◇ 黒幕登場

文字数 7,426文字

「なあ、コウちゃん。またイタズラやろう」 
「味占めやがって……」


†††「九太郎参上!」†††

 この二人、生前より仲がよかった。結婚を機に二人は急接近する。というより、藤九郎の方から近づいてきた。藤九郎にはコウスケに対する負い目があった。長らく借金の返済を滞らせていたからだ。その贖罪(しょくざい)も確かにあって藤九郎は何かとコウスケを頻繁に誘うようになる。コウスケに大人の遊びを伝授してくれたのも藤九郎だった。だが、お互い馬鹿がつくほどの正直者でお人好しときている。『飲む、打つ、買う』の三拍子といきたいところだが、二人とも女房の手前、打ったり買ったりは叶わなかった。せいぜい二人して飲み屋の梯子で愚痴を言い合うのが関の山、という至ってまともな小心者であった。二人は顔を見合わせて世の亭主達の異口同音に賛成する。
「結婚後の女は豹変する」
 と絶対的真理だと信じ疑わない。
 似た者同士ということも手伝って、いつの間にか気のおけない仲になるのもそう時間はかからなかった。
 深くつき合い始めて二年後に、藤九郎は10万円全額を返済してくれたが、その間、コウスケは一度も催促したことはない。金の使い道を訊けば、むしろ断ろうかとも考えたほどだ。人助けのためなら惜しくはなかった。藤九郎の心意気に感服したのだった。男心に男が惚れたのだ。全額耳を揃えて差し出された時は、粋にかっこよく、頑として首を縦には振らなかった。わけではない。
 コウスケに遅れること一年、藤九郎もやっとお春と所帯を持ったばかりの頃で、職を転々とした挙句、ようやく運送会社に正社員として就職できた矢先だったから、藤九郎とて台所は火の車なのはコウスケにも想像に難くなかった。
 が、コウスケの方もその年、紅梅の香とウグイスの声の風流を楽しんだあと、四股を踏んだら持病のイボ痔が悪化、肛門科を受診。大層立派な大痔主(おおぢぬし)となりにけり。中秋の名月を愛でながら突然胸辺りから背中にかけて激痛が走りのた打ち回る。如何なる体勢を取ろうとも激痛は治まらず転げ回る一方。脂汗まみれになりながら近くの総合病院に担ぎ込まれた。もちろん朱鷺が背負って。内科から消化器外科に回され、入院と手術。胆石だった。あとで聞くと、あの激痛は“疝痛(せんつう)発作”というものだった。この年は病院のかけ持ちで出費がかさんだ。結局、背に腹は変えられなかった、というわけだ。やはりその頃の10万円は大きかった。
 仕事もお互い持ちつ持たれつといった具合で、50年前の1995年春、独立して運送会社を立ち上げた藤九郎の初仕事が、コウスケの購入した新品のバイクを購入店から鳥の巣山の家まで運搬する仕事だった。コウスケもご祝儀は相当弾んだ。コウスケがバイクショップを開いてからも『雉牟田運送株式会社』を利用したのは言うまでもない。藤九郎がバイク便を始めた時は業務用バイクの全てをコウスケの店に発注してくれた。
 友情を育んできた二人の間に突然の別れが訪れたのが13年前だ。血圧の高かった藤九郎の頭がプッツンしてしまったのだ。脳溢血で倒れ、そのまま78年の生涯を終え、コウスケをここで待っていた。
 コウスケが、先に死んだ親族連中の手招きに誘われるように、一心不乱に天を目指し昇っていたら、突然下界から声がして振り返った途端、奈落の底へ引きずり下ろされた。気づけばコウスケの亡骸の横で藤九郎が涼しい顔で微笑んでいた。
「コウちゃん、久しぶり。待ってたぜ」
 何が起きたのかつかめずコウスケの頭は混乱したが、すぐに正気を取り戻すと懐かしさから自ら藤九郎に歩み寄った。
「藤九郎さんよ、元気だったかい?」
「ああ、死んでからこの方、元気も元気、すこぶる調子いいよ」
 二人積もる話をしたあと、藤九郎からアドバイスを受け、コウスケ自身、今後の身の振り方を模索した。で、成仏するのはしばらく待つことにしたのだ。訊けば天上界は退屈極まりない場所のようだったから。ここに留まって、あとに続く者を待つのも一興だろうと思ったのだ。
 ここにいれば思いのまま願いは全て叶えられると知った。朱鷺が首を吊るのはコウスケには既に分かっていた。このままでは、すぐにここまでやってくる。もうしばらく一人を享受したい。それには何としても朱鷺を思いとどまらせ、この静寂をかき乱す魔物からこの地を死守せねば安住は約束されない。
「一つ朱鷺に泡でも吹かしてやろう! 驚く顔が見たい」
 と心は疼き出す。コウスケのイタズラ心に火を点けてしまった。藤九郎に提案して同意を得た上でイタズラを決行することにした。コウスケは朱鷺が首を吊る瞬間を庭先からそっと見守ったのだ。

