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文字数 3,326文字

影浦くん達がもう交戦してる……。


変だわ。

山田さんと交戦してるモンスターと同型なのに、移動スピードが全然違う。

予測したルートが違っていた?

パーティメンバーであるココナとイズミは、アプリのシステムログからサクトの戦闘状況を伺い知ることが出来る。


戦闘に関しては足手まといになりかねない自分に出来ることは、後は応援することだけ、そう思っていたがその考えに至るのはまだ早いようだ。

影浦くんが遭遇したモンスター、HPが全快だった。

山田さん達が与えたダメージが残っていない。


回復能力を持っていないのだとしたら……。

モンスターのおよその進行速度から、山田パーティーが最初に遭遇したモンスターの予想位置を計算するイズミ。
煌咲さん!


もう一度飛んで2時の方向をよく観察してみて!!

ビルとビルの間を何かが通り過ぎたよ!
間違いない、もうひとつモンスターパーティーが存在するんだわ!

このままだと戦闘中の影浦くん達とぶつかってしまう……。


山田さん達の戦闘が今すぐ終わったとしても援軍に駆け付けるには遠すぎる。

絶対間に合わない。

むしろ万が一に備えて、仲間達だけでも逃げる準備をしてもらわないと……。

イズミちゃんも逃げてもいいんだよ?


無駄死にはさせたくない……。

……まだ、やれることがあるわ。

私達で時間を稼ぐのよ。


影浦くん達が勝つことを信じて合流出来れば……。

でもここからじゃ、今から走っても間に合わないんじゃ……。

走る必要はない。飛べばいいのよ。


ショートカットすれば何とかなるかも。

分かった、頑張ってみる!


はい、いつでもどうぞ!

両手を広げて待ち構えるココナ。

抱き着けということらしい。

煌咲さんに掴まるの?

正確にはステッキなんだけど、この前それで失敗したから抱き着いてくれた方が安定すると思う。

逆だと私非力だからイズミちゃんが掴まってくれた方がいいかな。


大丈夫、女同士だし気にしないで!

女同士だから気になることも……って

今はそんなこと言ってる場合じゃないわね。

後ろからココナにしがみ付くイズミ。

なかなか間抜けな絵面だがどうせ誰も見ていない。

恥を捨ててしっかりと手足を絡ませる。

OKよ。

あの大通りに向かって着地する感じで。

らじゃー!

しっかり掴まっててね。


エンジェルウィング!

ココナのステッキに天使の翼が生え、飛行魔法が発動する。


飛ぶと言うより浮くというイメージから、実際に受ける風の抵抗はそよ風のように想像していたのが、実際は重みのあるしっかりとした空気抵抗を感じた。

思わず掴まる四肢に力が籠る。


360度何も支えるものがない世界が広がった。

イズミはなぜか恐怖よりも解放感で一杯になる。


空を飛ぶなんてこの世界でないと経験出来ないだろう。

前回もイズミはある意味飛んだのだが、その時はゆっくり実感している場合ではなかった。

私今、空を飛んでるんだ……。

わずか10秒強の飛行の後、ゆっくり滑空していく二人。


眼下は通行人で溢れかえってる。

二人ともスカートが捲れ上がっているが気にすることはない。

この時間の止まった世界ではどんな醜態を晒そうが、咎める者は居ないのだ。


ただ理屈では分かっていても実際に実行するのとでは大きく違う。

常に人の視線を気にして優等生を演じ続けているイズミにとって、新たな扉を開けてしまいそうな、そんな奇妙な感覚に陥る。

はっ!?


何を興奮してるの、私は。

人はそれを変態と言うのよ!

短い間だったけど空の旅はどうだった?
着地してココナがイズミに問いかける。

とても……良かったわ。

また連れてって欲しい。

自分でもびっくりするくらい、素直な本音が飛び出した。

ココナの前ではいつも新しい自分に気付かされる、イズミはそう感じ始めた。

じゃあ次があるように急がないとね。
そ、そうね。

天然を装ってるけど、もしかしたら心を見透かされているのかもしれない。

そんな気がしたイズミだったが、ココナに裏があろうとなかろうと、彼女に対する好意的な印象が変わることはない。

私の中で煌咲さんがかけがえのない存在になりつつある。

これが世間で言う親友というものなのかしら?

