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文字数 2,133文字

私を頼ってくれるなんて嬉しいです♪
乙女心を一番よく知ってそうだったので。
悪かったわね、役に立たなくて。
放課後、サクトとイズミは二人で隣街のウララの占いスペースにやって来た。

そうですねー。

ただ傍にいて、悩みを聞いてくれるのが一番嬉しいですね。

でも大切な人だから話せない悩みもあります。


そんな時はパーッと忘れて遊びまくるのもアリでしょう。

一時的な効果なので、ただの友達としてならですけど。


もうちょっと特別な友達アピールをチラつかせたい時はコレ、王様の耳はロバの耳作戦!

そう言ってテーブルに取り出したるは、お一人様用七夕セット。

インテリアとして机の上に飾れそうな、植木鉢に笹が刺さっているミニチュアだ。

大切な人からの贈り物に、伝えられない淡い想いをひっそりと飾り付けるのです!

溜め込んでいたものを文字にして吐き出すとスッキリしますよ♪

そう言われるとすごく理に叶ったプレゼントのように思える。
委員長はどう思う?

まぁ嬉しいんじゃないかしら。

乙女心を持ってない私でも。

根に持つなよ……。


じゃあそれ一つください。

二人からなんだから割り勘よ?
分かってるっつーの。

毎度ありがとうございます♪


ところで、お二人は付き合うことにしたんですか?

違いますっ!
違いますっ!

あら、息ピッタリ。うふふ。


また来てくださいねー♪

その一言で思い出し、思わず唇を隠すイズミ。

早歩きで立ち去ろうとしたサクトだが、突然踵を返す。

すいません、もう一個ください。







夕暮れ、旧校舎の前で笹に飾られた色とりどりの短冊を見上げる生徒会役員達。

今年は豊作ですね。
キューピットが張り切り過ぎたからじゃないですかー?
そういえば彼、勇者アプリに参加していたよ。

え?


そんなっ! 約束が違いますよ、会長!!

ワタクシという者がありながらっ!

落ち着きたまえ、鞘家(さやか)君。

彼はもうひとつの勇者パーティーに加わったのさ。

はっ!?

そんな裏技が!!


キィィィィ、抜け駆けなんて許しませんわぁぁぁぁ!!!

せんぱーい。

顔面が作画崩壊してますよー。

しかし参ったね。

これでもう彼の力は使えない。

代わりに本瓦(ほんがわら)君というカードが手に入ったが。

あんな男女、居なくても問題ありません!

会長にはワタクシ、鞘家トモエが付いております!!

お役に立てるよう、本瓦リリネも頑張りまーす。
ははは、期待しているよ。

あー、かいちょー。


短冊にオカ研からの予告状が紛れ込んでますよー。

ふむ……。


これは魔王も困らせる案件だね。






日が暮れ、夜の帳が落ち始める。

アパートに帰宅し2階への階段を登っていくココナ。

玄関の前に黒ずくめの人物が座っている。

サクトくん……?

……お帰り。


これ、委員長と俺から。

誰にも言えない事で悩んでるなら、文字にぶつければ少しは楽になると思うぞ。

勇者の願いはクエストにならない、ただの気休めだけどな。

あ、ありがと……。

じゃあまた明日な。

遅くなると妹がブチギレる。

それだけ告げるとサクトはさっさと退散した。

茫然と見送ってから受け取った包みの中を確認すると、そこには小さな七夕の笹のインテリアが入っていた。

メッセージカードの代わりに短冊が一つ。


『ココナが誕生日を嬉しいと思える日でありますように』



――ぽろぽろ。

私今日、泣いてばかりだったね。

ごめんね……ごめんね……。


でもこれは嬉し泣きだよぉ。

あの日から生まれて来たことを後悔し、誕生日を楽しめなくなっていた。

そしてお母さんのように祝おうとしてくれた人をまた悲しませてしまった。


思い出を無駄にしたくない――何かがココナの中で変わり始めた日だった。









本当はちゃんとパーティーとか開いてやった方がいいのかもしれんが、今はこれが精一杯だな。

いつもの天然ボケに戻ったらスイーツでも奢ってやるか。


さて、俺らしくないことをもう一つ……。

ゴトッ。



帰宅後、晩御飯と一緒にもう一つの七夕セットをヒメリの部屋の前にお供えした。

自室のベッドで悶えるサクト。

俺きめぇぇぇ! シスコンかよ!