†††「九太郎退散!」†††


「今度は未来に行ってみよう、な? コウちゃん……」
 藤九郎がコウスケの顔を覗き込んできた。
「未来はダメだろう? 簡単には操れねえ。怖ろしくいっぱい道が分かれてんだぞ。過去は一つだけど……」
「戻ってこられねえか?」
「あり得るな!」
「オレ、お春と会えなくなるのはイヤだ!」
「藤九郎さんよ……まあいいや」
 コウスケは途中で言葉を切った。
 ──春乃さんはオレと結ばれるはずだった!
 と大声で叫んでやりたかった。まんまと朱鷺の術中に陥ってしまったのが今頃になって悔しくてしようがないが、
 ──これも運命だと思って諦めよう、ったって……
 ──やっぱり納得できねえ!
 ──あの時、二つの選択があったのだ。
 ──もし、朱鷺の成れの果てのバアさんが現れなければ……
「ん?」
 コウスケは首を捻り、頭を巡らしてみる。
 ──そうだった!
 87歳の朱鷺を九太郎ともどもあの日に送り込んだのは、ほかならぬこの自分だった。この安住の場所を汚されたくない一心で。
 まず、トキを過去から2045年に連れてきて、朱鷺と接触した途端に70年前に遡らせた。そうして朱鷺がトキに60センチ接近遭遇した瞬間、
『7日後に転送』
 との設定だけして、朱鷺がどのように運命を切り開くのか、あの世から高みの見物と決め込んだのだ。
 ──あとを九太郎に託したのも、ちとまずかったのやも知れぬ……
 あまり頼りにはならなかった。
 ──やはり、他力本願では大願成就は叶わぬということか?
 真のプレーヤーはこの自分だ。
 ──もう少しよく考えて設定していたら……
 ──朱鷺だけに任せず、あくまで自分主導でプレーすればよかった!
 ──そしたら、別のバラ色の人生がゲットできていたはずではないのか!?
「やっちまった!」
 悔やんだが既にあとの祭り。コウスケはガックリと肩を落とした。
 ──どっちにしろ選んだのはこの自分だ。
 ──お春を選ぼうと思えばできたはずなのだ。
 ──だが、そうしなかった。
 ──ということは……
 ──やはり、運命の流れに逆らえなかった……というわけか?
 コウスケの頭は堂々巡りに段々混乱してきた。
 ──オレに難しい議論は似合わねえ!
 ──病気にでもなったら、あの世でのせっかくの一人を楽しめん!
 コウスケは慌てて考えるのをやめにした。
 ──生まれ変わったら、今度こそ!
 ──今度こそ、春乃さんと……
 コウスケの頬はだらしなく緩んだ。ほくそ笑みながら俯いた途端、無意識に体が飛び跳ねた。藤九郎の顔がコウスケの顔の下からヌウッと覗いていたのだ。
「なーに考えてるの? 読もうか……」
「い、いやあ、なんも……テヘヘヘ……」
「そうかなぁ? おかしいなぁ……あやしいなぁ……」
「オ、オレはただ、未来はまだ決定してねえ……と、考えてただけだ」
 必死に取り繕って話題を元に戻そうと

