父のプレッシャー

文字数 648文字

 ところが、僕が聞かされたのは意外なことだったのです。
「なぜ、豹真と闘った?」
 さすがに僕もむっとしました。あれは売られた喧嘩で、言霊を使ったのも、それを避けるためです。そこは気持ちを抑えて丁寧に事情を説明しましたが、父の怒りは収まりませんでした。
「事情はどうあれ、それで言霊を封じられた者もいる!」
 これまで父に聞かされてきたことによれば、私闘が知られれば、他の言霊使いたちが大挙してやってきて、言葉と自然とのつながりを断たれてしまうそうです。言霊使いにとって、それはほとんど死を意味するといいます。自分の言霊が動かなくなると、心と身体は急激に衰えていくものらしいのです。
 それまで他の言霊使いと関わったことがなかったので気にもしませんでしたが、いざ自分が当事者になってみると、豹真と闘ったときとは別の寒気がしました。
 しかし、父の語気はそこで緩みました。
「ただし、例外もある」
 それは知りませんでした。「例外?」と聞き返すと、父は重々しい口調で答えました
「正式に申し込まれた決闘なら、負けたほうが追放されて済む」
 それは初耳だったので、聞いてみました。
「どうして今まで教えてくれなかったの?」
 父は一瞬口ごもりましたが、答えてはくれました。
「知らない方がいいこともある」
 それっきり、父が豹真との闘いについて触れることはありませんでした。
 ここまでお読みになれば、その翌日のことに納得がいくかと思います。理子さんがまともに豹真と関わったのは、あの日だけですから。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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