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文字数 3,052文字

ごめんねー、こんな場所で。

すっかり日は落ち、夜のとばりが二人きりの空間を盛り上げる。

俺は人気のない公園の草むらで皆川さんに押し倒されていた。

どうしてこうなった?

いや、正直少しは期待してたけど……。






遡ること数時間前――。


皆川ミナコの研修が終わるまで、サクトはゲーセンで時間を潰すことにした。


資金は心許ないが、上手い奴ほど長く遊べるのが昔のビデオゲームだ。

対戦ゲーは相手が居ないとすぐに終わってしまう。

上手すぎる奴は相手にされないことをサクトはよく知っていた。

最近のゲームは下手な奴も上手い奴もお金を落としてくれるように工夫されている。

故に金欠の今、時間を潰せる最適解がレトロゲーというわけだ。


ハイスコアを叩き出しランクイン、名前入力画面になる。

過去の自分を超えることは出来なかったか……。


まぁ久々だしな。

10位までほぼ同じ名前で埋め尽くされているが、一つだけ違う名前が紛れ込んでいる。

ARURA……。


そういえばさっきやったゲームにも居たな。

一瞬考えた後、昔のハンドルネームを使用することにした。


結果、ARURAは最下位となり、1~9位は同じ名前で埋め尽くされた。

お待たせっ♪

皆川ミナコと合流出来たのは20時を過ぎていた。


病院で会った時とは異なり、綺麗に着飾った彼女は通りすがった男の視線を集めるような美女に変身していた。

思わずその色気にサクトも飲まれそうになる。

本題に入る前に……お腹空いてない?

お姉さん腹ペコだよー。


お金なら大丈夫。奢ってあげる♪

いえ、これでもボンボンなんで。

金には困ってません。


でもジャンクフード好きなんで、そこでいいですか?

もちろん嘘だ。

借りを作ってはいけない相手だと本能が告げている。


幸い多めに貰ったタクシー代があるが、この先どんなイベントが待ち構えているのか分からない。

節約するためにすぐ近くのファストフード店を指差した。

へぇ~、そーなんだー。

いいよ、あたしも好き。

口調は軽く、笑顔を繕っているが目は笑っていなかった。


可愛くない奴……と思われたわけではない。

こちらの意図を察した目だ。

裏の顔は感情に流されない、計算高い知性を持った相手だという確信があった。


ただでさえ年上というアドバンテージを握られているのだ。

プレッシャーをかけて少しでも対等に近付けるなら結果オーライだろう。

店内では始終、勇者の集いのメンバーの他愛のない話をしていた。

警戒を解くという意味もあるだろうが、彼女の立ち位置を確認するための貴重な情報源だ。

話術は得意ではないが、適当に彼女のペースに合わせる。


ここで得られた情報は彼女はメグムの紹介でマスターに雇われたアルバイトであること。


今日はたまたまこっちに居たが、普段は大学のある隣町に居ることが多いこと。


メグムは既婚者だが妻と子供に逃げられ、借金返済に追われていること。


マスターも既婚者だが妻とは死別、再婚よりも薄毛に悩んでいること。


ウララは実は中卒の家出娘で、浪費癖の激しい遊び人だったこと。


山田パーティーはみんな恐妻家で、お金のかからない勇者アプリを趣味にしてること。


男子高校生パーティーは何でもミナコの言うことを聞いてくれること。


会話から伺える彼女の人物像は口が軽く、陰口も茶化しながら平気で誰にでも言ってしまう女。

だが一つ一つ、サクトの反応を見ながら相手の性質を分析しようとする狡猾さを持っているように感じた。

目的のためなら自分がどう思われようと気にしない、やはりサクトと似た思考の持ち主のようだ。

……こんな退屈な話より、早く本題を話せって感じね。


じゃあ静かな場所へ移動しましょうか?

そして連れて来られたのがこの公園である。


二人きりになったところで色仕掛けで迫られ、草むらに押し倒された。

本当はホテルの方がいいんだけど、流石にその恰好のままじゃ問題あるしぃ。

確かに制服姿のままだと入店拒否されただろう。


……って、問題はそこじゃねぇ!

