◆1 あの世?(ゲームのステージ)に舞い降りた朱鷺──生まれ出ずる悩み、ってか!

文字数 849文字

 朱鷺が目を開けると、一面青一色だった。目玉をグルグルと動かしてみる。ほかに何も見えない。自分はしゃがんで膝を抱えていることは分かった。まるで母親の胎内で丸まって、これからこの世に生まれ()づる瞬間のように、まさに準備段階に入った胎児の気分だ。
 しばらく目の前の青い物体を眺めていると、突然それは動いた。何なのか見当もつかない。朱鷺は首を捻って、何が我が身に降りかかったのか、必死に思い出そうと頭を働かせた。
 ──そうだ、死のうとして思い留まった。
 ──そしたら……?
 ──女だ!
 ──女の声がした!
 ──バランスを崩して、女の顔が目の前に……
 ──その先がどうしても思い出せない。
 ──なぜだ?
 ──死んだから?
 ──死んだのだ!
 ──だからその先の記憶がないのだ。
 ──結局自分は死んだのだ。
 ──あの声、あの女のせいだ!
 ──死ぬ必要はなかったというのに!
 ──あの女は誰だ?
 朱鷺は後悔した。だが既に遅すぎた。女を恨み続けることでこれからの死んだ人生を生きてやると心に誓った。
 ──それにしてもこの青い壁のような物体は何なのか?
 上下左右にと忙しく動いてちっとも止まる気配もない。一度両の掌で(まぶた)をこすり、まなこを引ん()いて正体を探ってみる。ぼやけた焦点は次第にはっきりと合ってきた。何か縫い目のようなものが確認できた。青い糸がほつれている。
 ──着物なのか?
 顔を離したり近づけたり、目玉を転がしたりするうちに、段々はっきりと形が見えてきた。人の背中のようだ。
 ──そうだ、人の後姿だ!
 ──間違いない!
 朱鷺はようやく明確な全形を捉えることができた。
 ──誰だろう?
 ──ここは、あの世か?
 ──そうか、死んだなら、あの世に違いない。
 ──あの世なら、この青い人影は……
 ──人じゃないのかもしれない!
 ──とすると……
 ──閻魔(えんま)さんか!? 
 朱鷺は勇気を出して、尋ねてみることにした。
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