彼女に聞かれていた?
文字数 579文字
そう言いながら、父はそこから動きもしません。足が痺れたんだろうと勝手に決めつけて、僕は散歩に出ることにしました。外はそろそろ暗くなっている頃だと思いましたが、一人で考えるにはおあつらえ向きだったのです。
しかし、そこでも予想外のことが起こりました。
そう、理子さんが玄関先に立っていたのです。
あなたがそこで真っ先に遣ったことは、僕に詫びることでした。
「話は町内会長さんから聞きました。苦しんでいるのが私のせいなら、これから説得に行ってきます」
薄暗がりの中、冷たい春の風が、むやみやたらと頭を下げることなく僕をまっすぐ見つめる理子さんの髪を微かに揺らしていました。
そんなことはしなくていい、と僕は言いました。理子さんのそのひと言で、心は決まっていたのです。
豹真と闘って、あなたを守る。
僕は何を迷っていたのでしょう。単純な話だったのです。その結果、父と共に再び流浪の身となっても、それが普通の人間とは違う「言霊使い」の宿命だと割り切れば済むことではありませんか。
分かりました、と抑揚のない声で答える理子さんがどんな目で僕を見ているのか、もう暗くて見当がつきませんでした。考え事をする理由もなくなったので、僕は家の中に戻ろうとしましたが、そのとき理子さんに呼び止められました。
「そこで送ってくれるのがエチケットだと思うんですけど」
しかし、そこでも予想外のことが起こりました。
そう、理子さんが玄関先に立っていたのです。
あなたがそこで真っ先に遣ったことは、僕に詫びることでした。
「話は町内会長さんから聞きました。苦しんでいるのが私のせいなら、これから説得に行ってきます」
薄暗がりの中、冷たい春の風が、むやみやたらと頭を下げることなく僕をまっすぐ見つめる理子さんの髪を微かに揺らしていました。
そんなことはしなくていい、と僕は言いました。理子さんのそのひと言で、心は決まっていたのです。
豹真と闘って、あなたを守る。
僕は何を迷っていたのでしょう。単純な話だったのです。その結果、父と共に再び流浪の身となっても、それが普通の人間とは違う「言霊使い」の宿命だと割り切れば済むことではありませんか。
分かりました、と抑揚のない声で答える理子さんがどんな目で僕を見ているのか、もう暗くて見当がつきませんでした。考え事をする理由もなくなったので、僕は家の中に戻ろうとしましたが、そのとき理子さんに呼び止められました。
「そこで送ってくれるのがエチケットだと思うんですけど」