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文字数 2,428文字

この日は午後から土砂降りだった。
あーあ、結局止まなかったね。

窓の外を眺めながら四十万ハルが呟く。


授業が終わり帰宅部の帰る時間。
通り雨だと思っていた空模様はより一層崩れていた。

傘持って来てるけどマシになるまで雨宿りするべきか、さらに激しくなる前に強行手段に出るべきか、それが問題だ。
勇者部を始めるにも、今日は屋上使えないな。

勇者部を校舎屋上でひっそり行っているのには二つの理由がある。


一つは鍵が壊れていることを知られておらず、人目につかず二人きりになれること。
もう一つは上からクラブ活動や帰宅する生徒を広域撮影でチェック出来るから。
そうやって毎日勇者カメラを覗きながら、クエストやプレイヤー情報を集めているのだ。
しかし他のパーティーのプレイヤーはスキャン出来ない仕様なのか、例の勇者は映ったことがない。

あれ、委員長帰るの?
この土砂降りの中を?
帰宅しようとする委員長に声をかけるハル。
堅物の委員長に用もないのに話しかけるのは、彼くらいだ。
委員会の仕事もないし、無駄に時間を潰す理由もないもの。
勉強するなり委員長ならではの時間の過ごし方あるじゃない。
今日はそんな気分じゃない……。

なぜか委員長は焦っているようだ。

冷汗が頬を伝う。

……ふぅん。

……何か言いたげね。


まさか……

私のこと、どこまで調べたの!?

さぁ?
聞きたかったらそれなりの誠意を見せてくれないと。

貢物を要求するハル。

そう、彼はこういう人間だ。
誰にでも話しかけるが友達は少ない、その理由がコレだ。

真面目で正義感の強い委員長を怒らせると厄介だぞ。
俺知~らねっと。
影浦サクトの席はハルの後ろ、且つ委員長の隣の窓際に位置する。
挟まれているサクトは空気を読んで逃げだすことにした。
昼休みにも言ったけど、人の秘密を売るなんて最低よ!
一体何人に私のこと話したの!?

委員長のことを売ったことはないよ。


ただ僕より彼の方が良く知ってるんじゃないかな?
だって煌咲ココナといつも一緒に居るのは、こっそり逃げ出そうとしてるそこの影浦サクトだよ。

なぜそこでココナの名前が出てくるのか意味不明だが……俺を巻き込むな!
ま、まさか……。
どういうことなの、影浦くん!
俺が聞きたいわ!
じゃ、あとはよろしく!
ウインクひとつ残し、この隙にハルは逃亡に成功した。
あの野郎……!
煌咲さんとはどういう関係なの!?
何だ? 痴話喧嘩か?
影浦が煌咲さんに浮気したんだと。
影浦くんって三次元に興味あったの?
煌咲さん、今度は影浦かよ。
影浦と委員長付き合ってたの?
委員長趣味悪すぎ……。
残っていたクラスメイトが口々に勝手な噂をほざき始める。
クラスで空気同然だったが故にあることないこと言いたい放題だな、おい。

そういう関係だったんだ……。

その騒めきの中にいつの間にかココナまで含まれていた。
教室の入り口で立ち聞きしていたようだ。


こういう時俺はどういう顔をすればいい?
笑えばいいのか?

――ドンガラピシャァァァン!!


思考をかき消すように、突如激しい轟音と振動に襲われ照明が一斉にダウンする。

うおっ!? 雷落ちた?
校舎も揺れたし!
びびったぁ!

騒然とする教室。
俺達のことはすっかり忘れられ、落雷の話で持ち切りになる。


助かった……と言いたい所だが。

ぐすっ……。

俺は半泣きで震えている委員長に抱き着かれていた。
もうテンパリ過ぎて脳がはち切れそうだぜっ!

くそっ、俺はこのくだらない現実をひっそり日陰で過ごしたかったのに、こんな姿見られたら変な噂立っちまうじゃねぇか!


えぇい、そこのポンコツ女! ガン見するな!

てっきりサクトくんは童貞だとばかり……。

責任は取った方がいいと思うよ。

どこまで飛躍するんだ、この天然ボケは。

クエストエンカウント


突如システムメッセージがアナウンスされ、世界が一瞬赤色に染まる。

赤色クエストに遭遇したのだ。

このタイミングでか。
助かったような、面倒なような……。

何はともあれ脳の処理が追い付かない。
とりあえずメンタルリセットしてクエストに専念しよう。


一時停止されたこの世界では、基本的にプレイヤーとモンスターしか動けない。
しかし止まっている人間も物理干渉を受ければ慣性に従う。
抱き着いている委員長の重みをしっかり感じながらそっと壁際に移動させる。


――こんな顔してる委員長は初めて見たが、雷が怖いなんて可愛いところあるじゃん。

などと思いながら、怪我をさせないように丁寧に座らせていく。
力の抜けた人間は重く感じるらしいが、座らせるだけでも難しい。

――ちょっとお尻や太腿に触れるが許せ。

ん? なんかスカートがびっしょり濡れて……。
まじか、委員長……。

ただ雷が怖かっただけじゃなかった。
泣いてた本当の理由を理解してさらに困惑するサクト。


その一部始終をずっと固唾を飲んで見守っていたココナの一言。

ここで起きた出来事は巻き戻るけど、女の子にエッチなことするのは良くないと思う……。

放置するとどこまでも妄想が羽ばたくな、お前は。


言っとくけど誤解だからな?

分かってるよ。

遊びだったんだよね。

……もうめんどくせぇ。どうでもいいや。


バトルコマンド、たたかう。

音声入力コマンドに従って戦闘用コスチュームが学生服の上から装備される。
黒ずくめのとんがり帽子にマント、スマホは杖へと変化する。
バトルコマンド、たたかう……。

ココナもコマンドを実行する。

脱力した姿勢のまま、光に包まれて魔法少女に変身するココナ。
しかし変身プロセスの一部始終をうっかりサクトの前でさらけ出してしまった。
サクトと違って下着に至るまで全身フルチェンジのココナは、一瞬全裸になってしまうのだ。

ちょ、おまえ……。
鼻血を堪えているサクトの姿を見て、ハッと我に返るココナ。

あっ、やっちゃった!


べ、別に嫉妬して誘惑しようとしたわけじゃないよ!?

お前と違って分かってるっつーの!
胸の傷痕……見られたかな?

モロに見てしまった。

やっぱりチビの癖に体つきはエロいな。


……にしても、アレは手術痕か?

なんとなく聞いちゃいけない気がする。

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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