◇4 コウスケの目論見──オレは、トンマじゃねえ!

文字数 845文字

 須藤夫婦の部屋から自室へ戻ると、またケダモノが吠えていた。そっと野生動物の寝顔を覗きに行く。
 婆さんは大の字で熟睡している。コウスケは知っている。こんな時、何があってもコイツが目覚めることはない。これまでの経験で学習したことだ。
 ──シメシメ……
 須藤婦人から頂戴したお裾分けをちゃぶ台の真ん中に置いた。串団子が三本、それぞれの串に四つずつ小皿に載って並んでいる。風呂上りに独り占めしようと目論んだ。
 さっさと入浴を済ませ、髪をドライヤーで乾かす。
 ──いよいよ御相伴に預かろうじゃねえか……
 団子の皿に手を伸ばした。
 だが、何もつかめない。皿を見ると、串だけが三本同じ向きで綺麗に揃えられてある。
 反射的に鋭い視線が婆さんを射抜く。
 婆さんの顔を覗くと、口元に小豆のねり(あん)がべっとりと付着していた。
 ──犯人(ホシ)は分かった!
 ──取調べなければ!
 頭に血が上り、怒りに任せ犯人の体を激しく揺すった。だが、目覚める気配はまるでない。犯人は高いびきでやり過ごそうとする。仕方なく今は諦めて、もう一度、皿に視線を向けた。団子の幻影が見える。
 ──確かにここに並んでいたのに……
 コウスケはガックリ肩を落とした。
「ヘッ、ヘーックション! コンチクショウ!」
 怒りと寒さで体がブルッと震えた。部屋は冷え切っている。
「ぶっ殺してやる! トンマ!」
 突然、犯人が叫んで、コウスケは座ったま飛び上がる勢いで後ずさった。後方へ倒れ込み、ちゃぶ台の縁で後頭部を思い切り打ちつけた。ちゃぶ台の脚が、三本のうち一本浮いて畳に落ちる。皿がちゃぶ台の上でグルグル回り出す。皿の回転が止まると、躍っていた三本の串は皿の中央に集まり何事もなかったかのように、コウスケを指し示して静かに整列した。
「オレは、トンマじゃねえ!」
 コウスケは後頭部をさすりながら溜息をついた。
 ──亭主は、やっぱりバアさんに殺されたのかもしれねえ!
 婆さんの連れ合いを哀れんでやった。
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