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文字数 2,555文字
勇者アプリはこの世の理とは異なる超常理論で動いているため、電源が切れていようが問題なく利用できる。
マップ情報からココナがこの病院のどこかに居るのは確実だ。
ウララ達に応援を頼むか迷う。
エンカウントしてからでは遅い。
だがエンカウントするかどうかも分からないのに呼び出すのも躊躇われる。
やはり最善の策はさっさとココナを見つけることだ。
ただこの巨大病院の中で見つけるのは時間がかかりそうだ。
ロビーで座って待つサクト。
焦りのあまり無意識に貧乏ゆすりを始める。
実際には呼び出してからさほど時間は経ってないだろう。
だが病院という特別なシチュエーションがサクトの冷静さを奪っていく。
特にこの琴吹市立中央病院は彼にとって忘れられない、初めて人の死を目の当たりにした場所なのだ。
アプリ画面は変わらず、ココナの位置がサクトに重なっていた。
突然見知らぬ女性が背後から声を掛けてきた。
白衣の看護師……いや、大学の研修生のようだ。
名札から名前も確認出来た。『皆川ミナコ』。
ミナコ……?
どこかで聞いたような……。
いや、よくある名前だ。気のせいだろう。
口調は軽いが、鋭く目を細めるミナコ。
勇者の集いのメンバー達とは雰囲気が違う……そんな気がして身構えるサクト。
恐らく後ろから勇者アプリの画面を覗き見て確認したのだ。
勇者アプリは無関係な人間には何も映って見えない。
しかし勇者というところが油断出来ない。
勇者は仲間にも言えない秘密があり、未だに信用出来ないところがある。
ココナとメグムは同種のもの、だがこの女は何となく違う気がする。
なぜそんな風に思うのか上手く説明出来ないが、今の表情、サクトはどこかで見た気がした。
しかも良いイメージではない。
再び目を鋭く細めるミナコ。
そう言ってスマホを取り出しアドレスを送るミナコ。
耳元で囁くミナコ。
甘い吐息がサクトの鼻をくすぐる。
微笑みながらミナコは業務に戻って行った。
ほどなくしてミナコの言う通り、制服姿のココナが現れた。
やっぱり理解してなかったな、こいつ。
だが『聖域』とやらのことはまだ話さない方がいいだろう。
そう言ってハンカチを取り出し、俯いて顔を覆うココナ。
――ずびぃぃぃ!
やっぱり鼻もかむのかよ。
俯いてハンカチを当てたまま、ココナは隠していた事情を話し始めた。
泣き顔を覗き見るほどサクトも下衆ではない、自ら視線を逸らし黙って聞いてやる。
神頼みの法則性が気になり始めたのは事実。
しかし『聖域』に関することはまだ話すべきではないだろう。
それがどういったものなのか分かっていない。
ただ、安全であることは間違いないようだ。
そうでないと色々破綻してしまう。
こういう時、ココナの表情を確認するのが癖になっていた。
嘘をつくときココナは必ず顔に出る。
だがまだハンカチを覆ったままで、その表情は分からなかった。
出来るならそうしてやりたいとこだが……奇跡の代償は大きい。
こいつはいざとなったら一人でチャレンジしかねない。
ストーカーみたいになってしまうが、病院に行くときはこっそり付いていった方がいいだろう。
駅でココナと別れ、サクトは琴吹市に残った。
目的はもちろん皆川ミナコに接触するためだ。
このデスゲームを完全攻略するにはもっと多くの情報が必要だ。
何か企んでいそうな気もするが、その情報をどう利用するかは俺次第。
口止めしなければならないほどの裏事情――
聞いてみる価値はある。
俺はもう一つ先のステージへ行くぜ!
スマホを取り出し皆川さんのアドレスを検索する。
一瞬画面に反射した自分の表情にデジャヴュを感じた。