【八十六丁目】「「ここはお姉さんに任せなさい…!」」
文字数 5,140文字
そもそも…
いつもはあけすけで、あんまり男性の目も気にしない
単独行動が多くて、協調性に難があった
こうなると、私も好奇心を押さえられない方なわけで。
早速、探りを入れてみることにしました。
まずは、輪ちゃん。
彼女は気が強くて、男っぽい性格だけど、根っこの部分はかなり「乙女」なところがあるのよね。
男性とお付き合いした経験があるかまでは知らないけど、三人の中で、一番変化が顕著だったのも彼女。
なので、朝のロッカー室でちょっと
「おーす」
「あら、おはよう」
「最近、遅刻しないわね。偉い偉い」
「うっさい。お母さんかあんたは」
「…」
「…」
「な、何だよ?人の胸をジロジロと…」
「ふむふむ。今日もちゃんとしたブラをつけてるわねぇ」
「いつもはスポーツブラでラフに過ごしてたのに…どういう風の吹きまわし?」
「べ、別に何でもねーよ!」
「…もしかして」
「誰かに見せる気~?」
「バ、バッカ!んなワケあるか!!」
「ふぅ~ん?慌ててるのが一層怪しいわねぇ」
「ひょっとして、
「ち、違う!」
「ハイハイ、冗談よ、じょーだん」
「一瞬、
「…え」
「よし、と。んふ、身支度準備オッケー♪」
「それじゃ、お先に~」
「ちょっと待った!」
「ん?」
「どうしたの?血相変えて」
「…今の話、マジか?」
「今の話?」
「何だっけ?」
「だ、だからさ…その、何だ…
「ああ、それね。マジよ、大マジ。何でも黒が好きらしいわよ、彼」
「しかも、
「く、黒いので娼婦っぽい!?…そ、そうか…あったかな、そんなの…」
真剣な顔で、ブツブツ悩み始める輪ちゃん。
そして翌日。
ものの見事に、せくしーな黒い下着を付けてきた彼女を見て、私は一つの確信を得ました。
これは…何か、面白い!と。
あ、ちなみに十乃君の好みが「黒」っていうのは、方便です。
てへ☆
次は摩矢ちゃん。
彼女は冷静で勘が鋭いから、下手な探りは自殺行為になる可能性があるのよね。
一方で、以前は無表情で感情の機微が分かりにくかったんだけど、最近は微妙に読み取れるようなレベルになっているのはキーポイントかしら。
それを揺さぶるには、少しばかり刺激が必要かも。
ここは私も一丁身体を張って動くべきかなぁ。
取り合えず、役場の中で彼女がよく通るポイントを押さえて、それで十乃君も呼び出して…
「…?」(←無人の会議室の前を通りかかった際、中から人の気配を感じた摩矢)
(あ…んっ…ダメよ、乱暴にしちゃ)
(
(す、すみません…つい、興奮して…)
(うふふ…もしかして、十乃君…)
(初めてなの…?)
「!?」(←表情を強張らせて会議室のドアにかじりつく摩矢)
(は、はい…この歳で恥ずかしいんですが)
(そっかあ…でも、嬉しいな。私が最初の相手なんて)
(それじゃあ、たっぷりサービスしちゃおうかな?)
(サ、サービスですか!?)
(そうよ。十乃君はどんなプレイがお好み?)
(お姉さん、頑張っちゃうわよ♡)
「…っ!?…っ!!」(←一旦離れようとするも、ドアの前をウロウロする摩矢)
(それじゃあ…ごにょごにょ)
(いやん♡十乃君たら、大胆ねぇ)
(さすがに私もそれは初めてだけど…いいわよ。女に二言はないんだから)
(ほ、ホントにいいんですか!?)
「!!」(←再びドアにかじりつく摩矢)
(うふふ、こうなったら私も本気になっちゃうわよ~)
(楽しませてあげるわ、十乃君♡)
(…で、でも、役場の中でこんなことをしていいんですかね?)
(今は昼休みだし大丈夫。それにこれはね…)
(二人だけのヒ・ミ・ツでしょ…?)
「…!」(←キッと顔を上げる摩矢)
バンッ!!
