7つの証言
文字数 5,798文字

<小学校時代のクラスメート・A子さんの証言>
「明るい子だったよ、活発って言うかお転婆でね、アイドルグループの振り付けとか真っ先に憶えて踊ってた、うん、歌は上手って程でもないけど大きな声で歌ってたしダンスはキレッキレだったね。
小学生で童顔って言うのも変かもだけど、ほっぺたがぷっくりしてて少し目尻が下がってて、おまけに寄り目気味だったでしょう? しかも小柄だったから一学年か二学年下に見られがちだったなぁ……小学生の頃って少し大人びた感じの子がモテるから美羽のこと好きな男子がいるって話は聞かなかったなぁ、美羽の方でもあんまり男の子に興味ないのかと思ってた、恋バナになるとあんまり喋んなかったし。
明るいし面白いこといっぱい言うから女子の間では人気あったよ、なんとなく恋敵にはなりそうにないって安心感もあったのかもね……」
<中学校時代のクラスメート・B実さんの証言>
「明るくて面白い子だったよ、運動神経が良くてね、昼休みには男子に混じってサッカーなんかしてたし、部活はバスケ、小柄だったけど機敏だから結構活躍してた。
うん、そういった部分では男子にも人気あったね、でも何となく女の子扱いされてないみたいな感じはあったかもね、あんまり『女の子』を感じないから気安いみたいな。
女の子でたむろして恋バナとかしてる時は一歩引いて聞き役に廻ってるようなところあったなぁ、でもね、あたしは特に仲良くしてたからあたしは知ってるんだ。
3年間で3人に告ってたね、3連敗だったけど……『ごめんされちゃった』ってあたしには話してくれたから知ってるんだ。
そんな時ね、なんか笑顔で話してたけど無理してたんじゃないかな、顔がちょっと歪んでたもん、ホントは傷ついてて辛いんだろうなって思ってた。
うん、それなりに『恋多き女の子』ではあったんじゃない?」
<高校時代のクラスメート・C恵さんの証言>
「実は中学も一緒だったんだよね、でも同じクラスだったのは中一の時だけだったし、部活も違ったから接点はそんなになかったかな。
ウチの中学から同じ高校に上がったのはあたしと美羽だけだったんだよね、入学式の時に、あれ? 美羽かな?って思ったけどはっきりとはわかんなかった、同じ高校に入ったの知らなかったし。
クラス分けして最初の日に簡単な自己紹介の時間があって、『ああ、やっぱりそうなんだ』って感じ。
そう、美羽ね、思い切りイメチェンしてたの。
ポニーテールだった髪をほどいて軽く内巻きにしてほっぺた隠してね、おでこを出すのもやめて前髪を眉ぎりぎりで揃えて大人しい感じになってた、学校にメイクしてくるわけにはいかないけどラメ入りのリップとかつけて怒られたりもしてた、しゃべり方とかにも気を付けてたみたい、とにかく大人っぽく見せようと必死なんだなって感じてた。
公立中学だと同じ小学校からそのまま上がる子が多いじゃない? あたしの小学校からは半分くらいだったけど、美羽のところからは私立に行く子以外はみんなウチの中学へ上がったんだよね。
でも高校上がる時ってバラバラじゃない? ウチの中学の近くにほどほどの偏差値の公立高校があったからそこへ上がる子が多かったんだけど、あたしと美羽は少し離れた私立。
実はあたしもその公立高校受けたんだけど落ちちゃって、私立はすべり止めだった、美羽も『同じだよ』って言ってたけど、もしかしたらわざと落ちたんじゃないかって思うこともあったんだ。
なぜって、中学時代の美羽とは違う美羽になりたい、って思ってるのをひしひしと感じてたし……だから中学時代からの知り合いがいない高校の方が良かったんじゃないかな……実際、美羽は結構成績良かったからあの公立高校落ちたってちょっと信じられなかったんだ。
でね、高1の時に一つ先輩の男子に告って付き合ってた。
学校でも結構ベタベタしてたからみんな知ってたよ。
でもね、先輩が卒業しちゃうとそれきりだったみたい。
あのね……身体の関係もあったみたい、その頃には美羽はかなり胸が大きくなってたから先輩はそれが目当てだったんじゃないかって……先輩の方も美羽と付き合ってることは認めてたけど結構そっけなく見えたし……部活の先輩の話だとクラスでは半ば公然の秘密みたいだったみたい。
3月にふられて、それから夏休みまではボロボロだったなぁ、生気がなくなって何もやる気起きないみたいだった。
でもね、夏休みが終わって9月に登校して来た頃にはかなり立ち直ってたよ、髪型も元のポニーテールに戻ってたけど顔つきが変わってたから全然イメージが違ってキリッとした感じに見えた……前だけ見てる、前しか見えないって感じで人を寄せ付けないような雰囲気もちょっとあったなぁ。
