言霊使いの哀しみ

文字数 655文字

「じゃあ、君が……」
 僕より一つ年下の言霊使いが既にいるらしいという話は、父から聞いていました。父の亡くなった友人の息子で、母親も早くにこの世を去り、彼の素性を知らない親戚の家に引き取られて暮らしているということでした。
「知ってるんなら余計なことは言うな」
 まるで心を読んでいるかのように、言葉を的確に返してきます。
「俺も事情は知ってるから聞かない」
 彼の言う事情は深刻ですが、単純です。
僕が言霊使いの力を隠しきれなかったために、周囲から気味悪がられておかしな噂が立ち、居づらくなったというだけのことです。
 よくあることだ、と彼は鼻で笑いました。
「昔は、雨男だってだけで仕事を干された大工がいたっていうしな」
 その逆もあったといいます。雨乞いをしたり、もっと昔は船が海で嵐に遭わないように祈ったりもしていたようです。
「まあ、刀根理子とはうまくやるんだな」
 理子さんとの間に入ってくれたことには、彼の素性が分かったところで気づいていました。
 そこで僕は聞いてみました。理子さん本人には言えない事だったからです。
「これ、どういうこと?」
 僕がいきなり祝詞を読まされた理由です。
 面倒くさそうに顔をしかめられましたが、丁寧に説明してもらえました。
 四十万町周辺にある日御子神社は、もともと農作物の実りをつかさどる地元の太陽神であったこと。春の神楽は、その神様を山から里に迎えるものであること。その祝詞は男女の掛け合いで、10代後半の若い男女2人が毎年交代して役目に就くものであること。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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