「ほーるどあっぷ…!」
「わぁっ!?摩矢さん!?」
「あらあら~」
「見付かっちゃった」
「ふ、二人とも!すぐに離れて、衣服を……え?」
「あー、ビックリした!急に入って来るから驚きましたよ、摩矢さん」
「あっ…あーあ、ゲームオーバーになっちゃった」
「もう、せっかくもう少しでクリアできるところだったのに…」
「…………………………………………何、してたの?」
「え?ああ、二弐さんと二人でスマホのアプリでゲームをしてたんですよ」
「やっぱり『
「十乃君ってば、いくらやりこんでるからって大胆過ぎるわよ」
「え…でも…初めてって…」
「いやあ…実は僕、このゲームで協力プレイって初めてで。いい歳してゲームなんてものお恥ずかしいですが、二弐さんもハマってるって聞いて、つい…」
「じゃ、じゃあ…さっきのデ、デリケートって…」
「十乃君、熱中するとスマホをぎゅうっ~て握りしめてるんだもの」
「あんまり強く握って壊れないか心配でね~」
「……」
「ま、摩矢さん?どうしたんです、疲れた顔をして?」
「うるさい。何でもない」
「その割には血相変えて飛び込んできたけど…」
「ホントに何でもなかったの…?」
「…ッ!」
そうして。
摩矢ちゃんは顔を真っ赤にして、後ろも見ずに立ち去っちゃったんだけど…
えへへ、ちょっと刺激が強かったかしらね?
でも、彼女のあの反応は、正に「ある特定のステータス異常」を発症しているのを裏付けているわね。
そして…
その原因は間違いなく、いま私の前で不思議そうに立ち尽くしている「彼」にあると見たわ。
これは…ますます、いーこと知っちゃった♪
最後は沙槻ちゃん。
彼女は世俗に
でも、答え合わせがてら、私は彼女の心境も確認しようと思いました。
そこで、事務室で二人きりになった際、ふと溜息を吐いた彼女に切り出してみたの。
「ふぅ…」
「さーつきちゃん♪ハイ、これ!」
「お茶も煎れたし、休憩しよっか?」
「ふたにさま…ありがとうございます。あの、これは…?」
「ふふっ、マカロンっていうのよ」
「沙槻ちゃん、あんまり洋菓子を食べたことがないって言ってたから、買って来たの」
「『まかろん』…はじめて、めにしました。とても、あざやかなしきさいのおかしですね」
「可愛いでしょ?でも、このお店のは味もいいわよ~」
「ほら、遠慮せずにどうぞ♪」
「はい…あむ…ん、もぐもぐ…こ、これは!なんという…!」
「どお?」
「気に入った?」
「はい!あまくて、ふかふかで…それになかからあまいなにかが…はふぅ♡」
「…良かった。安心したわ」
「どうやら取り越し苦労だったみたいね」
「…ふたにさま?」
「あはは…ちょっとね、心配してたのよ。沙槻ちゃん、最近元気なかったし」
「ほらその…ここの職場って…私達妖怪ばかりだから、沙槻ちゃんの心労になってるのかな、って…」
「っ!い、いいえ!ちがいます、ふたにさま!そんなことはありません…!」
「そうなの…?」
「でも、今も溜息を吐いてたし…」
「…すみません。たしかに、わたしたち『ごりょういちぞく』と『いくさのいつきめ』は、まをうちはらうためのちからをもった『たいまのいちぞく』です。ですが、ここにきて、みなさまによくしていただいて、わたしはとてもかんしゃをしています」
「それなら良かったわ。それじゃあ…他に何か心配事や悩みごとがあるのね?」
「私でよければ、相談に乗るわよ?こう見えても、カウンセリング資格を持ってるしね」
「それは…あっ!?」
「大丈夫…力を抜いて、ね?」
「これなら顔も見えないし、話しやすいでしょ?」
「……ふたにさま…ふたにさまのむねのなかにこうしていると、なぜか、かあさまをおもいだします…」
「あらあら、そんな歳でもないわよ」
「でも…そう思うなら、それでもいいわ…さ、話してみて…?」
私がそう言うと、彼女は静かに語り始めました。
その間、私は理性を押さえるのが大変だったの。
こ、こんな!
