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文字数 3,328文字

クエスト:トイレの神様

タイムリミット:01:55:02

参加プレイヤー:3/3


ココナ LV1 HP100%

サクト LV2 HP87%

やっぱりもう一人の勇者もいるな。

この学校の生徒か教師、どちらかと考えて良さそうだ。


今後のことも考えて顔合わせしておきたいところだが……。

ねぇ、このクエスト名って……。

どう考えてもテスト中にウンコ行きたくなった奴の神頼みだろ。

尻を狙って来たのも関係ありそうだ。


確かに緊急かもしれんが、こんなことに神頼みするとか……どんだけ切羽詰まってるんだ。

手遅れになる前にトイレ行けよ。

でもその気持ち分かるなぁ。

先生にトイレ行きたいって言うの、凄く勇気いるもの。


小学生の時、何回かおしっこ漏らしちゃったことあるし。

漏らすよりマシだろ……。

ってか1回やったら学習しろよ……。


……そうだ、学習と言えば。

周りを見回すサクト。

時間は止まるが記憶は失われない。

悪用しようと思えばいくらでも悪用出来る仕様だな。


現実への還元という点では、これ以上分かりやすい例はない。

サクトくん、カンニングはダメだよ。

見損なうなよ?

そんなチート行為で俺つええしたってつまんねぇ。

むしろ後ろめたい十字架を背負い続けるだけだ。

自分の力で屈服させることに意味があるんだろうが。


ま、チートに頼る雑魚に後ろめたい気持ちなんてないだろうがな。

口は悪いけどやっぱりサクトくんはサクトくんだね。
は?
ううん、なんでもない。
じゃあ、モンスター退治に行くぞ。
廊下の様子を確認し、教室を出るココナパーティー。

……ねぇ、サクトくん。


このログも気になるんだけど。

ウォシュライムはHPを回復している


カメラで調べたモンスターはシステムログに表示されるようになる。

このゲームの攻略において、欠かすことの出来ない情報源だ。

……HP自動回復持ちか。

隠れんぼされると厄介だな。


ん?


おいおい、ちょっと待て……!

戦闘時のログまで遡る。


ウォシュライムの攻撃

サクトに9%のダメージ

ウォシュライムはHPを回復している


ウォシュライム LV1 HP101%


勇者ココナの攻撃

ウォシュライムに75%のダメージ

HPが初期値を超えて回復してやがる……。


さっさと見つけて倒さないとヤバイことになるんじゃないか?

急いで濡れた天井の跡を追う。

階段を登り4階へ。

湿った跡は女子トイレへと続いていた。

サ、サクトくん、ストップ!


私が見てくるよ!

途中の女の子が中に居るかもしれないし!

ん? ああ、そうだな。


じゃあ任せた。

女子トイレの床一面がぬめっている。

スライムはここで一度床に落ちたようだ。


恐る恐る個室へと向かうココナ。

回復の条件は何だ?

時間経過によるパッシブタイプか、吸収アクションによるアクティブタイプか……。


後者だとしたらあの浣腸攻撃か?

だとしたら個室の中に居る女子生徒は……。

――コンコン。

ごめんください、入ってますか?

膝の力が抜けるサクト。

廊下から天然ボケ勇者にツッコミを入れる。

時間が止まってるんだから返事出来るわけねぇだろ!

敵に気付かれるだけだ!


今すぐ覗くか扉をぶっ壊せ!

勇者が覗くなんて……!
俺のことを何度も覗いてる奴のセリフか!?

うぅ、ごめんなさい!


脳内フィルターかけるから覗かせてね!!

ガッと個室ドアの上端に手をかけるココナ。


しかし、その体勢のまま固まってしまった。

……私、懸垂一回も出来ないんだった。
膝に来ていたサクトはついに崩れ落ちた。

もう飛べよ……。


そういう技持ってただろ?

まさかサクトくんに初披露の天使の羽を、こんな形で使うことになるなんて……。
俺もガッカリだよ。

渋々スマホ画面でスキルリストを呼び出すココナ。

どうやらコマンドを覚えてないようだ。

しかしこれだけ騒いでるのに反応がないな。


もうここには居ないのか?

……!?


サクトくん、後ろっ!!

スマホ画面から目を離した瞬間、ココナが叫んだ。


ウォシュライムの攻撃


すぐに振り向いたが、あまりに予想外の場所から攻撃されたため反応が遅れる。

触手がサクトの後ろの窓ガラスを割り、サクトを掴んで校舎の外へと放り投げた。


ここは4階。

当然普通なら落ちればただで済まない。

んなぁあああ!?

