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文字数 2,377文字
お隣の琴吹市はオフィス街や大型商業施設も多く、近所で最も活気ある中心街だ。
あいにく天気は曇り空で、もしかしたら一雨来るかもしれない。
そのためか普段よりは人通りが少し少ないと感じるココナであった。
用事を済ませ駅に向かう二人の後を、まるでストーカーのようにサクトだけ距離を取って歩いている。
しかもキョロキョロと挙動不審だ。
何年ぶりだっけか。
あの頃はハルとよく来たもんだが……案外この辺も変わったよなぁ。
お、あのゲーセンはまだやってるじゃん。
俺が荒らしたスコアも残ってるかな?
久々に覗いてみたいが委員長はこういうの嫌いそうだしなぁ。
……それこそ勇者アプリにうってつけだろ。
絶対その客逃がすなよ。
聞き覚えのある単語に反応し、すぐさま振り向くサクト。
人込みの中、電話中のサラリーマンや若者は大勢居る。
――どいつだ? この中に勇者アプリの関係者が?
そもそも自分が知ってる『勇者アプリ』のことを言ったのか?
まさかこの人込みの中で大声で尋ねるわけにもいかず、サクトは反転し電話中の人間の会話を盗み聞き探すことにした。
携帯電話が鳴った。
どうせ二人からだろう。
しかし今は通行人の会話を聞き逃すわけにはいかず無視する。
ほどなくして目星をつけて同じ方向に歩いていた人間の電話はすべて終わった。
結局特定出来ず収穫はなかった。
繁華街に到着してから二件目である。
だが荷物持ちをさせられていたサクトもそろそろ小腹が空いてきた。
一件目ではドリンクしか飲まなかったので、ピザかサンドイッチを食べたい気分だ。
指示通り指定の喫茶店へ向かうことにする。
駅の高架下で信号待ちをしていると……
突如次々と悲鳴が聞こえてきた。
そちらへ視線をめぐらすと、暴走車がカーブから現れ歩道に突っ込んで来ていた!
咄嗟に自分も避難しようとする……が、目の前で信号待ちをしていた女性が足をもつれさせて転んでしまった。
サクトの中に思い出したくない光景がフラッシュバックする。
どうしていいか分からず、反射的に彼女を庇う様に覆いかぶさってしまう。
――判断を誤った。死んだな、これは。
そう観念したサクトだが、その瞬間は訪れなかった。
危機一髪のところでデスゲームが開始された。
きっと誰かが神頼みしてくれたのだろう。
だが安心するのはまだ早い。
神頼みした人間が近くに居れば、そこにモンスターもポップするのだ。
音声入力でコマンドを実行し、迎撃態勢を整えるサクト。
黒ずくめのハットとマントが装着され、スマホは杖へと変化する。
足元から女性の声がした。
考えるまでもなく、今覆いかぶさった女性が発したものだ。
しかし時間が停止した過去と未来の狭間のこの世界で、動ける人間はプレイヤーのみ……。
高速で突っ込んできたモンスターを目にも止まらぬ早業で掴み、その勢いを利用して投げ飛ばした。
スケスケフリフリの衣装が舞い踊る。
先ほどと同じモンスターがさらにもう一匹、いや複数の同型モンスターが同じ方向からやって来た。
トカゲのようなモンスターに小鬼が騎乗して爆走している。
サクトも迎え撃つ態勢を取ろうとしたが、すぐにキャンセルせざるを得なかった。
さらに奥から地響きと共にバカデカいモンスターの影が見えたからだ。