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文字数 3,154文字

まさか見えなくてもお構いなく攻撃してくるとは……
サクトは杖に仕込まれたスマホ画面の攻撃ログを確認し、時折壁を貫通してくる矢をかわしながら階段をひたすら駆け上っていた。
だがてめぇの行動パターンはすでに見切った!

扉を蹴り開け、屋外に飛び出すサクト。

そこは彼が通う私立神須賀高校の校舎屋上だった。


直線距離で50メートル以上。

並列する校舎の屋上も繋がっているためそれくらいの距離は稼げる。


その先に待ち構えているのは天使像を模したモンスター。

一定距離を保ち距離を詰めてくる性質を利用しここへ誘導したのだ。


今のサクトと天使の間に高低差は殆ど存在しない。

距離は調整するが高低差を保つというルーチンが存在しないことに気付いたのだ。

フレイムワークス発動!

ダイナミックボンバー、イグニッション!!

音声入力コマンドに従い、魔法の導火線に火が灯る。


ブロークンエンジェルの攻撃


天使が矢を引き絞り攻撃態勢に入る。

しかしサクトは臆さず真っ直ぐ天使に直進した。

心臓を狙ってくるのはもうバレてんだよ!

クエスト名にも攻略のヒントが隠されていることに気付いたサクトは、敵の攻撃軌道も完全に把握していた。

高速で放たれた矢を胸の前に構えた杖で防御しながら、スピードを緩めることなく一直線に距離を縮めていく。


ブロークンエンジェルは攻撃モーション中に移動出来ない。

その後、狙っている標的との距離を一定に保とうと移動するが、その移動速度は遅い。

つまり、距離を取られる前にこの直線50メートルで決着をつけようというのだ。


校舎から遠ざかる天使を追い、サクトは屋上から飛び出す!

ノーコンだろうが、これなら外しようがねぇだろ!


物理魔法使いなめんな!!

天使に飛びかかり、杖の先端をその顔面に押し付ける。

ゼロ距離からの魔法攻撃。


轟音と共に世界が光に包まれていく。


クエストクリア

奇跡を現実に実装します














――――でさぁ、リョウ君ったら何て言ったと思う?
いつもの通学路。

先程までとは打って変わり、多数のノイズが入り混じった街の喧騒がサクトを取り囲んだ。


呆然としているサクトの前で、風のイタズラが前を歩く女子生徒二人組のスカートを吹き上げる。

きゃぁ!
……水玉……だと!?
サクトの呟きが聞こえたのか、女子生徒達は一瞬後ろを振り返った後、駆け足で走り去っていった。
夢で見たパンツと同じ……。

偶然なのか?


モンスターの襲撃による破壊跡はないが……。

戦場になった場所を確認しながら学校を目指す。

当たり前だが変わったところはない。

……って、大丈夫か、俺!


白昼夢ってあるんだなぁ……

寝不足のせいか?

校門を潜ったところで一人の女子生徒と目が合った。

まるでサクトを待っていたかのように駆け寄ってくる。


思わず後ろに誰か居るのかと振り向く。

影浦くん、巻き込んでごめんね!


それと……助けてくれてありがとう!

誰だ、影浦って…………俺だ!


心の中でセルフツッコミをしながら、見覚えのない美少女の行動に挙動不審になるサクト。

あ、えっと……、君だれ?
……えっ?


軽く……ショックなんだけど……

全然軽くないショックを受け、みるみる涙目になった美少女は耐えかねて走り去ってしまった。

いわれのない罪悪感がサクトを襲う。

……俺が悪いのか?


マジで見たことねぇ顔だし……どうしろと……

チャイムの音が鳴り、詮索を中断する。


――こういう時はアイツの力を借りるか。

善は急げ、時は金なり、って言うよね?
焼きそばパンひとつだ。
毎度あり~♪

悶々と悩み続けた午前の授業が終わった昼下がり。

狐顔のクラスメイト、四十万(しじま)ハルにお供え物を差し出す影浦サクト。

確かにココナって名前の生徒は居るよ。しかも同学年に。

スリーサイズだって知ってる。聞きたい?

毎度どこからそんな情報を掴んで来るんだよ……
校内イチの情報屋をなめないで欲しいね。


フルネームは煌咲(きらさき)ココナ。

2年5組の煌咲さんだよ。

結構有名だけど知らないの?

