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文字数 2,767文字
ココナの唯一の攻撃技は聖剣スキルのみ。
3回しか使えずモンスターにしか効果はないが、敵になるとプレイヤーにも効果が出るようだ。
それはイズミの死亡ログによって証明された。
全滅しない限りプレイヤーの死は現実に実装されない。
つまり、イズミはまだ完全に死んだわけではなく生き返る可能性がある。
そういうシステムだということは十分理解していたが……
唇の感触を思い出すサクト。
委員長が死んだ……。
しかも殺したのはココナだ。
いや、あれはココナじゃない。
しっかりしろ、俺。
聖剣の使用回数は残り2回。
だが麻痺させていた数体はまだ3回使える。
この中から偽物を見つけ出し、防御不能の刃を掻い潜って接近戦で仕留められるか?
作り笑いを浮かべながらゆっくり階段を登るココナの群れ。
このままでは聖剣の間合いに入ってしまう。
――クエストクリア
――奇跡を現実に実装します
委員長は知らない。
彼女が殺された後、あそこで何があったのか。
放課後、屋上。
彼に本当の気持ちを知られてしまった。
どんな顔をして会えばいいのだろう。
いつもは楽しみな勇者部の時間がとても怖い。
ココナは一人、悶々と見つからない答えを探し求めていた。
相談出来る相手は居ない。これまでも、これからも。
勇者になることがこんなに苦しいことだなんて思いもしなかった。
乙森カナセの声。
今日パーティーに加わった最後の仲間。
そして――サクトが初めてクリアした神頼みの依頼主、キューピット。
ココナっちに降りかかってきた災いは半分、ワイのせいなんや。
影ながら応援するつもりが全部裏目に。
辛抱できんようになって直接行動起こしたら、やっぱり裏目に出てもうた。
でもな、何とかあっちの方は解決まで漕ぎ着けそうなんや。
本当の気持ちは文字で表した方がええんかもな。
スマホの写真データを数枚見せる乙森。
そこにはココナを虐めていた女子達と、別れた彼氏達が七夕の笹の前でふざけ合ってる姿が写っていた。
まだ完全に元の鞘に収まるには時間かかるかもしれへん。
ワイのお節介のせいで苦労かけてもうたな、ホンマすまんかった。
でもなー、浮気した男達の気持ちも分かるねん。
ココナっちの方が可愛くてええ娘やもん。
あ、勘違いせんとってな?
あれ以来、無理矢理カップル誕生を後押しするようなお節介はしてへんさかい。
キューピット廃業や。
違うよ。
みんなに好かれようといい顔してきた私が悪いんだもん。
被害者はみんなの方だよ。
みんなを幸せにしたいって思い続けることは、本当難しいよね。
結局その分、誰かが不幸になる必要があるのかもって、ちょっと挫折しかけてる。
実はワイ、この学校の理事の甥っ子なんや。
西条の問題行動はとっくに学校側は把握済み。
お互いそれが分かってて西条はギリギリのラインを保ち、学校側は見て見ぬ振り。
この学校に隠蔽体質があると信じたくなかったワイは、とある裏口資料を盗み見たんや。
二人とも母方の姓に変わっとるし、一般には実名報道されんかったから気付かんかったわ。
学校は二人の素性がバレんように図らってきた。
せやけど二人はお互いの正体に気付いてもうた。
当然、世間に粛清された西条はココナっちを見て見ぬふりなんて出来ん。
それで素性がバレへんギリギリのラインでのイジメが始まったってわけやな。
表情が凍り付くココナ。
作り笑顔の作り方さえもう忘れてしまっている。
ただ無表情の顔に涙だけが零れ落ちる。
ほんま、運命の神様は残酷や。
辛かったな、ココナっち。
あんさんの気持ちはよう分かる。
ワイも普通とちゃうからな。
でもホンマにこのままでええんか?
自分の気持ちを殺して誰からも好かれる人間であろうとする、それはもう呪いとちゃうか?
張りつめていた糸が切れ、小さな子供のように泣きじゃくるココナ。
大切な友達ほど言えない秘密。
それを知った上で初めて出来た友達に、ココナは今まで抱え込んでいたものを吐露するように泣き続けた。