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文字数 1,896文字

登校前に仏壇の前で独り言を語るのは、一人暮らしを始めてからココナの日課になっていた。

あの頃の私はお父さんのことが大嫌いだった。

今はお父さんの気持ちが分かるようになったよ。


でもごめんね、私はそっちに行けない。

たくさんの人を不幸にして、嘘もたくさんついてる。

きっと地獄行きだから……。

サクトを自宅に招き入れた日の出来事を思い出す。

サクトくんはいずれお父さんの事に気付くと思う。

その時は私のことも思い出してくれるかな?


……ううん、今のサクトくんは私が知ってるサクトくんとは違う。

思い出さない方がいよね……。

ココナは仏壇に飾っていた写真立てをそっとうつ伏せに寝かせた。







――というわけで、配布した短冊に願い事を書いた人は旧校舎の前の笹に飾り付けてください。
2年5組の朝のホームルームが終わり、配られた短冊を見つめるココナ。

今日は七夕。

そして私の17歳の誕生日……。


今までで一番嬉しくない誕生日かも……。

あら、煌咲さん。

もしかして願い事を書くつもり?

声を掛けられて見上げると、クラスのイジメグループに囲まれていた。

咄嗟に笑顔を繕うココナ。

書かないよぉ。

私は幸せになっちゃいけない人間だもの。

よく分かってるじゃん。

私には必要ないから……

良かったら使って!

差し出された短冊を、リーダー格の女がココナの手ごと払った。
哀れみのつもり?
そんなつもりじゃ……。

私も自分が幸せになりたいとは思わない。

望みはただ貴方が不幸になること。

それだけよ。

そう言い捨てるとリーダー格の女は教室を出て行った。

おお、こわ。

西条が恨む理由ってウチらと違うの?

そういえば彼氏が居たって噂も聞いたことない。

ブリッ子ココナたんに聞けばいいんじゃね?

ごめん、知らない……。

おい、お前ら席に着けー。

授業始めるぞ。

一限目の教師が入室し、舌打ちしながら解散するイジメグループ。
西条さん……。
――コツン。
紙飛行機?

周囲を見回すココナ。

なんだかんだで進学校であり、授業中は静かなものだ。

中には内職している者も居るが、真面目に授業を受けている生徒は多い。


よく見ると紙飛行機はハート型にアレンジされており、翼には自分とサクトの名前が書かれていた。

イジメグループの嫌がらせかと思ったが後ろの席には誰も居ない。

ココナの席は最後尾であり、紙飛行機は背中から当たったのだ。

どうやって当てたんだろ……。

このまま放置するわけにはいかず、疑問に思いながら拾い上げると中にメッセージが書かれていることに気付いた。


『今日の放課後、いつもの屋上で二人の恋を成就させます。――キューピットより』

予告状??

ますますイタズラの可能性が高い内容だったが、ココナはすぐに意図に気付いてしまった。

匿名のつもりだったのだろうが、彼女は勇者であるがゆえに犯人に心当たりがあった。

今度は私を標的にしてくれたんだ。

嬉しいけど成就しないよ、絶対に。


……だって私が望んでいないもの。







ハルにあんなこと言った手前、今やるしかないよな。
サクトは一限目の自習授業を抜け出し、旧校舎前に設置された笹に短冊をくくりつけていた。
まぁ俺の願い事じゃないけどな。

『もう一人の勇者と一緒に戦えますように』


委員長に渡された短冊だ。

接触を避けている理由はまだ分からないが、情報収集に来るかもしれないレベル4の勇者に、これを伝言板代わりにしてコンタクトを取れないだろうかというイズミの提案。

返事をしてくれなくても、こちらの意思を伝えることは出来るかもしれない。

俺なら罠の可能性を考えるが。

言いながら少し離れた死角に罠の設置を始めるサクト。

スマホの録画機能を使って監視カメラ代わりにするのだ。

バッテリーが切れないようにコンセントと充電器を繋げる。

ただデータ容量の問題で、何度かメモリーカードを交換してやらなくてはならない。


もちろんこんなやり方は二人は反対するだろう。

だからこれは自分の仕事だ。

ついでに魔王アプリの秘密も掴めれば一石二鳥だな。

録画状況の最終チェックを行っていると、すでにもう一つ短冊がついていることに気付いた。

録画の解像度が低いため文字までは判別出来ない。

直接短冊を確認しに行く。



『七夕イベントが盛り上がりますように』



匿名だが恐らく生徒会だろう。

勇者アプリのためとは言えコレはあかんやつやでー。


一般利用の乙女心も察したりや。

すぐ隣に胸元をはだけたイケメン男子生徒が立っていた。

その手にあるのは今設置したはずのサクトのスマホだ。

いつの間に?

いや、こいつ今何て言った?

不意打ち過ぎて反応が遅れるサクト。
まさか、お前が……。

直接あんさんと話すのは初めてやな。


ワイは2年5組の乙森カナセ。

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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