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文字数 2,291文字

猫に入れ替わったのか?


すばしっこくて厄介だぞ……

再び現れたパラサイトデビルは黒猫の姿に変わっていた。

攻撃力は落ちたが簡単に捕まえられそうにない。

これは現実じゃない!

人を救いたいなら俺の命も救ってみろ、勇者ココナ!!

うぅ……

ごめんね、クロにゃん!

スマホ画面をタップし、光聖剣クラウソラスを発動させるココナ。

ステッキと化したスマホの先端に光の刃が形成される。

当たってぇ!!
――ブォン!


――ブォン!

やべぇ、まるで当たる気がしない……。


何だよ、そのへっぴり腰は!

光の刀身が時間切れで消失する。
筋肉質なお尻じゃなくてごめんっ!
尻じゃねぇ!


くっ、あと2回か。


俺が動きを封じる!

少しの間逃げ回ってろ!

スマホ画面でスキルリストを確認するサクト。
とは言え、俺もノーコンだからな……。


レベルアップで増えた技を試してみるか?

ドラゴンマインを選択するサクト。

設置場所を叩いてくださいというメッセージが表示される。

地雷型魔法か。


イグニッション!

地面を叩き、点火する。


詠唱時間を表す導火線が表示され、その長さからタイミングを計る。

煌咲さん、こっちへ来い!


全力ダッシュ!

まったく全力に見えないヘナチョコダッシュだが、運動音痴なのも想定のうち。

近付いてきたココナの腕を強引に引っ張り、もう片手で用意していた魔法を発動させる。


スタンクラッカー。いわゆる爆竹だ。

音と光で怯む黒猫。

伏せろっ!
きゃっ!
ダイナミックボンバーで自分自身がダメージを受けないのは確認済みだが、ココナもダメージを受けないとは限らない。

覆いかぶさるように押し倒し、衝撃からココナを守る。


直後、ドラゴンマインの激しい炎が大地から噴出し黒猫を吹き飛ばした。

ダメージを与えられなくても!
黒猫の落下点に飛び込み、捕まえて羽交い締めにする。
フギャー!!
今だ!!
虐待するような嫌な構図だけど……ごめんね!!
聖剣を発動させ、その切っ先でツンツンとニ、三度突付くココナ。
……動かなくなった。
クロにゃん死んでないよね?
傷一つ付いてないが……
メッセージログを確認するサクト。


勇者ココナの攻撃

パラサイトデビルに12%のダメージ

パラサイトデビルは逃げ出した

逃げたのか……


だがダメージは入るようだな。

あの……影浦くん、今度はシロにゃんが……
シロにゃん?
ココナが指差す方向には猫の集会所だろうか、多数の猫が固まっている。

その中から一匹、白い猫がゆっくりこっちに歩いてくる。


すぐさまスマホカメラでスキャンするサクト。


パラサイトデビル LV2 HP88%

……ちなみにあの集会に他のお友達も居るか?

ブチにゃん、ミケにゃん、シバにゃん……


みんな友達だよぉ
何となく分かってきたぞ……。


スネークモーフ、イグニッション!

杖の先端からモコモコと炭化した燃えカスが蛇のように伸び出てくる。

いわゆる蛇玉だ。

フニャー
上手くいったか。


じゃれついてるうちに逃げるぞ!

白猫が灰色の物体に興味を示している間に、ココナの手を引き駆け出す。
はぁっ、はぁっ……もう走れないよぉ
じゃあおぶされ、早く!
屈んでココナが背中に乗るのを待つサクト。
で、でも……私、もしかして重いかも……
んなこと気にしてる場合か!


俺より重くても俺は気にしない!

それは言い過ぎだよぉ! たぶん……
サクトは170cm以上あるがココナは150cm台。

体格差は明らかだが、その一言で決心が着いたのか素直に従うココナ。

……足手まといでごめんね
最初から期待してない


……と言いたいところだが、煌咲さんが天然なおかげで見えてきたことがある。

え?

もしかして汗でブラ透けてた!?


そういえば私、汗くさいかも……

そうじゃねぇ!

臭くもないしむしろ……いや、何でもない。


一つ確認しておきたいことがある。

ワキガじゃないよ。
もうツッコむのもめんどくせぇ……。


最初に襲ってきた男子学生とはどういう関係だ?

もしかして嫉妬してる?


ちょっと嬉しいような……

……時間がないの分かってる?
え、えっとその……

お付き合いを申し込まれて……


でも友達で居ようねって……

なるほど。これで辻褄が合う。


敵が煌咲さんしか狙わないのも多分そういうことだろう。

どういうこと?
敵は煌咲さんが一方的に友達だと思い込んでる相手に憑依するんだよ。


クエスト名にもなってるイマジナリーフレンドってのは本来、本人にしか認識出来ない都合のいい空想の友達のことだ。

しかしこの世界では煌咲さんの空想の友達像が逆の感情を持ち、実在の人物に乗り移って襲って来てる。


どこか自分でも後ろめたい感情を伴っているのを自覚しているから、牙を剥くのかもしれないな。

そんな……
そして恐らく、目標を見失ったりダメージを受けると近くの別の対象にスワップする。

一匹ずつしか来ないのはそういうことだと思う。


この辺に俺の知り合いは居ないからな、次に会う煌咲さんの知り合いは敵になってると思うぞ。


たぶんコイツは本人にしか倒せない。

俺が苦手とするめんどくせぇ心のクエストだな。

でも聖剣はあと1回しか使えないよ?


倒せる自信ない……。

安心しろ。

ロジックが分かったからには勝機はある。


闇雲に逃げてるわけじゃない。次で決着をつけてやるよ。

煌咲さんでも絶対に当てられるはずだ。


ただツンツンはなしな。

あ、ごめん。

乳首当たってた?


恥ずかし……

ちがぁぁぁう!
だって影浦くん、耳まで真っ赤……


もしかして怒ってる?

当たり前だ!


(初めてなんだよ、こんなに女の子に密着するの。察しろ。

こんなこと、リアルではもう絶対しないからな!)

もう歩けるし、追ってきてないから降りるね……。

チャンスは一度切りだ。

次は全力で切り裂いてくれよ!

分かった……。


(私サクトくんを怒らせてばかりだな……)

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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