そこから試験勉強を猛然と頑張り始めてそこそこの大学に合格したんだから、やっぱ地頭は良かったんだと思う。
大学行ってから? さぁ、特別親しくしてたわけじゃないから知らないなぁ……。
<大学の同期・D江さんの証言>
「美羽? 2年の頃まで付き合ってたなぁ、同じ学科だったから。
いわゆる学生運動みたいなのはもうほとんどなくなってたんだけど、美羽はフェミニズム運動に加わってた、あたしも誘われて時々顔は出してたけどあんまりのめり込みはしなかった、でも美羽はかなり熱心だったよ。
性的暴行やDVで傷ついた女性の支援活動だとか、社会からドロップアウトしちゃった女子高生や女子中学生の更生プログラムだとか、シングルマザー支援だとか。
その団体って政治家や弁護士とかとも連携してたし、公的資金の援助を受けて企業のサポートなんかも受けてた。
あたしはねぇ……確かにやってることや主張は正しいと思ったから関わったんだけど、なんて言うか、その……一種の胡散臭さみたいなのも感じてたんだよね、でも美羽はそうは感じてなかったみたい。
3年になってあたしはすっぱり縁を切ったんだ、なんか就職活動に不利になるような気がして……打算的とかって思われるかも知れないけど、やっぱりわが身がかわいいもん。
美羽はね、そっち方面で就職するって言うか、卒業後もフェミニズム団体に残るつもりだって言ってたし、実際そうしたよ。
だから、3年の頃からはもうあんまり付き合いなかったし、卒業してからはもう全然。
中学、高校の頃何があったのかは知らない、聞いても『別に何も』としか言わなかったし。
でもね、男性と男性社会を嫌ってることは確かだったと思う、それこそ蛇蝎のようにね。
美羽のそんな様子も『胡散臭い』って感じた一因だったのかな……今思えばだけど」
<女性支援団体の後輩・E美さんの証言>
「美羽さんですか? ええ、3つ年上で女性支援団体の先輩でした。
すごく熱心に活動されてましたよ。
私は高校の頃からグレ始めて卒業間際で退学になっちゃって、実家からも追い出されて男のところに転がり込んだはいいけどDVに遭って逃げ出して夜の街に立ってたところをこの団体に拾われてたんです。
今ですか? ちゃんと仕事を見つけて自立してます、まぁ、派遣社員ですけどね。
その頃は本当に助かったと思ったし、素晴らしい団体だなと思って活動のお手伝いをするようになって2年くらいしたら、なんか変だなって思い始めたんです。
最初、DVでうつ病になったと申告するように言われて、おかげで生活保護を受けられたんですけど、入金されたお金は団体の管理にされたんですよね……ええ、お手伝いは完全にボランティア扱いで、私の生活費は生保だけ。
それと2DKのアパートを2人でシェアしてたんですけど、アパートは団体が借り上げててあたしたちからは家賃5万円だったんです、でも不動産屋さんのウインドウに貼られているチラシを見ると、もっと新しいアパートでも相場は7~8万円だったんですよね、2人から5万円だと2~3万円は団体の利益になるわけじゃないですか。
もちろん人件費や経費が必要なのはわかるんですけど、私みたいに無給でお手伝いしてる人も多かったですし、公的援助や企業からの援助の大まかな額を知ると、数学どころか算数ですら苦手な私でもなんか計算合わないな……って。
確かに自分ひとりじゃ生活保護は受けられなかったと思うし、5万円じゃ部屋は借りられないんで助かってた部分はあるんですけど、非営利団体って言ってるのになんか変だなって。
それとデモや集会に参加するようにも言われました、建前では自主参加なんですけど、行かないと後で怒られるし……。
そんな素朴な疑問を美羽さんに話したら、その時は『恩知らず』って言われましたよ、でも美羽さんも何か考え込んでるような様子だったんですよね。
その時のことが関係してたのかどうか知りませんけど、1年くらいしたら美羽さんも団体から離れたって聞いてます。
<祖母・Fさんの証言>
「美羽のことね、ええ、ダンナの会社で働いてますよ。 まあ、小さな土建屋ですんでね、身内ってこともあって大したお給料は渡せてないですけどね。
大学生の頃からフェミニストって言うの? 女の地位や権利ってことをやいのやいの言ってたね、あたしゃ男と女じゃ役割が違うのはあたりまえだって思ってるけどね。
そりゃお給料やなんかで差をつけられるのはおかしいとは思うけどね、あたしにゃ土建屋の職人はできゃしないよ、力仕事だからやりたいとも思わないしさ、あたしの仕事は経理だね、それと従業員のみんなが気持ちよく働けるように事務所を掃除したり、現場から帰ってきたらお茶を出してあげたりね、女がそういうことをすることに目くじら立てるってのはなんか違うと思うね。
