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文字数 3,440文字

おいっ、二人ともエンカウントしたぞ。

起きろ!

客間を開けると、そこには抱き合う二人の女子の姿があった。
え……、お前らそういう関係だったのか?

引くよりむしろ興奮するサクト。

傍らに落ちてるエロ本が余計想像を加速させた。

おいっ、頼むから起きてくれ。


乙森が使い物にならないんだ。

なにそれ?

マジ失礼よね、あんた。

むにゃ、そんなとこ触ったら感じちゃうよぉ……。


避雷針~~。

どんな夢見てるんだよ!


委員長、頼れるのはお前だけだ。

寝ぼけ眼で起き上がったイズミの肩をゆする。

んぁ?


い……きゃああああああああ!!

ばちこーん。

グーパンがサクトの顔面を襲った。

よよよ、夜這いとか最低っ!

不潔っ!!


私はエッチな本のようにはいかないわよっ!!

くっそ、お前ほんと加減なしだな……。


エンカウント中だ。

早く変身してくれ。

え?

ご、ごめんなさい。


でも寝顔見られた?

なんかムカつくんだけど……。

全身鎧の武骨な騎士に変身するイズミ。

それに触れていたココナは……。

イズミちゃん硬い……。


でも大丈夫だよぉ、揉んで育てるから。

何をだよ!


いい加減お前も起きろ!

むにぃぃぃとほっぺたを伸ばす強硬手段に出た。

ふにぃぃぃ。

はむしゅたーひゃないふぉぉぉぉ。

ようやく目を開けるココナ。

え? 夜這い?

俺に対しそういうリアクションしか出来んのか、お前らは。
ねぇ、火の手がもうそこまで来てるんだけど、外に逃げた方が良くない?
うそ……。


ヒメリちゃんと四十万君は?

魔法少女に変身し、周囲の状況を確認したココナが二人の心配をする。

たぶんこのクエストの魔物はヒメリだ。


ハルはNPC扱いだが……。

NPC扱いの人間は何が起きようと、クエスト終了後には元通りになっている。

わざわざ助けに行くのは特に意味のない無駄な行為だ。

しかし……俺はあいつを助けたい。


手伝ってくれるか、イズミ。

え? 私?


もちろん言われなくても手伝うけど……。

不意打ちだった。

自分が指名されるとは思わなかったし、名前で呼ばれた事も。

(どういう心境の変化かしら?

確かに委員長って呼ぶなって言ったけど……。)

寝る前のココナのセリフが思い浮かんだ。


サクトがココナをフった。

どう考えてもココナがフラれる理由が分からない。

もしかして、すでに好きな人が居たとか?


そこまで考えてから今はそんな時じゃないと、頭を切り替える。

まるで導かれた推測から逃げるように。

アイアンメイデン発動、ナイトオブリベリオン!
音声入力コマンドで鎧をパージ、鎧は巨大な盾に変化しイズミはビキニアーマー姿となる。

クエストエリアは今までで極端に狭い。

恐らくこの家の中だけで戦えって事だ。

外に逃げるのはクエストの離脱を意味する。


だからまだ被害が少ないここで迎え撃つ。

ハルもこっちへ運ぶ。いいな?

私達は魔物が出てきた時に援護すればいいんだね?
あたしは何すんの?
ああ、乙森の奴、記憶喪失っぽいから。

ココナ、教えてやってくれ。

ええええ?

さらっと大変な事を……。


乙森君、何も覚えてないの?

この武器にスマホがくっついてて、スキルは……。

目と鼻の先だしちゃっちゃと済ませるぞ。

俺も盾運ぶの手伝うから。

サクトの手とイズミの手が触れ合う。

あ、あんまり見ないでよね。


この姿、恥ずかしいんだから……。

盾で炎を防御しながら二人でリビングに向かう。

心なしか火の勢いが強くなった気がする。

よし、まだ無事だな。

ハルを背負うサクト。

二人を庇うように盾を構え、ゆっくり進むイズミ。

サクト君、危ないっ!!
リビングの天井が焼け落ち、三人は下敷きになった。
すまん……。

う、動かないで……。

バランス崩れると、支えきれない……。

四つん這いになって盾を背負う形になっているイズミ。

相当の重力がかかっているはずで、それはその下で一緒に圧し潰されてるサクトにも伝わっていた。


ただその圧の中心は、イズミのバストを通してサクトの顔面に伝わっている。

幸か不幸か、ビキニアーマーがズレて密着部分は柔らかい。


イズミの汗がサクトにも伝わる。

勇者コマンド、みんな集まれ!

サクトとイズミは瞬間移動を受け、バランスを崩して倒れ込んだ。


パーティーメンバーを強制的に勇者の元へ召喚したのだ。

幸い、偶然二人の間に挟まれていたハルも一緒に飛んで来た。

大丈夫、二人とも?