日陰者の俺が人気者の美少女のことなど知るわけないだろう。

万年空気の窓際族でも目立つ人間くらい目に入るでしょー。


ってかビジュアルは知ってるんだね。

確かに見た目は可愛いよね、煌咲さん。

色々棘のある言い方だが、架空の人物でないことが分かったらそれでいい。


そんな変わった名前、この学校に一人しか居ないだろ。

え? それだけ??


流石に本人が望むまいと報酬分は話させてもらうよ。

情報屋としての信用問題に関わるからね!

勝手にしろ
誕生日は7月7日。AB型。

母親と二人暮らし。

身長は152。体重は追加料金。

スリーサイズは上から79、56、82でCカップ。

彼氏なし。親しい友達もなし。

友達居ないのかよ
ルックスも良くて明るい子だけど、なぜか人と一定距離を保とうとするんだよね。

あとあざといって一部の女子グループにいじめられてる。

……だそうだが、そんな奴が俺に何の用?
…………。
振り返って焼きそばパンを吹き出しそうになるハル。

いつの間にか噂の当人が後ろに佇んでいた。

えっ!?

ちょっと本人居るなら教えてよ!


えっと今のはただの噂話だからね?

僕自身が調べたわけじゃないから……。

大丈夫、全部本当のことだから気にしてないよぉ。


影浦くん、今朝はごめんね。

ちょっとだけ言い訳、二人きりでいいかな?

俺も馬鹿げた疑問を解決するために二人きりで話したい。

場所を変えよう。

サクトがリアル女子相手に積極的になってる……
二人は教室を後にし、校舎屋上へ向かった。
鍵壊れてる……。
俺も今朝知った。


鍵かかってたら蹴ったくらいで開かなかっただろうな。

校門でのこともごめんね。

自分が有名だと自惚れてただけだから……影浦くんが知らなかったのも無理ないよ。

同じクラスにもなったことないし。

…………。
それでその……本題に入りたいんだけど……何から話したらいいんだろ……。
勇者アプリのことか?
う、うん。

その……取り返しのつかないことをしたのは分かってる。

ほんと、ごめんね。


絶対にもう、影浦くんを危ない目に遭わせないから!

夢じゃなくマジモンだったのかよ……


しかしなぜ君が謝るんだ?

だって巻き込んだのは私だし、私が死んだせいで影浦くんは命がけで戦ってくれたんだよね?
イマイチその辺の話がよく見えないんだが……

GMコールも繋がらないし。

全滅した時点でクエストの結果が反映される……


こんなことしちゃいけないって分かってたのに……死にたくなくて、怖くなって、すがる思いで影浦くんを強制的に仲間に入れたの!

弱虫でごめんなさい!


この契約はエンディングを迎えない限り破棄することは出来ない。

だから次からはクエストが始まったらすぐに逃げて欲しい……。

なるほど、そういうことか。


なら俺は君に感謝しなければならないな。

感謝?

あれからどうにも興奮が収まらねぇんだ。


現実なんてクソゲーよりよっぽど面白ぇよ。

こういうのを待ってたんだ、俺は。

怒ってないの?


死ぬかもしれないんだよ?

デスゲーム上等。

引き換えに剣と魔法の世界で大暴れ出来るんだからな。

むしろ殆どの男子高生が憧れるシチュエーションだと思うぞ。


まぁ一言相談して欲しかった気もするけどな。

信じなかったかもしれないけど。

そうなの?


男子高生強い……

だから煌咲さんの仲間として一緒に戦うことに抵抗はない。


たとえ君が戦わなくても俺は好きにやらせてもらう。

……やっぱりサクトくんはサクトくんだぁ


ぐすっ

は?

おい、泣くなよ……


ちっ、使ってくれ。

柄にもなく今朝の反省を生かし、ハンカチを差し出すサクト。
(ずびぃー!)


ありがと。洗って返すね。

(鼻までかむか?


リアル女の行動は読めん……)

じゃあリーダーとして影浦くんの加入を歓迎します!


ようこそ、光の勇者ココナのパーティーへ!

キーンコーンカーンコーン♪
あ、お昼休み終わっちゃった……


続きは放課後の勇者部で♪

ここに集合だよ!

勇者部て……
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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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