7-6

文字数 2,767文字

計算外にも程があるで……。


これまでの計画が水の泡になるかもしれん。

クリア出来たとしても、ココナっちは乗り越えられるか?

ココナの唯一の攻撃技は聖剣スキルのみ。

3回しか使えずモンスターにしか効果はないが、敵になるとプレイヤーにも効果が出るようだ。

それはイズミの死亡ログによって証明された。

……初めてプレイヤーを死なせてしまった?


この俺がついていながら?

全滅しない限りプレイヤーの死は現実に実装されない。

つまり、イズミはまだ完全に死んだわけではなく生き返る可能性がある。

そういうシステムだということは十分理解していたが……


唇の感触を思い出すサクト。

委員長が死んだ……。

しかも殺したのはココナだ。


いや、あれはココナじゃない。

しっかりしろ、俺。


聖剣の使用回数は残り2回。

だが麻痺させていた数体はまだ3回使える。

この中から偽物を見つけ出し、防御不能の刃を掻い潜って接近戦で仕留められるか?

正直、イズミちゃんに嫉妬しちゃったよぉ。

どうして私がそこに居ないのかって。

モンスターが話しかけて来た!?

ねぇ、どうしてサクトくんは私のこと忘れちゃったの?

とても哀しかったんだよ?

サクトくんとイズミちゃんが付き合ってくれたらいいのに。
サクトくんとエッチしたい。
サクトくんの大事な人は私の中に居るよ。

私を一人にしないで。

私のことは忘れて幸せになってね。
な、何を言ってるんだ、お前は?

作り笑いを浮かべながらゆっくり階段を登るココナの群れ。

このままでは聖剣の間合いに入ってしまう。

偽物は一つで残りは本物のはず。

いや、本物は嘘つきじゃないか。

つまり正直者が偽物なのか?

サクトっち、惑わされたらあかん。

このクエストはもうバグっとる。


ワイに考えがある。

目をつぶって爆裂魔法を詠唱してくれへんか?

おまえ、一体何者なんだ?
――だが俺には分からない。ココナの考えていることなんて……。
ダイナミックボンバー、イグニッション……。
光聖剣、クラウソラス!

乙女はなぁ、白黒つけたくないこともあるんやでぇ。


ニセモンはおまえや!

サクトの腕を誘導し、乙森は爆裂魔法を照準した。



――クエストクリア

――奇跡を現実に実装します








あ……私、イズミちゃんを……!
現実が動き出すなり、ココナはイズミに抱き着いてむせび泣いた。

やっぱり七夕なんか大嫌い!


ごめんね、ごめんね!

気にすることないわ。

よく分かんないけど、そのおかげでクリア出来たんでしょ?

ん?

ああ、そうだな……。

委員長は知らない。

彼女が殺された後、あそこで何があったのか。

おい、乙森。

訊きたいことが山ほどある。

分かるよな?

しゃーないなー。


その代わり……今日のところはこのままそっとしてやってくれんか?

ワイはもう逃げも隠れもせーへん。

落ち着いたら答え合わせしたる。


男の約束や。

…………。

はぁ、なんで良かれと思ってやってることが、こうも裏目裏目に出るんやろうなぁ。

そういう星の下に生まれて来たんやろか。


恨むで、運命の神様。






放課後、屋上。


彼に本当の気持ちを知られてしまった。

どんな顔をして会えばいいのだろう。

いつもは楽しみな勇者部の時間がとても怖い。


ココナは一人、悶々と見つからない答えを探し求めていた。

相談出来る相手は居ない。これまでも、これからも。


勇者になることがこんなに苦しいことだなんて思いもしなかった。

だけど……これが私の罪に対する罰なんだよね……。
今日の勇者部は中止やって言われたはずやけどな。

やっぱ上の空やったんか。

乙森カナセの声。

今日パーティーに加わった最後の仲間。

そして――サクトが初めてクリアした神頼みの依頼主、キューピット。

それとも、あの手紙のこと期待してくれてたんか?


……悪いけど予定狂ってもうたわ。

グラウンドを見下ろすココナの隣に移動し、手摺りにもたれかかる乙森。

ココナっちに降りかかってきた災いは半分、ワイのせいなんや。

影ながら応援するつもりが全部裏目に。

辛抱できんようになって直接行動起こしたら、やっぱり裏目に出てもうた。


でもな、何とかあっちの方は解決まで漕ぎ着けそうなんや。

本当の気持ちは文字で表した方がええんかもな。

スマホの写真データを数枚見せる乙森。

そこにはココナを虐めていた女子達と、別れた彼氏達が七夕の笹の前でふざけ合ってる姿が写っていた。

まだ完全に元の鞘に収まるには時間かかるかもしれへん。

ワイのお節介のせいで苦労かけてもうたな、ホンマすまんかった。


でもなー、浮気した男達の気持ちも分かるねん。

ココナっちの方が可愛くてええ娘やもん。


あ、勘違いせんとってな?

あれ以来、無理矢理カップル誕生を後押しするようなお節介はしてへんさかい。

キューピット廃業や。

違うよ。

みんなに好かれようといい顔してきた私が悪いんだもん。

被害者はみんなの方だよ。


みんなを幸せにしたいって思い続けることは、本当難しいよね。

結局その分、誰かが不幸になる必要があるのかもって、ちょっと挫折しかけてる。

例えそうだとしても、幸せを分け与えることが出来るように、不幸もみんなで分け合えば少しは楽になるやん?


とあるガキンチョの受け入りやけど。

どうしてそれを知って……。

実はワイ、この学校の理事の甥っ子なんや。


西条の問題行動はとっくに学校側は把握済み。

お互いそれが分かってて西条はギリギリのラインを保ち、学校側は見て見ぬ振り。

この学校に隠蔽体質があると信じたくなかったワイは、とある裏口資料を盗み見たんや。

二人とも母方の姓に変わっとるし、一般には実名報道されんかったから気付かんかったわ。


学校は二人の素性がバレんように図らってきた。

せやけど二人はお互いの正体に気付いてもうた。

当然、世間に粛清された西条はココナっちを見て見ぬふりなんて出来ん。

それで素性がバレへんギリギリのラインでのイジメが始まったってわけやな。

表情が凍り付くココナ。

作り笑顔の作り方さえもう忘れてしまっている。

ただ無表情の顔に涙だけが零れ落ちる。

ちょ……、脅迫とちゃうで!?


ワイはそれを知って、ココナっちを応援したくなったんや。

むしろ味方やで?

本気で慌てふためく乙森。

ほんま、運命の神様は残酷や。

辛かったな、ココナっち。

あんさんの気持ちはよう分かる。

ワイも普通とちゃうからな。


でもホンマにこのままでええんか?

自分の気持ちを殺して誰からも好かれる人間であろうとする、それはもう呪いとちゃうか?

だって……だって私には他に償いようが!

決めるのはココナっちや。

グランドクエストにも関係あるんやろ?

喋るなと言えばあの二人にも絶対喋らん。


ただせめて、思い出作りには協力させてくれへんか?

……ぐしゅ。


わぁぁぁぁぁぁぁ!!

張りつめていた糸が切れ、小さな子供のように泣きじゃくるココナ。


大切な友達ほど言えない秘密。

それを知った上で初めて出来た友達に、ココナは今まで抱え込んでいたものを吐露するように泣き続けた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色