あ……イズミちゃん、丸出しだよ。

え?
慌ててズレたバストアーマーを元に戻す。
どさくさに紛れて……最低ね。
涙目でサクトを睨みつけるイズミ。
わざとじゃねぇし!


だ、誰がお前の胸で喜ぶかよっ!

えぇ……サクト君酷い。
そんな事言って、勃ってるじゃない。
カナセに指摘されて、咄嗟にパジャマの股間を押さえるサクト。
…………。

ゴォッ!!


突如、炎が勢いを増し、避難部屋を取り囲むように燃え広がった。

……ん?

うわ、もう逃げ場所ないじゃん?

イズミの盾についたアプリを確認するサクト。

委員長、お手柄だ。

敵の撮影に成功してる。


敵の行動ログが確認出来るようになった。

イズミちゃん、流石!

たまたまシャッターが起動しただけよ。


(また委員長に戻ってるし……)

この炎そのものが意思を持つ魔物みたいだな。

え?


こんなのどうやって倒すの?

俺達が倒す必要はない。

こいつは勝手に自滅する。


時間経過と共にHPが減り続けているから、奴が燃え尽きるまで生き残ればクリアだ。

でもまずいわよ。

さっきより火の勢いが強くなってきてる。

ここもすぐに火の海になるわ。

委員長が鎧に戻ればいい。

一人でも生き残れば勝ちだ。

わ、私だけ生き残れって言うの!?

みんなが死んでいくのを見ながら!?


却下よ!

そもそも私だって中で焼け死ぬわよ、きっと!

神風で吹き飛ばし続けるとか?
余計火の勢いが強くなるんじゃ?
はぅ……。
なんだかよく分かんないけどさぁ、回復魔法使えばいいじゃん?
ねぇよ、そんなの。

音声入力で使うんだっけ?


スキル、ラブアンドピース、ヒーリングシャワー。

カナセの銃口から光のシャワーが出始めた。

ふぅん、こうなるのねー。


ほれほれ、元気になぁれ。

サクトの股間にシャワーを振りかける。
何しやが……あれ、気持ちいい……。
…………。
…………。
ドン引く女性陣。

違う、そういう意味じゃない!

ログ確認してくれ!

あ、回復してる!

サクト君、元気になってるよ!!

その言い方やめろ!


だがこれは使えるぞ。

みんな固まれ!

火の手が迫ってくる。

全員で抱き合うように、中央でハルを踏み台にしたカナセが銃を出来るだけ高く掲げて、回復の雨を降らせる。

(影浦君の手が素肌に触れてる!

こ、こんなのって……!)

ほぼ裸同然のイズミはみんなに肌を密着させているような状態だ。

真っ赤になりながら必死で羞恥とも戦う。

回復速度は微妙だが、先に相手のHPの方が尽きそうだ。

こんな技持ってるなら早く言えよ!

知らないしぃ。

そもそもあたし、この技しか持ってないんだけど?

はぁ?

ほんとだ。

スキルリストにはこの技一つしかなかった。

……なぁ。

お前……乙森だよな?

乙森だけどあんた達が知ってる乙森じゃないしぃ。


二重人格って言うの?

あたしは彼の意識がない時しか現れない女の人格。

そうねぇ、カナコって呼んだら?


念願叶ってやっと女の身体手に入れたわぁ。

よく分かんないけどぉ、あたしずっとこの世界に居たいかも。

…………。
…………。
…………。






―――――――――――――――――――




新たなクエスト動画が配信されました。



女神の声が男のスマホより発信される。

ふむ、くだらないな。

動画を視聴した後、男は低評価をタップした。

そしてすぐにアプリを閉じようとしたが、気になる発見をしてその手を止めた。

クエストレベルも低く、レベルアップ出来るほどの票数を集めた者はいない。

しかし……


初めて投票したか、勇者殺害ランキング1位の憤怒の魔王。

奴がこのクエストを作ったのか?


投票した相手は……影浦サクト?

確か怠惰が推していたパーティーだったな。

アプリを閉じて何者かに電話をかける。

私だ。


ふっ、どうせ泊まり込みだっただろう?

わざわざこんな時間にかけてくるという事は、それだけの情報を手に入れたからだ。


憤怒の手がかりを掴んだ。

何と言ったか……そう、ココナと言う子供勇者の中に関係者が居る可能性が高い。

怠惰の正体も検討がついているのだろう?

あの探偵を使って探らせろ。

くれぐれも嫉妬に見つからんようにな。


始末はこちらでやる。

なぁに、証拠を残さずに消す方法などいくらでもある。

ただ素性を調べるだけでいい。

通話を終えると、男は夜景を見下ろしながら一人呟いた。

お前は今どこに居る?


罠だろうが構わん、餌に喰い付けばいい。

必ず尻尾を掴んでやるぞ。

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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