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文字数 2,834文字

普段は利用する者がほとんど居ない旧校舎の時計塔。

昼休みに集まる時はよく利用していたのだが、今日は七夕イベントで女生徒の出入りが激しい。

いつもの屋上から旧校舎方面を見下ろすココナとイズミ。

イズミちゃんは個人的にお願いしないの?

勇者アプリのおかげで神頼みは卒業したわ。

もっとも、関わってなくてもこういうイベントは近寄りがたいし。


学生時代の恋愛なんて、ただの遊びじゃない。

別に恋占いにこだわらなくてもいいんだけど……。

もしかして気になる人が居たり?

い、居ないわよ!

どうせ別れるの分かってるのに、みんなバカじゃないの?


煌咲さんの方こそ、勇者アプリのことは抜きにして願い事ないの?

…………。

七夕は友達と夢を語り合える素敵なイベントだと思うよ?

でも7月7日はいい思い出がないから、楽しんでる人達を眺めてるだけで十分。


今日も悪いこと起きなければいいけど……。

……何か悪いジンクスでもあるのかしら?

待たせたな。

臨時勇者部を始めるぞ。

サクトが少し遅れて到着した。

しかし一人ではない。部外者を一人連れている。

一同、揃っとるな。

乙森くん?


どうして……。

俺達が探してた奴だよ。

あっさり仲間になりたいってこいつの方から言って来たんでな。


今まで接触を躊躇ってきたのはココナに会わせる顔がなかったんだと。

え、え~と、それはどういう……。

ワイの償いはまだ終わってへん。

詳しくは言えんけど、一緒に戦いたいという乙女心はホンマモンやで。

いや、おまえ男だろ……。

サクトくんがいいって言うのなら……。

別にいいだろ。減るもんじゃないし。


おまえら、一緒に戦いたがってたじゃないか。

??
私バカだからよく分かんないけど、サクト君を信じる。

今まで散々助けてもらっておきながら、あまり乗り気じゃないココナの様子に一瞬違和感を覚えるサクト。

たぶん、もう一人の勇者がこういうキャラクターだったことにショックを受けただけなのだろう。

かく言うサクトも正直、こんなチャラチャラした関西野郎に負けていたとは思いたくなかった。


アドレス交換をしているココナと乙森を尻目に、サクトは委員長に声をかけた。

で、早速だがレベル2のブルークエストで共同戦線を張ろうと思う。

お互いの手札を確認するためにな。


いいだろ、委員長?

どんな神頼み?

七夕イベントを盛り上げたいっていう生徒会役員の願い事だ。

楽勝だろ、これくらい。


委員長も新しい戦い方に慣れて欲しいしな。

そういう願い事なら……分かったわ。


盛り上がらなくてもクエストは生成されるし、どうせならクエスト情報が集まる方がいい。

じゃあココナ、委員長の了承も貰った。

休み時間に言ってた生徒会書記のブルークエストを開始してくれ。

うん……。

――クエストエンカウント


ココナがクエストを受注し、世界の時間が凍結する。

ほぉ、こいつはワロてまうわ!

ホンマに時間止まってるやん!

……何言ってんだ?
クエスト開始の乙森の第一声は、空中で静止している鳥を見ての発言だった。
いや、まさか……俺としたことがとんでもない勘違いを!?

すぐさまアプリのステータスを確認する。



クエスト:ブラックオアホワイト

タイムリミット:01:59:40

参加プレイヤー:5/5


ココナ LV3 HP 100%

サクト LV3 HP 100%

イズミ LV3 HP 100%

カナセ LV1 HP 100%

マジかぁぁぁぁっ!?

ココナが躊躇った理由が分かった。

乙森カナセはレベル4の勇者ではなく、パーティーの一員になりたかった一般人だったのだ。

そしてアドレス交換してると思いきや、4人目のパーティーメンバーとして加入の手続きをしていたのだ。

あ、貴方を信用した私もバカだったわ……。

サクトの絶望している様子から同じ勘違いをしていたことに気付くイズミ。

多少違和感を感じたものの、乙森の加入を止められなかったことを悔いる。

じゃあ早速ヤリ方を教えてんか?







バトルコマンド、たたかうでぇ~!

こうなってしまっては後の祭り。

教えられた通りスマホを操作する乙森カナセ。

薔薇のエフェクトに包まれ、彼の学生服が弾け飛ぶ。
きゃあああああ!
両手で顔を覆い、後ろを向く委員長。

そんな普通女子の反応とは対照的に食い入るように見つめるココナ。

サクトの視線に気付いて我に返る。

べ、別にサクトくんと比べようと思ったわけじゃないよ?
ナニを比較しようとしてんだ、ムッツリスケベ。
へぇ~、こいつはおもろいやん。
変身を完了した乙森の声に違和感を覚え、三人が一斉に彼の方に向き直ると……予想外過ぎる姿にしばし絶句する。
女になってるじゃねぇか!?
サクトのツッコミに応えるように、くるっと可愛く一回転し自己紹介を更新する。

偶像の狩人、乙森カナセ。

あんさんのハートに直撃やでぇ!

バキューンと、銃に変化したスマホを向ける乙森。

彼はアイドルのような衣装に身を包む美少女ハンターに変身していた。


よく見るとシンメトリーに反転しメイクアップされているものの、顔はそのまま。

イケメンと美女は紙一重ということなのだろう。

しかし彼が女になったことを証明する、たわわに実った膨らみがポヨポヨと揺れていた。

私より大きいかも……。

男の子に負けるなんて、なんだか複雑な気分だよぉ。

自分の胸を触りながら正直な感想を述べるココナ。
そんなこと言ったら委員長が余計みじめになるからやめて差し上げろ。
…………。

あ、ちなみにこれ本物やで。

下もなくなってもうた。


サクトっちも触ってみるか?

男同士やし気にすることあらへん。

だめぇ! 男同士でも絶対ダメだよぉ!

おまえは俺のことを見境の無い狼だと思ってんのか?


そこまで落ちぶれてねぇ!

とは言うものの、ウララやミナコに会ってなかったら危なかったかもしれない。

こういう変身もアリなのかよ。

自分の身体を猥褻な目的に使わなければどうだっていいわ。

その辺は心配あらへん。

ワイの心は両生類やからな。

性同一性障害……とはまた違うのだろうか?

よく分からないが本人が開き直っているのならそれに合わせてやるだけ、サクト以外の二人もそう思ったようだ。


そんなことよりもっと大事なことを確認しておかなければならない。

私が確認しておきたいのは、貴方がなぜ勇者アプリを知っていたのか。


さっき軽くレクチャーした時に、盗み聞きしてただけって言ってたけど本当にそれだけ?

あまりに順応が早過ぎる。

委員長が言うのももっともだ。

普通は夢か幻か、疑いから始まるものである。

噂に聞いてたけど堅物やなぁ、イズミっちは。

夢や希望に溢れた若者の中には、本気で異能の存在を信じてる人間もおるっちゅうことや。

そんなんやからペタンコのままなんやで。

んなっ!?
心の中で思っていても言い辛いことをさらっと言ってのける。

バイセクシャルの特権か。

ココナっちを助けたいというハートさえ持ってればええやん。


そんなことよりクエストや。

制限時間があるんやろ?

…………。

そう言えばこいつ、なぜココナにこだわる?

勇者であるがゆえのメリットとデメリットまで、本当に盗み聞きだけで知り得たのか?

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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