頭は大人っぽいけど、体の方はどうかしら?


大丈夫、お姉さんがリードしてあげるからぁ。

優しく筆おろししてあげるね♪

上着を脱ぎ始める皆川さん。


話術で警戒心を解けないと悟り、強行手段に出たのだ。

物凄く興味はあるが、流されるわけにはいかない。


ココナ、委員長、ウララさんの顔が脳裏によぎる。


――いや、そういう問題でもねぇ!

勇者の集いが隠していることを教えてくれるんじゃ?

見たい気持ちを抑え、顔を背けて抵抗の意思を示す。

だが無理矢理振りほどこうとするほどの意思は奮い立たず、むしろ身体は正直だった。

秘密を共有するのにノーリスクはあり得ない。

大人になるには汚れる覚悟も必要よ。

確かに秘密を守らせる保険に、このやり方は効果的かもしれない。


だが俺はこんなところで童貞を捧げていいのか?

うふふ、こんなに真っ赤になっちゃってぇ。


かーわいー♪

生のおっぱいを押し当てられ、唇が迫ってくる。


――悔しいが、俺はもうダメかもしれん。



覚悟を決めたが、その瞬間は訪れなかった。

しばし停止する皆川さん。

ちっ、またいいところで邪魔して。


これだから嫉妬に狂った年増女は……。

怒りのあまり口調がコロッと変わり、興奮が冷めていく。

恐らくこれが彼女の本性なのだろう。

ごめんねー。

実は今エンカウントして戦った直後なの。

君は勇者が居なかったから不参加だったけど。


精神的に疲れちゃったから続きはまた今度ね。

そう言って急いで服を着始める彼女。

あ、でも時間が止まってる間に味見させてもらったよー。


やっぱりまだ大人になり切れてないのね♪

反射的にサクトは股間を押さえた。
やっぱりそこに居ましたかっ!

まったく……どういう嗅覚してんの、あの雌犬は。


……いや、最初からメグぽんに?

そそくさと逃げ出す皆川、入れ替わるように現れたのはウララだった。

大丈夫ですか、サクトさん!

食べられてないですか?

まぁ危なかったですけど……。

健全な青少年のスケベ心を利用するなんて最低ですね!

矛盾してるような気もするがあえて突っ込むまい。
私は無理矢理なんてことはしないので安心してくださいね。

ずいっと身を乗り出したウララの豊満なおっぱいがたわわに揺れた。


ノーブラなのだろうか?

立てますか?

手を差し伸べてくれたが、今この手をどけるわけにはいかない。

立ってるけど立つわけにもいかない。


察してくれたのか、ウララがサクトの隣に並んで座る。

すでに聞いてると思いますが、彼女も勇者の集いに出入りしている勇者です。

お話した大学生グループのリーダーですよ。


ただちょっと悪ふざけが過ぎる困った人なので、あまり彼女の話を信用しちゃダメですよ?

サクトの瞳をじっと覗き込むウララ。

照れて先に視線を背けるサクト。

この反応でお互い探りを入れているかのように沈黙が続く。


先に口を開いたのはウララだった。

これに懲りたらホイホイ彼女の口車に乗らないこと。

この件は私も秘密にしておきます。


パーティー間の絆に傷がついたら困りますしね。

別に俺に落ち度は……。
めっ! ですよ。
コツンと優しくデコピンするウララ。

私には分かります。同じ女ですから。

きっとココナさんとイズミさんも悲しみますよ。


無意味に関係を悪くするメリットはないはずです。

違いますか?

確かにそうかもしれないが、優しく言いくるめられてるような……。

私はサクトさんがこちら側の人間だと信じてます。

ただココナさんとイズミさんはそうじゃない。


もしも二人に口外しないと約束してくれるなら、私の口から勇者の集いの秘密を教えます。

だからもう身を犠牲にして、あの人から情報を引き出そうとするのはやめてください。

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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