ま、職人たちはあたしみたいなばあちゃんじゃなくて若い娘からお茶もらった方が嬉しいよね、あははは。
美羽は女性支援団体とかで働いてるって聞いたんだけどね、なんか知らないけど悩むところがあって辞めてきたんだよ、で、家でぼーっとしてるって言うからさ、遊んでるんならウチを手伝っとくれって言ったんだ、あたしもそろそろ楽したかったしさ。
理屈っぽい子だったからダメ元でそう言ったんだけど、2~3日経ったら向こうから『働かせて』って来たんだよ、もちろんこっちは大助かりさ。
職人たちもいい加減歳行ってるのばっかりだからさ、フェミニズムだのジェンダーフリーだのって言われても『そりゃなんのこっちゃ?』だよ、あたしだって美羽がそういう話ばっかりするから知ってただけでね、だからひょっとすると合わないかなとも思ったんだけどさ、案ずるより産むが易しだったね。
職人は事務所に戻れば若い娘がいるのを喜んでてさ、あけすけな冗談言ったりするんだよ、美羽はおっぱい大きいから格好のネタだよね。
でも美羽は怒らなかったよ、『立派でしょ? 触ってみたいですかぁ?』なんてね。
まあ、ホントに触っちゃうのはいなかったけどね、目の保養にはなってたみたいだね。
仕事もすぐに覚えてくれたよ、まあ、夜間高校卒のあたしでもできる程度の帳簿付けだからさ、大学出てる美羽には簡単だったんだろうね。
あたしはお嫁に行くまでの腰掛で良いって思ってるんだ、ダンナが足腰立たなくなったらこの会社もたたむつもりだしね。
だけどね、美羽は嫁に行く気はないって言うんだよ。
その辺りはフェミとかジェンダーの影響がまだ残ってるのかねぇ……。
だからからかねぇ、ウチの給料だけじゃ貯金まではできないって言って、夜のアルバイトも始めたんだよ、バニーガールっての? 水着みたいな服着て頭にウサギの耳くっつけてね。
いきなり髪の毛がピンクになった時は腰ぬかしそうになったよ。
危なくないのかい? って聞いたことあるんだけどさ、お触りとかは全然なしで、若い娘がそういう格好してお給仕するのを見て楽しむだけのお店だから大丈夫、せっかく立派なおっぱいくっつけてるんだから有効に使わなきゃ、だってさ……。
<バニーガールクラブの同僚・G代さんの証言>
「美羽? ここで働き始めたのはあたしの方がちょっとだけ早かったけど、同い年だし仲良くしてる。
明るくて積極的な娘だよ、初出勤の時から髪をピンクに染めてたんでびっくりしちゃった。
だってかなりセクシーな衣装で接客するでしょう? 時給がいいからやってみたけどやっぱり恥ずかしいとか言って2~3日で辞めちゃう娘もいるのにね、ずいぶん思い切ったことするなぁって思った、なんかお祖父ちゃんの土建会社で事務してるって言うからピンクの髪でも問題ないのかも知れないけどさ、あたしは昼間普通のOLだから未だに黒髪。
ウチの店はお客さんの隣に座ったりすることないし、お触りはNGってなってるけど、やっぱりサワッとお尻触られたりくらいはあるんだよね、テーブルにグラスを並べたりする時胸元をガン見されるのは普通だしね。
美羽は胸大きいからやっぱり『大きいねぇ』くらいは言われるみたい、でもそんな時でも美羽はニコニコしてるよ、恥ずかしくないことはないけどそう言われて悪い気もしないって。
ナイスバディに童顔だからお客さんには人気あるよ、美羽目当てで通ってくる人もいるんじゃないかな、指名とかないからわかんないけど実際は結構いると思うよ。
プライベートでも時々一緒に遊んだりしてるけど、屈託なく笑う、一緒にいて楽しい友達だよ。
なんか以前はフェミとかジェンダーとかにのめり込んでたらしいけど、今は全然そんな感じしない、一周廻って突き抜けちゃったのかもね」
<再び、祖母・Fさんの証言>
そういう店で働くって、あたしみたいに古い人間からするとなんだかなって思わないでもないけどさ、生き生きと働いてるみたいだから、まあ御の字だね。
行ったことあるのかって? さすがにあたしはないよ。
ダンナが職人を引き連れて行ったことあってね、『眼福ものだった』だってさ、まあ、あたしのしなびたおっぱいと美羽のじゃ月とスッポンだけどね、美羽のおっぱいはあたしからの隔世遺伝だよ、あたしの娘、美羽の母親のはぺったんこだもの。
さすがにダンナは一回行ったきりだけどさ、職人たちは時々通ってるみたいだね、またそれをネタに事務所でも笑いが絶えないんだから、それはとってもいいことなんだろうね、あたしはそう思ってるし、美羽もまんざらじゃないみたいだよ……」