川の流れと閃きと

文字数 550文字

 ふと、その河原の広さが気になりました。川の幅に比べて、河原が広すぎるのです。
 そこで僕は、「あの」と手を挙げてみました。まるで野外学習に来た小学生のように。
「何ですか」
 そう答えた理子さんの口調は、たまたま虫の居所が悪かった引率の先生のように不愛想でしたが、僕は構わず尋ねました。
「この川はもともとこんなに細いんですか? 河原がこんなに広いのに」
 しばらくの沈黙が重かったのを覚えています。
やがて、理子さんは「関係ないんじゃないですか」とつぶやいたうえで、こう答えてくれました。
「この川は、雪解けで水が増えても、こんなものです。でも、もともとはもっと水量が多くて、この河原一帯に流れていたらしいですね。今でも、大雨が降ると、河原は水に浸かります」
 不愉快そうな口調が、そのときはたいへん不思議に感じられました。まるで、川の流れに責任があるのを追及されているかのような、そんな口ぶりでした。
  しかし、川の増水をイメージしたとき、思い浮かんだ曲がありました。
 質問されてから随分経っていたので、理子さんがきょとんとしたのも無理はありませんが、あのときの表情は忘れることができません。無表情で、声を押し殺したように話す理子さんに、あんなとぼけた顔つきができるとは思わなかったのです。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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