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文字数 2,372文字

ここは……私のアパート?
ここで決着をつける。
通行人が居ない道を選び、サクトが目指したのはクエストのスタート地点だった。

アパートの前に人がいないのも最初に確認済みだ。


サクトは作戦の内容をココナに伝えた。

あのね、影浦くん。

やっぱり逃げようよ……。


エリアの端っこだからすぐに逃げられる。

ココナ LV1 HP78%

サクト LV2 HP31% 毒


ココナのダメージは少ないがサクトは余裕がない。

これまでのようにかばい続けるのは難しい。

さらに毒を受けているため、戦いが長引けば確実に死ぬだろう。

まぁ勝率は五分五分ってとこか。

一撃で仕留められるか分からないしな。


それに肝心の主役がやる気ないなら勝率はもっと低くなる。

俺の作戦が信じられないのなら仕方ないな。

違うの!

私の手に影浦くんの命が懸かってると思うと、さっきから震えが止まらないの。


おしっこに行きたかったわけじゃないよ?

……俺だってこんな消化不良のまま死にたくない。

じゃあトンズラするか。


だが最後にもう一度訊く。


煌咲さんは本当にそれでいいのか?

人助けしたいって口だけで殆ど何もしてないじゃないか。

……いいよ。


この人の願いは別に叶わなくてもいいの。

命を賭ける価値なんてない……。

知り合いの神頼みだったのか?
とてもくだらない神頼み……。


だからもう逃げよ?

その分、明日から影浦くんが満足するくらい他のクエストに挑戦するから。

そういや逃げた場合、神頼みそのものはどうなるんだ?
それは……その……消えてなくなるだけ……。
…………。


なぁ、ずっと言うべきか迷ってたけど今言わせてもらう。


後ろめたいことを隠している時、目を逸らす癖があるよな?

普通に喋ってる時はこっちが恥ずかしくなるくらい見つめてくるのに。

そ、そんなこと……
ほら、目を逸らした。


……もしもし女神様?

はい、GMの女神です。


何かお困りですか?

全員逃げてクエストエリアに誰も居なくなった時、この神頼みはどうなるんだ?
そもそも全員逃げることが不可能です。


勇者だけは絶対に逃げられません。

勝つか死亡するか、その二択です。

……………。
やっぱりな。

何かおかしいと思ったんだよ。


俺を逃した後一人で戦う気だったんだろ?

だって……サクトくんが死んじゃったら、私が勇者になった意味も、今生きてる意味も全部無意味になっちゃうんだもの!
ま~だ何か隠してるな?


まぁいい。時間ないしさっさと始めるか。

止めたいなら力づくで止めてみせろ。

痛い! そんなの無理に決まってる!


ズルいよ、サクトくん!!

力任せにココナを引っ張り、二階の煌咲宅の前に立つ。
予想通りならイージーミッションだ。


いくぞっ!

扉を開け放ち奥へと進む。

目指すはココナの自室。


パラサイトデビル LV2 HP88%


カメラに捉えた対象のステータスが表示される。

ほら、言った通りだろ?


あとは聖剣ぶっ刺すだけだ。

動かないんだから余裕だろ?

敵は人形に憑依していた。

人形なので微動だにしない。


ホラー映画のように飛び回ったりすることも考えられたが、先に戦った相手に超常的な運動能力は備わっていたなかったためその可能性は低いと考えていたのだ。


ココナが最後の聖剣を発動させる。

うぅ……。


ごめんね、ムーちゃん……。

光の刃が振り下ろされる。


『私なんて生まれて来なければ、お父さんは死なずに済んだのに』

『友達なんていらない。恋人もいらない。私がこの世界に来た目的は……』


人形の声がココナだけに語りかける。


――いや、これはココナ自身の声だ。

いやっ……!


言わないでぇぇぇ!!

おいっ、どうした!?
ココナの攻撃

パラサイトデビルに80%のダメージ

パラサイトデビルは逃げ出した

心を覗かないで!
おいっ、しっかりしろ!


くそっ、後ひと押し足りなかったか!

サクトくんっ、私は!!
サクトに抱きつき泣き崩れるココナ。


しかしそんなココナをサクトは突き飛ばした。

……サクト……くん?
くっそ、プレイヤーも対象かよ……
サクトの皮膚が緑色に変わっていく。
聖剣はもう使えない。

毒も……耐性が付いてやがる。


俺が抵抗出来てるうちにステッキでもいいから殴り殺せ!

ぐしゅっ、出来ないよぉ……
出来なくてもやれ!


どうせクリアすれば生き返るんだ、遠慮すんな!!

(私がサクトくんを友達だと思い込んだから……

もし一方的な想いが魔物化させるんだとしたら……)


勇者コマンド! サクトくん、私と友達になって!!

バカか。

勇者コマンドは1クエストに1回きり。

もう使っただろうが!

でもサクトくん怒ってばかりだし、私のこと嫌いだよね?
殆どボケに突っ込んでただけだろうが!

そもそもお前みたいなやつは難しく考え過ぎだ!


友達なんてそんな高尚なものじゃねぇ。

ボケとツッコミ出来たらもう友達なんだよ!!

え?

ごめん、私バカだから気付かなかった……


じゃあとっくに私達友達だったの?

言わせんな、バーカ!
願いが成就されました

クエストは破棄されます

は?













アパートの階段を重い足取りで上がっていく女性。

煌咲という表札の扉の前で一呼吸置き、ゆっくり鍵を開けて入る。

ただいま……。
返事はない。

だが誰も居ないわけではない。

娘の部屋から話し声が聞こえてくる。

『そ、それでね。

せっかく友達になったんだし、下の名前で呼んでいい?


え? もう呼んでた?

ごめぇん、気付かなかった♪』

気配に気付き、電話を中断するココナ。
あ、お母さん。お帰り!
ただいま。お友達と電話?


すぐに晩御飯の用意するね。

『ううん、クエストじゃないよ。

お母さんが帰って来ただけ』


(お母さん、私のために神頼みしてくれてありがとう。

明日からお母さんが遠くへ行っても、きっと大丈夫だから)

人形を抱きかかえながら通話を再開するココナ。
(きっと友達だと信じ切れていなかったのは私の方。

あの時一瞬、私はサクトくんのことを……)




Quest2:イマジナリーフレンド  ――END



Next Quest:トイレの神様

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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