する。
「でも、アルベルトのヤツが……」
 藤九郎も

案に乗ってきた。
「神はサイコロを振らねえ、ってか? アイツの口癖だな」
「ああ、今頃宇宙の果てまで旅行中だ。方程式の尻っぺたに余分なもの引っつけたんで、確かめてくる……って、どうとかこうとか、難しいこと言ってた。オレにはさっぱり……」
 藤九郎は肩を竦める。
「医者っつうのは妙なこと考えやがる」
「あれ、アルベルトって医者だったのか?」
「産婦人科のな。なんでも九州男児らしい。『そうたい! 性理論』なんだとよ……」
「九州男児か! どうりでヤツの英語、なまりが酷かったわけだ、九州なまりか」
「藤九郎さんよ、あんた、いつ英語覚えた? 初耳だ」
「あぁ……うぅ……えぇ……」
 藤九郎はコウスケから視線を逸らす。そっと藤九郎の目を覗き込んだら、目の前に突然コウスケの顔が迫ったことに驚いたようだ。藤九郎は目を見開き、ピクリと首を後ろに引いた。
「へへへ……」
「あれ、あれだ……13年もこちらにいると自然に分かるようになる……のさ」
「ふうん、へへへ……」
 疑惑の目を向ける。
「そ、それより……」
 藤九郎の喉仏が大きく上下して、ゴクリと喉が鳴る。「ヤツ、四つの力、統一するのが夢だって……コウちゃん、どういうことか分かるか?」
「なんだ、それ?」
「権力とか軍事力のことかな?」
「アイツ、医者だぞ……」
「あっ、そうか」
 藤九郎は腕組をして首を傾げた。「筋力……とか?」
「そうだ、そういう類の力だろう。ヤツ産婦人科だから……?」
「そうか、分かった! 腹筋力。子供産むときに必要じゃねえか?」
「そうだよ、いきむときに使う力だ。藤九郎さん、冴えてるな、さすがだぜ」
「あとの三つは……? 抗菌力! 衛生的にしねえとな。それと……殺菌力だ!」
「益々冴えてるな。そうだよ、藤九郎さんの言う通りだ。もう一つはなんだ?」
 コウスケも腕を組んで考えてみる。「分かった! 精力だ!」
「おう、コウちゃん、アッパレだ! 切実な問題だ、男には……」
「アイツも成仏できねえな」
「みてえだな」
「成仏してられるか! 成仏した日にゃ退屈で死ぬ。オレまだ死にたかねえ!」
「コウちゃんよ、オレ達死んでるんじゃねえの?」
「藤九郎さんよ、ここはあの世とこの世の境い目だ。成仏するまでは死んだとはいえねえ!」
「そうか……?」
 藤九郎は天を仰いで首を傾げる。
「あんたがオレを引き止めたんだぞ。『まだ死ぬな!』って……」
「そうだったか? 覚えてねえ」
「頭、大丈夫か? ほんの一週間前だぞ!」
 コウスケは指折り数えてみる。「いいや、まだ一週間も経ってねえや……」
「頭も体もねえよ、オレ達。だって幽霊だもん」
「あっ、その表現やめろ! 気色悪い……」
「どうしてさ?」
「幽霊ってのは、