だが後悔して悩むのもキモイ。


……もう寝るか。






次の日の朝、リビングに妹が居た。

おにぃ、昨日はあんなに早く寝たのに今頃起きて来たの?

オ〇ニーしすぎ。

昨日までの態度はどこへやら。

骨折してない方の足を椅子の上でブラブラさせながら、卵サンドをパクついている。


――我が妹ながらチョロ過ぎだな。


岩戸はあっさり開いた。

おかーさん、もう行っちゃったから、おにぃがオムツ穿かせて。

甘えんな。

つか、ノーパンで足ブラブラさせんな。

ピンポーン♪

ほら、お迎えのナイト達がやって来たぞ。


取って来てやるから……どこに置いてるんだ?

めんどくさいからこのままでいーや。
ヨッと、松葉杖をついて玄関に向かう妹。
アホかぁぁぁ!
ペロンとスカートをめくるヒメリ。

冗談だもーん。

ちゃんと穿いてるもん。


大人になった妹を見たかった?

黙れ、マセガキ。

表の小僧共にお前の本性暴露すっぞ。

はいはい、いってきまぁす!

やれやれ、こっちも一件落着ということにしておくか。


文字は魔法の言葉だな。

ヒメリの部屋のインテリアには二つの短冊が飾られている。




『ヒメリの足と頭が早く良くなりますように』


『おにぃがいつまでも妹を可愛がってくれますように』






Quest:7 星に願いを  ――END




Next Quest:秘密の花園

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登場人物紹介

影浦《かげうら》サクト


目立つことを嫌い、日陰人生を歩み続けるムッツリ根暗男子高生。2年1組。

何でも理論的に考えそつなくこなすが、リアルでは上手く行かない場合も多い。

ただ「ゲームはプログラムを裏切らない」と、ゲーム業界ではネットでも結構有名な上級者。


ロールは「爆音の魔術師」。スキルは「フレイムワークス」。

煌咲《きらさき》ココナ


キラキラしているが、影であざといと虐められてる天然女子高生。2年5組。

女友達はおらず、男友達も作ろうとしないが……。


ロールは「光の勇者」。スキルは「クラウソラス」と「ヘブンズゲート」。

四十万《しじま》ハル


サクトとは腐れ縁の狐顔のクラスメイト。

情報屋として学校でこっそり商売をしている。

内藤《ないとう》イズミ


サクトのクラスの委員長。

正義感が強く真面目な優等生だが、得体の知れないものに対しては極度のビビリ。


ロールは「鉄壁の騎士」。スキルは「アイアンメイデン」。

影浦《かげうら》ヒメリ


サクトの妹。小学4年生。構ってもらいたいマセガキ。

ゲームが大好きで意外と同級生男子にモテる。

星見《ほしみ》ウララ


喫茶ナインボールに出入りしている占い師のお姉さん。

勇者メグムのパーティーメンバー。

サクトの学校の教師に兄が居る。

至宝《しほう》メグム


喫茶ナインボールに入り浸る探偵のおっさん。

実は勇者の一人で、複数の勇者グループをまとめるリーダー的存在。

皆川《みながわ》ミナコ


喫茶ナインボールでアルバイトしてる医学部女子大生。

ウララとは仲が悪い。

玉井《たまい》クロウ


喫茶ナインボールのマスターで勇者メグムのパーティーメンバー。

喫茶店は夜はバーになり、勇者コミュニティーの溜まり場となっている。

山田《やまだ》ヒデオ


妻子を持つ叢雲商会のサラリーマン。中年のベテラン勇者。

パーティメンバーは同じ会社員だったが、二人は転勤になった。

西条《さいじょう》ネネ


ココナのクラスメイトでイジメグループのリーダー的存在。

ココナを相当恨んでいるが理由は不明。


乙森《おともり》カナセ


ココナのクラスメイト。生徒会会計で叔父は理事。

世話焼きで困っている人をほっとけない。しかし裏目に出る事もしばしば。

御門《みかど》トウヤ


サクトの高校の生徒会長。3年生。

鞘家《さやか》クロエ


サクトの高校の生徒会副会長。3年生。

本瓦《ほんがわら》リリカ


サクトの高校の生徒会書記。1年生。

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