言霊使いの哀しみ
文字数 655文字
「じゃあ、君が……」
僕より一つ年下の言霊使いが既にいるらしいという話は、父から聞いていました。父の亡くなった友人の息子で、母親も早くにこの世を去り、彼の素性を知らない親戚の家に引き取られて暮らしているということでした。
「知ってるんなら余計なことは言うな」
まるで心を読んでいるかのように、言葉を的確に返してきます。
「俺も事情は知ってるから聞かない」
彼の言う事情は深刻ですが、単純です。
僕が言霊使いの力を隠しきれなかったために、周囲から気味悪がられておかしな噂が立ち、居づらくなったというだけのことです。
よくあることだ、と彼は鼻で笑いました。
「昔は、雨男だってだけで仕事を干された大工がいたっていうしな」
その逆もあったといいます。雨乞いをしたり、もっと昔は船が海で嵐に遭わないように祈ったりもしていたようです。
「まあ、刀根理子とはうまくやるんだな」
理子さんとの間に入ってくれたことには、彼の素性が分かったところで気づいていました。
そこで僕は聞いてみました。理子さん本人には言えない事だったからです。
「これ、どういうこと?」
僕がいきなり祝詞を読まされた理由です。
面倒くさそうに顔をしかめられましたが、丁寧に説明してもらえました。
四十万町周辺にある日御子神社は、もともと農作物の実りをつかさどる地元の太陽神であったこと。春の神楽は、その神様を山から里に迎えるものであること。その祝詞は男女の掛け合いで、10代後半の若い男女2人が毎年交代して役目に就くものであること。
僕より一つ年下の言霊使いが既にいるらしいという話は、父から聞いていました。父の亡くなった友人の息子で、母親も早くにこの世を去り、彼の素性を知らない親戚の家に引き取られて暮らしているということでした。
「知ってるんなら余計なことは言うな」
まるで心を読んでいるかのように、言葉を的確に返してきます。
「俺も事情は知ってるから聞かない」
彼の言う事情は深刻ですが、単純です。
僕が言霊使いの力を隠しきれなかったために、周囲から気味悪がられておかしな噂が立ち、居づらくなったというだけのことです。
よくあることだ、と彼は鼻で笑いました。
「昔は、雨男だってだけで仕事を干された大工がいたっていうしな」
その逆もあったといいます。雨乞いをしたり、もっと昔は船が海で嵐に遭わないように祈ったりもしていたようです。
「まあ、刀根理子とはうまくやるんだな」
理子さんとの間に入ってくれたことには、彼の素性が分かったところで気づいていました。
そこで僕は聞いてみました。理子さん本人には言えない事だったからです。
「これ、どういうこと?」
僕がいきなり祝詞を読まされた理由です。
面倒くさそうに顔をしかめられましたが、丁寧に説明してもらえました。
四十万町周辺にある日御子神社は、もともと農作物の実りをつかさどる地元の太陽神であったこと。春の神楽は、その神様を山から里に迎えるものであること。その祝詞は男女の掛け合いで、10代後半の若い男女2人が毎年交代して役目に就くものであること。