8-8

文字数 2,117文字

はっ!?

自分の部屋の天井。

クエストが終われば一時停止していた状態まで遡る。

それは周りの環境だけでなく、プレイヤー達も同じだ。

という事は、ココナ達は今眠っている。

夢の続きを見ているのだろうか?

二人が抱き合って寝ている姿を思い出す。

なんだかんだ言って見た目は二人ともハイレベルだ。


一体何が行われていたのか……思わず性欲が込み上げてくる。

そう言えば乙森は?


今、リビングはハルと二人きり。

まさか……。

部屋から1階の様子を伺う。


僅かに聞こえてくるTVの音。

まだホラー映画を見ているのだろう。

いつの間にか隣の男の中身が別人に変わっていた、それもある意味ホラーだな……。


まぁ、何も起きないだろ、たぶん。


あいつはまたネタを手に入れたと喜んで隠すタイプだ。

乙森も女になったからと言って特に何かするわけでもないだろう。

…………。

部屋に戻ろうとした所で、妹が隣の部屋から覗いている事に気付いた。


――お前もホラーかよ!

おにぃ、またアサガエリしに行くの?

行くか!

というか、お前絶対意味分かってないだろ!

じゃあ寝てもいい?

見張ってるつもりか!


俺は寝る!

お前も勝手に寝ればいいだろ!

……いいんだ。
何か企んでそうな雰囲気だったが、色々あってサクトももう限界だった。

ベッドインしてすぐ深い眠りについた。






――――――――――――――――――

サクト君、朝だよぉ!

いい加減起きてー!

エプロン姿のココナが部屋のノックをする。

ん……朝か。

なんでココナの声が?


ああ、そうか。

あいつら泊ってるんだっけな。

昨日は結局勉強出来なかったんだから、さっさと起きなさいよ。

明日から期末テストなのよ?

うるせぇ!

もう起きてるっつーの。


日曜なんだしもっと寝かせろよな……。

そう言って二度寝するんでしょ!


せっかく煌咲さんが朝食作ってくれたんだから、冷めないうちに起きなさい!


あとヒメリちゃんもついでに起こ……して……

言いながら扉を開けたイズミの顔がみるみる真っ赤になっていく。
いや、キレ過ぎだろ。

サクト君……そういう関係だったの?

今親が居ないからって、それはまずいんじゃ……。

はぁ?

うるさいなぁ……。

なぜか傍で妹の声がした。

ちょ、おま……!

なんで俺の部屋に居るんだよ!


つか、なぜ脱いでるっ!?

おにぃが一緒に寝ていいって言ったもーん。

下着姿の妹が二人に見せつけるようにサクトに迫ってきた。
言ってねぇよ!


また変な勘違いしやがって!

キモイからやめろ!

隠したいのは分かるけど、そんな言い方は可哀想だよ……。


隠した方がいいのは下半身じゃないかな?

ッ!?


ちょ、違うっ!

これは朝起きる生理現象で、妹に欲情したわけじゃない!

なるほど……そういう事だったのね。


勘違いした自分が恥ずかしい……。

そう言い残し、二人とも去っていった。


まさかこれが奇跡の効果なのか!?

こんな運命のねじ曲がり方を体験するとは……。

おい、いつまでくっついてんだ。
撃退成功と満面の笑みを浮かべる妹を無理矢理引き剥がし、サクトは起死回生の打開策を考え始めた。

あのな、ヒメリ。

お前が大人になった事を認めて本当の事を話してやろう。


付き合ってるのはココナと委員長だ。

ついでに言うとハルと乙森も付き合ってる。


そういう漫画見たことあるだろ?

俺はあいつらが二人っきりになれるよう、宿を貸してやっただけだ。


だが秘密の関係だから絶対誰にも言っちゃダメだぞ?


ぽかーんとするヒメリ。

(よし、効いてる。

目には目を、歯には歯をだ。

ハルと乙森はとばっちりだが許せ。)


だからちゃんと誤解は解いておこうな。

分かった。

おにぃボッチで可哀想だし許してあげる……。

待てやこら。

お前に同情されるほど落ちぶれてない。

その後の勉強会で、ヒメリがイタズラを認めた事で事態は収束した―――と思う。たぶん。





―――――――――――――――――――



じゃあ明日また学校で!
夕方、玄関先で3人を見送った後、サクトの口から大きなため息が漏れた。

お疲れ。


僕らの青春時代もまだ捨てたもんじゃないね。

もう二度とやらん。


お前は帰らないのかよ?

いいじゃない、近所なんだし。


ちょっと仮眠してから帰ろうかなぁ。

いや、自分の家で寝ろよ。
……ねぇ、金魚の糞。

まだ馴染んでくれないんだ……。


何だい、ヒメリちゃん?

アキねぇは今何してるの?


また手品見せて欲しいなぁ。

エンカウントしたわけでもないのに一瞬時間が凍り付いた。

サクトにはそんな風に感じた。

そっか、ヒメリちゃん小さかったもんね……。


アキねぇはね、お空のお星様になったんだよ。

だからもう手品を見せてあげられない……。

…………。
じゃあもう金魚の糞じゃなくて、ハルにぃだね。
そう言ってヒメリは家の中に戻って行った。
……やっぱそろそろ帰ろっかな。
そうしとけ。
―――帰り際、手を振ると二階の窓からヒメリちゃんが手を振り返してくれるのが見えた。

(……これでハッキリしたよね。


サクトはあの事故の事は覚えてた。

忘れたいと願ったのは、姉さんが病院に運ばれてからの彼女との記憶だけだ。


つまりサクトにとって一番辛く許せなかった事は、姉さんを助けられなかった自分に対してではなく……)




「煌咲ココナが姉さんを殺した事だ。」






Quest:8 秘密の花園  ――END




Next Quest:奇跡のパラノイア

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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