トルココーヒー

文字数 2,036文字

 2014年11月の表紙絵につけたストーリーです、表紙絵にストーリーを付けてBBSに投稿する、と言うのは2014年8月から始めたものでして、それ以前のイラストに付けたストーリーは思いついたら書くということで良いのですが、この時はもう恒例になっていたので何とか考えないといけない、ところが中々思いつかず、背景のコーヒーショップに頼りました(笑)
 トルココーヒーの占いをウィキで調べて何とかまとめたストーリーです。




          トルココーヒー

「何が出た?」
「ちょっと待ってね…ほら」
 彼女はソーサーをかぶせて揺すったカップの中を覗いてちょっと微笑み、僕のほうに滑らせた。
 トルココーヒーを飲み終えた後のちょっとした楽しみ、コーヒー占いと言うやつだ。

 よく待ち合わせに使うこの喫茶店のメニューにはトルココーヒーが載っている、僕には粉っぽすぎ、甘すぎるんだけど、彼女はあの(・・)旅行以来嵌っている、この店を指定して来るのはそれが目当てでもあるらしい。
 まあ、今日はちょっと思うところあって僕もトルココーヒーを頼んだんだけどね。

________________________________________
 
 彼女と出会ったのは昨年の夏、トルコに一人旅をした時のこと。
 イスタンブールの、ガイドブックには載っていない小さなレストランで一人旅らしき女性を見かけた、彼女の方は英語ならある程度話せるようだが店員の方はさっぱりだ、見かねて助け舟を出したのがきっかけだった。
 トルコ語が達者なわけではないが、僕は二週間の旅の終わり近くで彼女はトルコに着いたばかり、少しは僕の方にこの国を旅するスキルがあったと言うだけだけどね。
 
 僕も彼女も気ままな一人旅、そして二人とも次の目的地はカッパドキア、と言うことで三日間行動を共にした、僕が借りたスクーターの後ろに彼女が乗って。
 四日目、僕が帰国する日の早朝には定番の気球…高所恐怖症の僕は彼女に袖を引っ張られなければ乗らなかっただろうと思うけど彼女は大喜び…僕は籠の中でしゃがみこんでたから朝焼けに染まった彼女の顔を斜め下から見ていただけだったが…。

________________________________________

 日本で再会したのは九月のこと、それ以来喧嘩したり仲直りしたり…。
 彼女はマイペースで頑固、と言うより自分の直感に忠実すぎるきらいがある、その上ちょっと天然も入っているから思い切り振り回されてしまうんだ。
 喧嘩の度に「もう会うもんか」と思うんだけど、しばらくすると何事もなかったかのようにあっけらかんと明るい調子のメールが届く、すると、また会いたくなっちまう…さんざん振り回されて腹を立てたのも忘れて。
 実は今日も一月ぶりの再会、前回のデートで喧嘩しちまったんだけど、彼女の方はそんなこともうすっかり忘れているかの様に相変わらずのマイペース、そんな彼女を眺めているのが楽しいんだから、僕も相当イカレてるけどね。

________________________________________

「何ニヤニヤしてるの?」
「あ、いや、ちょっとね…」
 トルココーヒーは粉状に挽いた豆を同量の砂糖と一緒に小さな鍋で煮立てるから、かなり苦くてばっちり甘い。
 そしてちょっと揺らすと粉が舞ってしまうけど、それが収まるのを待って口に運ぶ。
(まるで僕らの関係みたいだな)と思ったら少し可笑しくなったんだ。
 
________________________________________

「取っ手の方に流れてるけど、これはどういう意味?」
「ふふふ、内緒」
 いつもこんな風にはぐらかされるんだけど、実は僕も最近ちょっと調べてみて知っている。
『大きな幸運に恵まれます、 直感力、想像力が冴えます』って言う卦だ。

「あなたのは?」
「ほら…」
 僕のは飲み口の方に流れている。
「ふぅん…」
 彼女はちょっと不満げに口を尖らせた。
 飲み口に流れるのは『直感を過信せず、結論を急がずじっくりと考えましょう』って言う卦なんだ。

________________________________________

 僕らの関係はまだカップの中で粉が舞っていると言うところ。
 そして、彼女が微笑んだ『大きな幸運』が僕の想像通りなら、『結論を急がずじっくり考えましょう』ってのは的を射ている、すっかり粉が沈むまで待て、と言う神様のアドバイスなんだろう。
 粉がすっかり落ち着くまではまだ少し時間がかかりそう、粉が落ち付いた後、どんな占いが僕らを待っているんだろうな。
 ま、そこまで無事にたどり着けたなら、彼女は『大きな幸運』の方を引っ張り出すだろうけどね。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み