ダイナミックボンバーで落下速度を相殺出来るか?

いや、出来たとして導火線(詠唱時間)が長くて間に合わない!

ダメージはどれくらいHPで肩代わり出来る?


落下が始まる。

次の瞬間には地面に叩きつけられているだろう。

サクトくん!


掴まって!!

魔法少女が飛び出し、翼のついたステッキを差し伸べる。


サクトは反射的に手を伸ばし、片手でステッキを鷲掴みにした。

良かっ……あっ……
サクトがステッキを掴んだ際の些細な衝撃で、ココナは思わず手を滑らせてしまった。
ばっかやろぉぉぉ!!

ステッキを失い自由落下していくココナ。


しかし不幸中の幸い。

その下には中庭の噴水池が……


――いや、違う。


噴水から触手が伸びる。

まるで腕のようにココナを捉え、四肢の自由が奪われた。


スライムは10メートル四方の池の水と一体化するように膨れ上がり、ワーム状となってとぐろを巻いていた。

もはや巨大なウンコである。

……らめぇぇぇ!!

滞空させていたステッキの翼が突然消失し、サクトも落下する。

だが、すでに地面とは近く大したダメージは受けなかった。

これも一定時間で消える仕様らしい。

ダイナミックボンバー、イグニッション!!


待ってろ、ココナ!

これだけデカくなりゃ外しはしねぇ!!

着地と同時にスキルを発動させ、さらに命中率を高めるためスライムの元へダッシュする。

狙うはスライムの真ん中に埋まってる目玉のような部分。

恐らくアレがコアとなっているのだろう。

大きく成長したことでよく見える。

コアを中心に神経のようなものが張り巡らされ、それで身体を動かしているのだ。


杖の先端をコアへと向け、導火線が燃え尽きる。


しかしその一瞬、膝下までズリ下ろされたココナの純白の聖三角形に気付いてしまう。

勇者コマンド!


サクトくん、見ないで!!

火球が着弾し、爆風がココナのスカートをめくり上げる。


スライムを狙った火球はクリーンヒットに至らなかった。

……また逃げられたか。
スカートの前を押さえながら、ペタン座りしているココナ。
えっと、その……ごめん。


つい……。

…………。

強制的に目を逸らせたことで当てられず、さらに貴重な勇者コマンドを使ってしまったことを詫びるココナ。

しかし勇者コマンドを使っていなくても、注意が逸れたことで当てられなかっただろう。

哀しいかな、男のスケベ心。

サクトくんが複雑な顔してる……。はっ!


もしかして生えてないか疑ってる?

証明できないけど、生えてないよ! 信じて!


ちなみに生えてないって言うのは毛のことじゃなくておちn……

んなこと疑ってねぇ!

そ、そうなんだ。


てっきり男の娘疑惑を向けられているのかと……

ココナのボケに付き合ってたらタイミング逃すから今言っておく。


助けてくれてありがとな……

おかずに困ってたんだ……。


でも感謝されても複雑な気分だよぉ。

天然ボケに付き合っててもキリがないので無視、サクトは攻略分析を始めた。


ログを確認すると、スライムのHPは3倍以上に膨れ上がっていた。

このままではまずい、制限時間内に倒せなくなってしまう。

ただでさえスキルには回数制限があるのに……。


スライムは水分を吸収して大きくなるようだ。

そしてダメージを与えて小さくなると水道管を通して移動出来る。

どこまで行けるのかは分からないが、回復している間は水場の近くに居ると考えて間違いないだろう。

さらにデカくなる前に決着をつけないとな。


おい、そこの痴女。股間に注目するな。

じゃあどこに注目すれば……。
背後にある旧校舎の時計塔を指差しながら吠える。

時間だよ!


時間をかけるほどこちらが不利になる。

ウンコ野郎に殺されるのだけは勘弁だぜ!!

え、でも……あれれ~?


クエスト終わったのかな?

何言って……。


時計が……動いてる??

時間が動き出したのではない。

時計塔の針がデタラメに動いているのだ。

……なるほど、ビッグベンか。

ビッグベンとはロンドンにある有名な時計台のことだ。

旧校舎の時計塔はそれにちなんでビッグベンという愛称で呼ばれることがある。

最後の舞台におあつらえ向きの場所だ。


大きな便はちゃんと流さないとな。

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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