こんな
私の胸の中で無防備に…ハァハァ…も、揉みしだいたり、触ったりしちゃダメよね、やっぱり。
…こほん。
ええと、つまり、彼女の話を要約すると、こんな感じ。
発端は以前、
突如出現した神霊級の妖怪神“天逆毎”こと
彼女は最初、沙槻ちゃん達や国の特別住民対策室の面々と敵対し、双方、戦闘にまで発展したらしいの。
でも、最終的には彼女の目的や身の上を知って和解。
結果、国にも内密に彼女を保護することになったってわけ。
そして、彼女との和解の時、
「聞いてください、乙輪姫。今から、沙槻さんの術で僕の身体にヤクモさんの魂を降ろしてもらいます」
沙槻さん達に同行していた「彼」は、そういって身を呈し、乙輪姫の失われた恋人をその身体に降ろすことで、彼女との再会を遂げさせてあげたのね。
私も事件の経緯は主任や輪ちゃんから聞いて知っていたけど「彼」のその行動を聞かされた時は、正直驚いたわ。
…そして、白状します。
少し、心がトキメキました。
入庁したての「彼」と初めて出会った時は「随分子供っぽい子だな」って思っていたのよね。
だから「可愛い弟」って感じに思っていたの。
でも、この二年間で「彼」は大人になったわ。
色々と苦労もあったみたいだけど、それでも諦めないで頑張って…今は危険な業務にも臆することなく飛び出していくまでになったの。
つまり、男性として随分と頼れる感じになってきたってわけ。
でも、そんな「彼」にも、変わらないところが一つだけあるの。
それは「優しさ」
私達妖怪にも恐れることなく接し、人間達との橋渡しになろうと、全力でぶつかっていくその思い。
それは…初めて会った時から変わらない、彼が持っているとてもあたたかい気持ち。
「あのとき…いつわひめさまとやくもさまが、はなぞのにかこまれながらみつめあって、しあわせそうにわらっているのをみて…わたしは、むねがあつくなりました…でも、それでいて、とてもせつなくなって…」
そう言うと、沙槻ちゃんは私の腕に
「あれいらい、わたしはとおのさまをみていると…その、むねがもやもやとするのです。それに、とおのさまがほかのじょせいといっしょにいると、こんどはざわざわして…こんなことは…うまれてはじめてのことです…わたしはいったい、どうしたらいいのか…」
そして、潤んだ瞳で私を見上げる沙槻ちゃん。
「ふたにさま…わたしは、こわれてしまっているのでしょうか…?」
「…いいえ」
「大丈夫よ、沙槻ちゃん」
危うく押し倒しそうになるのを全理性を投入して
私は「沙槻ちゃんの話は答え合わせ」と先程言いました。
それは、輪ちゃんと摩矢ちゃんの態度を見て、推測がついていたから。
でも、それは間違いでした。
確かに、輪ちゃんと摩矢ちゃんに入れた探りでは「結論」が出たわ。
でも、今聞いた沙槻ちゃんの話で「原因」が特定できたの。
これは私の推測だけど。
恐らく彼女達三人は、乙輪姫が恋人のヤクモさんと再会できた時の「彼」の言動や勇気、優しさを目の当たりにしたことで、前から眠っていた「下地になる想い」に火がついたんじゃないかしら。
加えて「彼」ではないとはいえ、その身体と共に幸せそうにしている乙輪姫を見て…複雑な気持ちを抱いたの。
それは羨望、嫉妬、憧れ、共感…
とにかく複雑に入り混じった「彼」への感情が生まれて、今もくすぶり続けているってわけ。
人はそれをこう呼ぶわ。
「乙女心」と。
…ハイ、そこでチャンネル変えない。
あと特に男子!
よーーく覚えておくように!
かくも女性の心は複雑で繊細なのだから…!
とにもかくにも。
人づてで経緯を聞いた私ですら、心がトキめいたんだから、現場で目の当たりにしていた彼女達には、余程劇的な効果があったに違いないわ。
ヨシ!
ここは「彼」の最初の先輩であり、指導役だった私が何とかするしかないわね…!
私は、沙槻ちゃんの頭をいい子いい子しながら答えた。
「「ここはお姉さんに任せなさい…!」」