二人はやる気に満ちた表情で頷き合うと全力で走り始めた。







――が、良かったのは走り始めたところまでだった。


走り始めて1分後には息を切らせながらココナは無様に転んでいた。

うぅ、どんくさくてごめんよぉ。


イズミちゃん、私のことは気にせず先に行って。

すぐに追いつくから……。

今のこの状況では最もな意見だった。

あぁ、これが「俺にかまわず先に行け、なぁにすぐに追いつく」という状況なのね。


死亡フラグだけど……。

しかし肝心の戦力を置いていっては本末転倒だ。


イズミはココナと違って戦力としては役不足。

彼女の能力はただ頑丈な鎧姿になれることだけ。

変身してしまうと自分で動くことすらできないのだ。

レベルアップしたからか、それとも最初から持ってたのか分からないけど、私には2つのコマンド技がある。


こんなことなら影浦くんの言う通り前もって試しておくべきだった。

アプリに表示されている彼女のスキル名はアイアンメイデン。

そして2つのコマンド技を所持しているが効果のほどはさっぱり分からない。


ぶっつけ本番になるが、ココナが自分を信じてくれている。

何よりもその期待に応えたかった。

分かったわ。

私が必ず時間を稼ぐ!


煌咲さんは影浦くんと合流して!

一方的にそう言い残し、彼女は再び全力で駆け出した。
たとえ醜態を晒してでも、役に立ってみせる!








巨大なダンゴ虫がホイール状態を解き、地に足を付け戦闘態勢に移行する。

サクトは合流したウララの仲間達と共に身構えた。

あの装甲は厄介だが、ああいう敵は内側が脆いと相場が決まっている。


だろ? 少年。

同感です。


でもどうやってひっくり返すつもりですか?

いちおう俺は次の手を考えてますが。

いやほんと、凄いね君は。

だがお兄さんもいいとこ見せとかないと。


まだ何もやってないし……。

お兄さん?


おじさんでは……。

シャラァァァップ!


給料の身に何があってもいいのか!?

訂正します、イカしたお兄さんです……。
どうやらこの怪傑の勇者は、リアルでウララの上司に当たるらしい。
この姿は世を忍ぶ仮の姿でね、俺はあと1回変身を残している。

言いながら煙草に火をつける怪傑の勇者。


仮面姿でそんなこと言われても、「そりゃそうだろ」とツッコミを入れたくなるのをぐっと堪えるサクト。

何も直接弱点を攻撃する必要はない。


ここから先はハードボイルドで行かせてもらう。

フゥ~と煙を吐くと、煙草を投げ捨て指を鳴らす勇者。

それを合図にウララがコマンド技を音声入力ではなく、スマホの手動操作で発動させる。

一口で捨てるのかよ……。

心の中でツッコんでいると、どこからともかく音楽が流れてきた。

その音楽に合わせてバックダンサーよろしく踊り始めるウララ。

何だこれ?

処刑用BGMだよ。


そしてウララはダンススキルによって味方にバフ効果を与える。

この俺のハートに火をつける効果をね。

――あ、これめんどくさい奴だ。


サクトは確信した。

聖拳スキル発動!


ライトニングインパクト!!

コマンドを叫ぶと同時に拳を掲げた怪傑の勇者に稲妻が落ち、仮面の変身ヒーローへと姿を変える。
仮面の上にさらに仮面だと……っ!?
変身ヒーローの右拳が強烈な光を放ちスパークしている。
……チェックメイトだ。

ヒーローが巨大ダンゴ虫、マッドクロウラーに正面から突っ込む。

マッドクロウラーは接近する敵に対し、毒霧のようなものを吐いた。

あの姿の時の彼はすべてのダメージを無効化、状態異常も受け付けません。
マスターと呼ばれていた紳士がサクトに解説する。
ふざけた演出だが強力だな……。
必殺必中! 聖拳制裁っ!!
マッドクロウラーの顔面に電撃をまとった正拳突きが炸裂する。

モンスターの全身に電撃が駆け抜けた。

ただし1クエストにつき、1回しか使えません。
ん? あれ??

消滅しているはずのモンスターは健在だった。

ヒーローも怪盗姿に戻っている。

一撃でかっこよく決めるはずが、仕留めそこないましたね。


ちなみに私のあのコマンドの効果はスピードアップ。

接近する時にかっこよく見せるための演出です。


ダサいものをお見せしてしまい申し訳ありません。

サクトさん、尻拭いに協力してくれますか?

あ、ああ。
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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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