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文字数 3,052文字
すっかり日は落ち、夜のとばりが二人きりの空間を盛り上げる。
俺は人気のない公園の草むらで皆川さんに押し倒されていた。
いや、正直少しは期待してたけど……。
遡ること数時間前――。
皆川ミナコの研修が終わるまで、サクトはゲーセンで時間を潰すことにした。
資金は心許ないが、上手い奴ほど長く遊べるのが昔のビデオゲームだ。
対戦ゲーは相手が居ないとすぐに終わってしまう。
上手すぎる奴は相手にされないことをサクトはよく知っていた。
最近のゲームは下手な奴も上手い奴もお金を落としてくれるように工夫されている。
故に金欠の今、時間を潰せる最適解がレトロゲーというわけだ。
ハイスコアを叩き出しランクイン、名前入力画面になる。
10位までほぼ同じ名前で埋め尽くされているが、一つだけ違う名前が紛れ込んでいる。
一瞬考えた後、昔のハンドルネームを使用することにした。
結果、ARURAは最下位となり、1~9位は同じ名前で埋め尽くされた。
皆川ミナコと合流出来たのは20時を過ぎていた。
病院で会った時とは異なり、綺麗に着飾った彼女は通りすがった男の視線を集めるような美女に変身していた。
思わずその色気にサクトも飲まれそうになる。
もちろん嘘だ。
借りを作ってはいけない相手だと本能が告げている。
幸い多めに貰ったタクシー代があるが、この先どんなイベントが待ち構えているのか分からない。
節約するためにすぐ近くのファストフード店を指差した。
口調は軽く、笑顔を繕っているが目は笑っていなかった。
可愛くない奴……と思われたわけではない。
こちらの意図を察した目だ。
裏の顔は感情に流されない、計算高い知性を持った相手だという確信があった。
ただでさえ年上というアドバンテージを握られているのだ。
プレッシャーをかけて少しでも対等に近付けるなら結果オーライだろう。
店内では始終、勇者の集いのメンバーの他愛のない話をしていた。
警戒を解くという意味もあるだろうが、彼女の立ち位置を確認するための貴重な情報源だ。
話術は得意ではないが、適当に彼女のペースに合わせる。
ここで得られた情報は彼女はメグムの紹介でマスターに雇われたアルバイトであること。
今日はたまたまこっちに居たが、普段は大学のある隣町に居ることが多いこと。
メグムは既婚者だが妻と子供に逃げられ、借金返済に追われていること。
マスターも既婚者だが妻とは死別、再婚よりも薄毛に悩んでいること。
ウララは実は中卒の家出娘で、浪費癖の激しい遊び人だったこと。
山田パーティーはみんな恐妻家で、お金のかからない勇者アプリを趣味にしてること。
男子高校生パーティーは何でもミナコの言うことを聞いてくれること。
会話から伺える彼女の人物像は口が軽く、陰口も茶化しながら平気で誰にでも言ってしまう女。
だが一つ一つ、サクトの反応を見ながら相手の性質を分析しようとする狡猾さを持っているように感じた。
目的のためなら自分がどう思われようと気にしない、やはりサクトと似た思考の持ち主のようだ。
二人きりになったところで色仕掛けで迫られ、草むらに押し倒された。
確かに制服姿のままだと入店拒否されただろう。
……って、問題はそこじゃねぇ!
上着を脱ぎ始める皆川さん。
話術で警戒心を解けないと悟り、強行手段に出たのだ。
物凄く興味はあるが、流されるわけにはいかない。
ココナ、委員長、ウララさんの顔が脳裏によぎる。
――いや、そういう問題でもねぇ!
だが無理矢理振りほどこうとするほどの意思は奮い立たず、むしろ身体は正直だった。
確かに秘密を守らせる保険に、このやり方は効果的かもしれない。
だが俺はこんなところで童貞を捧げていいのか?
――悔しいが、俺はもうダメかもしれん。
覚悟を決めたが、その瞬間は訪れなかった。
しばし停止する皆川さん。
怒りのあまり口調がコロッと変わり、興奮が冷めていく。
恐らくこれが彼女の本性なのだろう。
ずいっと身を乗り出したウララの豊満なおっぱいがたわわに揺れた。
ノーブラなのだろうか?
手を差し伸べてくれたが、今この手をどけるわけにはいかない。
立ってるけど立つわけにもいかない。
察してくれたのか、ウララがサクトの隣に並んで座る。
サクトの瞳をじっと覗き込むウララ。
照れて先に視線を背けるサクト。
この反応でお互い探りを入れているかのように沈黙が続く。
先に口を開いたのはウララだった。