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文字数 3,272文字
本日の体育は男子がグランドでソフトボール、女子が体育館でバレーボールとなっていた。
ハルとペアを組んでキャッチボールしながら雑談にふけるサクト。
昨日の雨が嘘だったかのように、カラっと晴れた今日の気温は30度を超えた。
こんな日はプールに入りたい気分だがプール開きは来週からだ。
そしてすぐに期末テストが始まる。
それが終われば待望の夏休み。
お互い彼女も居ないし、今年もいつもの夏休みになりそうだと呟くハル。
だがサクトはいつも通りとはいかないだろう。
夏休み入る前にレベル4勇者の情報と七不思議クエストの情報を集めておくべきだな。
だが妹の一件で今月の小遣い減らされたんだよなぁ。
ハルの情報は当てになるが有料だし、ココナか委員長にカンパ頼むか?
いや、委員長はハルを嫌ってるから難しいな。
ハルには脈があるように見えるのだろうか?
確かにココナとは特別な関係になりつつある。
だが、恋愛感情とは違う。
そもそもココナはサクトと委員長をくっつけようとしてるのだ。
ココナだって恋愛感情は持っていないだろう。
そしてそんな情報をハルにくれてやるつもりもない。
それ以上はだんまりを決め込んだ。
よし、ウォーミングアップはここまで。
ゲーム始めるぞ!
ガチムチ体育教師である星見先生が生徒を集め、成績順にチーム分けを行う。
そういえばウララの実の兄だったなと思い出すサクト。
すぐ隣の席の委員長からメールが届いた。
HRが終わったところだが、あまりみんなの前で親しそうに話しているところを見られたくないのだ。
内容が内容でもある。
積極的になりだしたのはサクトにとってもいいことだろう。
しかし委員長のやる気は空振りに終わりそうである。
二人揃って不参加の旨を伝える。
隣の委員長の顔をチラっと覗き見ると「なんて緊張感のない奴らなの」といった面持ちだった。
いつも不貞腐れた顔をしているので変化はないのだが、何となくそう感じた。
サクトにだけ質問する委員長。
ハブられたと感じたのかもしれない。
だがココナまで不参加なのはただの偶然である。
真っ赤になる委員長。
その反応からどう捉えたのか一目瞭然である。
一緒に下校する所を見られれば、付き合ってるアピールをするようなもんだと思ったのだろう。
まだサクトとの関係を噂されてるのか気にしているのである。
――空気な窓際族の色恋沙汰なんて、誰も気にしてないっつーの。
目の前に居るのに再びメールで返信する委員長。
予想外の返事に一瞬戸惑うも、サクトもメールで返事を返し教室を後にした。
実際付いて来られても妹が機嫌を損ねるだけだし、これでいいだろう。
委員長にどう思われようが知ったことではない。
ギプスで左足を固定された松葉杖姿のヒメリがぷんすか怒っている。
ここは琴吹市立中央病院の一室。
母親の仕事が終わるまで待ちきれず、兄を迎えに来させたのだ。
6人部屋だが外出中らしく、他の患者の姿は見えない。
人の目を気にしなくていいので感情を露にする妹。
ベッドに座ったまま問題発言を口走り、おんぶして、と言わんばかりに両手を前に突き出す。
もちろん甘やかすといくらでも付けあがるので無視。
手続きのためにナースさんが入って来た。
慌てて縮こまる妹。
外では人見知りで大人しい小心者なのだ。
夕べも「おにーおにー」とうなされてたそうですが、お兄さんのことだったんですね。
同室の患者さんの間で話題になってましたよ。
真っ赤になって両手で顔を覆うヒメリ。
いい気味だ。
扱いやすくなってる今のうちにさっさと連れて帰るとしよう。
足以外にも手当された跡があり結構痛々しい姿に見えるが、母親の話だと足以外は大したことないらしい。
荷物と言っても大したものはなく、ほぼ食い散らかした菓子類の片付けくらいだが。
ゆっくり妹の歩みに合わせながら一階のエントランスに向かう。
まだ松葉杖の扱いに慣れておらず動きがぎこちないが、甘やかすといつまで経っても慣れない。
学校をずっと休むわけにもいかないのでいいトレーニングだ。
普段から運動不足でくっちゃ寝してるし、ほっとくと療養中にブクブクと太るだろう。
普通は逆だが、この機に運動させるのもいいかもしれない。
ロビーに面した車椅子用の男女兼用トイレを発見し誘導する。
普通のトイレより広いからやりやすいだろう。
引き戸を閉め、広いロビーの様子を眺めながら待つ。
神に善悪の基準はあるのだろうか?
あったとしてもそれは人間と同じ価値観なのか?
そもそも分け隔てなく、無茶な願いでも受け付けるのか?
よく見ると待合席で神に祈るように俯いて座っている人間も居る。
病院は考えようによってはモンスターハウスと言えるだろう。
しかもクエスト難易度は奇跡の内容に比例するので、無理ゲーレベルのクエストがうじゃうじゃ存在するのではないか?
例えば妹が「今すぐ足を治してください」と願えば、それこそ奇跡としかいいようがないほどの力が必要だ。
これまでのような偶然レベルでは済まない。
気になってスマホを取り出し、勇者アプリを起動するサクト。
勇者アプリのマップ機能で周辺の情報を取得する。
思った通り、この病院も余裕で昨日のクエストエリアに含まれていた。
神頼みは一人一回のみということだけは分かってる。
それ以外にも何か法則性がありそうだ。
今まで戦闘にしか興味なかったサクトだが、実際に自分が助けられたことで神頼みそのものに対して疑念が湧いてきた。
マップはGPSのような機能も付いており、仲間の位置情報も分かるようになっている。
自分のマーカーに重なって気付くのが遅れたが、もう一人、今この病院に居るパーティメンバーが存在する。
タクシーの運転手に母親から預かった運賃を渡し、妹のことを任せる。
幸い運転手はいい人で快く面倒を引き受けてくれた。
踵を返し、再び病院に入っていくサクト。