ヤツだ。この世に大層未練残した連中を指していう言葉だ。藤九郎さんよ、この世に未練あんの?」
「ねえよ、そんなもん」
「じゃあ、なんか

のか?」
「とんでもねえよ」
「だったら、そんな呼び方やめようぜ」
「分かった」
「ほら、天上見てみな。またお迎えだ」
 ふとコウスケの視界にテン子の姿を認め、天上を見上げる。「わぁ、お袋のヤツ、今度は大勢引き連れてきやがって……手ぐすね引いてる。藤九郎さんとこのご先祖と一緒だ。こりゃ手強いぜ!」
「おーい、久しぶりー!」
「な、なに手振ってんだ! あんた成仏してえのか?」
「とんでもねえ、そんなわけ……」
「だろう? だったら逃げよう!」
「よっしゃ、そうしよう」
「トキ達がこっちくるまで頑張ろうじゃねえか」
「そうだな」
「ひとまず、ここからずらかるとしようか」
 コウスケは身を翻すと一度朱鷺の方へ振り返った。「ヘーックション!」
「コウちゃん、風邪引いたか? そんなわけねえな……」
「寒気する。熱出たみてえだ。アルベルトに診てもらうか?」
「熱は出ねえ!」
「なんで?」
「この世のお人じゃねえから」
 コウスケはいっとき藤九郎の顔を見ながら目を瞬いて思わずリーゼントを整えた。
「ヘーックション! ああ、やっぱ寒気する」
「コウちゃん、鏡見てみるか?」
「なんで?」
「毛……生えてる」
「まさか!」
「今、手櫛でリーゼント整えただろう?」
 コウスケは頭を触ってみた。確かに毛がフサフサだった。思わず口元が綻んだが、すぐに眉根を寄せ首を捻った。
「鏡に映るのかな?」
「ん?」
 藤九郎は口を半開きにしてしばらく天を見上げた。「たぶん……」
「そうか、映るのか!」
「ダメだ!」
「なんで?」
「この世の者じゃねえもん」
「でもオレ達お互いが見えてるじゃねえか」
「あの世の住人同士だから……」
「ここはあの世か? あの世とこの世の境い目だろう?」
 コウスケは訴える。
「ん? オレ達、広い意味で死んでるんだし……この世のお人から見れば、あの世ってことだろう?」
 今の藤九郎の発言に、コウスケはまた腕組みをして考え続ける。仕舞いには唸りながら考えたが、どうしても結論は出なかった。コウスケの理解の限界を超える問題だった。これ以上考え続けたら脳ミソがオーバーヒートしかねない。仕方なく考えることはやめにした。
「ん?」
 ──脳ミソって死んでもあるのか?
 ──なかったら、なんも考えられねえよな。
 ──そこんとこどうなってんだ?
 次から次に疑問が湧いた。頭がパンクしそうになる。
「ギャーッ!」
頭をかき毟り、悲鳴を上げてしまった。
 ──死んでまで悩むことはねえ!
 頭の奥底から押し寄せる思考という大波を、激しく首を振って必死に頭の外へと弾き飛ばした。頭がクラクラしたが、却って空にすることに成功した。
 冷静さを取り戻したコウスケは、テン子達の位置を確認した。天上界からの使者はグングンこちらに迫りくる。
「やばい! 追いつかれる、早く逃げよう」
「おう。ありゃ、もうあんなとこまで……でも、なんであんなに血相変えてオレ達を迎えにくるんだ? 向こうの方が面白いのかなぁ? どう思う、コウちゃん……」
「退屈なだけだろう。監視されて暮らすなんざ、オレは真っ平ご免蒙るぜ!」
「そうか……それもそうだな。逃げるとするか。で、コウちゃん、今度はなにする?」
「飛びながら考えようや」
「そうしよう」
「イッテーし!」
「コウちゃん、どうした?」
「噛みつかれた!」
 コウスケは藤九郎に顔を向けた。
「ワーッ! コウちゃんの鼻に化け猫が噛みついてるぞ!」
「ナ、ナニイッ?」
 コウスケは目を寄せてよく見てみる。確かに三毛猫が張りついている。化け猫と目が合った。そいつの首根っこを引っつかんで引っぺがしたら、こちらに笑いかけながら「ニャン」と鳴いた。「しばらく」と言ったのだ。コウスケに自己紹介してきた。猫の言葉が分かる。
「この猫、コウちゃんの知り合いか?」
「ああ、うちで飼ってたミーだ」
「コウちゃんによくなついてるんだなぁ……」
「とんでもねえ!」
「でも、コウちゃん見て笑ってるぞ」
 ミーのその表情に油断したその時だった、ミーはコウスケの顔面めがけ飛びついた。爪を立て、一心不乱に引っかくと、最後に鼻頭をまた一噛みして頭上を駆け抜けた。
「トンマ! ウスノロ! バカチン!」
 と、まるで朱鷺の口調を真似てコウスケに罵声を浴びせかけ、嘲笑しながら天高く逃げ去って行った。
「イッテーし! やっぱ、アイツとはそりが合わねえ!」
「ああ驚いた! なんちゅう性悪なメス猫なんだ……」
「藤九郎さんよ、ありゃオスだぜ」
「えっ、オスなのか! そんじゃ、高く売れるぜ。三毛猫のオスなんて滅多にいやしねえんだ。コウちゃん、追っかけて捕まえようや、オレ達大金持ちだ」
「死んで、どうやって金使うんだ?」
「ん、それもそうか……? でも、地獄の沙汰も金次第って……」
「藤九郎さんよ、あんた、地獄に行きたいのか?」
「そういうわけじゃ……」
「だろう? 所詮、金なんて……つまらねえ代物よ」
「わぁ、大きく出たねえ。そうだな、オレ達貧乏暮らしが性に合ってるし……」
「そこまでは言われたかねえけどよ。悲しいぐれえ、金には縁遠かったもんな。まぁ、今度生まれ変わったら成功して見せるぜ」
「おお、頼もしいねえ。その時はオレにもお零れ頼んだよ、コウちゃん」
「勝手なことを……」
「コウちゃん、大変だ! 天上界の使者達、もうあんなとこまできてるぞ」
「ワー、追いつかれる! モタモタしてる場合じゃなかった、早く逃げようぜ!」
「そうしよう」
 コウスケはもう一度朱鷺の方を振り返った。
「ヘーックション!」



