのだ。
それほどとんでもない情報を伝えようとしてるのだろう。
サクトが黙って頷くと、扉にもたれながらメグムは続けた。
察しがいいね。
そう、神はただシステムを作っただけに過ぎない。
神頼みをクエスト化しているのは、魔王アプリを持つ人間による手作業なのさ。
つくづく神は直接動きたくないらしい。
俺はこの天才的な推理力で遂にそれを突き止めた。
ウララの指摘通り、この後武勇伝を語るつもりだったのだろう。
段取りを台無しにされ、フリーズするメグム。
――いや、故意に避けたのか?
混乱し口調が適当になる。
だが軽いノリとは裏腹に事の重大さは十分サクトに伝わっている。
考えても見てください。
魔王だって何も勇者を苦しめるためにクエストを作ってるわけではありません。
魔王は人々の願い叶えるためにクエストを作り、下請けの勇者がクリアして現実に実装する。
ただそれだけなんです。
ご想像の通りです。
私達が依頼者を集め魔王がクエスト化、その成功報酬を分配しています。
もちろん魔王にも手数料をお支払いしていますよ。
人々は悩みを解決され、携わった人間は正当な報酬を得るため後腐れもありません。
誰も損をしないシステムです。
こんな私達を汚い大人だと軽蔑しますか?
ウララとメグムがまっすぐサクトを見つめる。
試されているのだ。
僅かでも動揺すれば見込み違いということになる。
――ふっ。
サクトの口角が吊り上がる。
心なしか瞳が少し潤んでいるようにも見える。
自分勝手な願いを神頼みし、叶えてくれなきゃ「神は死んだ」と言われる。
いつからこんなシステムがあるのか分からないが、昔はいちいち聞き入れていた時代があったのかもしれない。
嫌気が差したのか面倒臭くなったのか分からないが、勇者アプリと魔王アプリは神の奇跡を『民営化』したシステムなのだ。
ウララの張りつめた顔が笑顔になる。
メグムも帽子で目線を隠しているが、笑っているのが見て取れる。
そちら側の人間として認められたのだ。
今話したことはすべて理想論だ。
実際は上手くいってないから犠牲者が出る。
そもそも新たな勇者と魔王が生まれるメカニズムはまだ分かっていない。
俺の時も突然女神に「今日から貴方は勇者です」って言われただけだからな。
だからせめて今活動している全ての魔王とコンタクトを取りたい。
仲間には内緒で君の地域の魔王探し、協力してくれないか?
そしてサクトをそちら側に引き入れたい理由だろう。
魔王も君達にバレないか、ギリギリのところで活動してるんだよ。
勇者を殺して来たのが魔王であることには変わりない。
人々のためにやっていることだが、使い方を間違えば証拠の残らない殺人者と同じだ。
憎しみの連鎖が広がる前に、俺達が魔王を保護し管理する必要がある。
それはつまり予定調和の茶番劇でもある。
恐らくすでに事件は起こってしまったのだろう、リアルで。
さっきのアルバイトの男はその関係者なのかもしれない。