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文字数 3,326文字
戦闘に関しては足手まといになりかねない自分に出来ることは、後は応援することだけ、そう思っていたがその考えに至るのはまだ早いようだ。
このままだと戦闘中の影浦くん達とぶつかってしまう……。
山田さん達の戦闘が今すぐ終わったとしても援軍に駆け付けるには遠すぎる。
絶対間に合わない。
むしろ万が一に備えて、仲間達だけでも逃げる準備をしてもらわないと……。
両手を広げて待ち構えるココナ。
抱き着けということらしい。
後ろからココナにしがみ付くイズミ。
なかなか間抜けな絵面だがどうせ誰も見ていない。
恥を捨ててしっかりと手足を絡ませる。
ココナのステッキに天使の翼が生え、飛行魔法が発動する。
飛ぶと言うより浮くというイメージから、実際に受ける風の抵抗はそよ風のように想像していたのが、実際は重みのあるしっかりとした空気抵抗を感じた。
思わず掴まる四肢に力が籠る。
360度何も支えるものがない世界が広がった。
イズミはなぜか恐怖よりも解放感で一杯になる。
空を飛ぶなんてこの世界でないと経験出来ないだろう。
前回もイズミはある意味飛んだのだが、その時はゆっくり実感している場合ではなかった。
わずか10秒強の飛行の後、ゆっくり滑空していく二人。
眼下は通行人で溢れかえってる。
二人ともスカートが捲れ上がっているが気にすることはない。
この時間の止まった世界ではどんな醜態を晒そうが、咎める者は居ないのだ。
ただ理屈では分かっていても実際に実行するのとでは大きく違う。
常に人の視線を気にして優等生を演じ続けているイズミにとって、新たな扉を開けてしまいそうな、そんな奇妙な感覚に陥る。
自分でもびっくりするくらい、素直な本音が飛び出した。
ココナの前ではいつも新しい自分に気付かされる、イズミはそう感じ始めた。
天然を装ってるけど、もしかしたら心を見透かされているのかもしれない。
そんな気がしたイズミだったが、ココナに裏があろうとなかろうと、彼女に対する好意的な印象が変わることはない。
――が、良かったのは走り始めたところまでだった。
走り始めて1分後には息を切らせながらココナは無様に転んでいた。
しかし肝心の戦力を置いていっては本末転倒だ。
イズミはココナと違って戦力としては役不足。
彼女の能力はただ頑丈な鎧姿になれることだけ。
変身してしまうと自分で動くことすらできないのだ。
アプリに表示されている彼女のスキル名はアイアンメイデン。
そして2つのコマンド技を所持しているが効果のほどはさっぱり分からない。
ぶっつけ本番になるが、ココナが自分を信じてくれている。
何よりもその期待に応えたかった。
巨大なダンゴ虫がホイール状態を解き、地に足を付け戦闘態勢に移行する。
サクトは合流したウララの仲間達と共に身構えた。
言いながら煙草に火をつける怪傑の勇者。
仮面姿でそんなこと言われても、「そりゃそうだろ」とツッコミを入れたくなるのをぐっと堪えるサクト。
フゥ~と煙を吐くと、煙草を投げ捨て指を鳴らす勇者。
それを合図にウララがコマンド技を音声入力ではなく、スマホの手動操作で発動させる。
心の中でツッコんでいると、どこからともかく音楽が流れてきた。
その音楽に合わせてバックダンサーよろしく踊り始めるウララ。
――あ、これめんどくさい奴だ。
サクトは確信した。
ヒーローが巨大ダンゴ虫、マッドクロウラーに正面から突っ込む。
マッドクロウラーは接近する敵に対し、毒霧のようなものを吐いた。
モンスターの全身に電撃が駆け抜けた。
消滅しているはずのモンスターは健在だった。
ヒーローも怪盗姿に戻っている。
一撃でかっこよく決めるはずが、仕留めそこないましたね。
ちなみに私のあのコマンドの効果はスピードアップ。
接近する時にかっこよく見せるための演出です。
ダサいものをお見せしてしまい申し訳ありません。
サクトさん、尻拭いに協力してくれますか?