††† 「九太郎参上!」 †††

「これにて一件落着、ゲームオーバー!」


クッシャミひとつで「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」は 『ハクション大魔王』
指輪と指輪を合わせて「出てこいシャザーン」、「ハイハイサー」は 『大魔王シャザーン』

我が 『大魔王サマ~』 はといえば、
朱鷺が出てきて、男の“威厳”の先っちょをピンピコピィーンと弾かれるばかりで「イッテーし!」

あの忌まわしきペットショップの掃き溜めから、わたくしめを救い出してくれた恩人ではありまするが……
チーンチーンチンコロリンのペッペッペ~にされて、ああ情けなや~、情けなや~
あげな恐妻家にはなりたかねえですたい、ホーホケキョ!

「ア、サテ、ア、サテ、サテハ、ナン……ヘーックション!……キン、タマスダレ、オカーメさ~ん! 出~ておいで~! 遊びましょう~! ウッハァ~ウハウハウッハッハァ~!」


♀††† 「よし子参上!」 †††♀

「コ・ロ・ス・ゾ! キュウタロウ!」
「ハッ! デ・デタ~! ヨ・ヨ・ヨ・ヨ・ヨシコサ~ン……ホーホケキョ」
「チーンチーンチンコロリンのペッペッペ~でメデタシメデタシだ!」
「ド・ド・ド・ド・ド~モスミマセ~ンでメデタシメデタシにシテクンナマショ?」
「観念しいや! お毛毛むしったる!」
「……」

   *

 朱鷺が玄関先で目にしたものは、剥製のように硬直して、息も絶え絶えに身を震わせながら、地べたに転がっている九太郎の無惨な姿であった。頭頂部のお毛毛は全て毟り取られていたのである。
 よし子が鳥籠の上から声高に叫んだ。
「メデタシ、メデタシ!」
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