彼女に聞かれていた?

文字数 579文字

 そう言いながら、父はそこから動きもしません。足が痺れたんだろうと勝手に決めつけて、僕は散歩に出ることにしました。外はそろそろ暗くなっている頃だと思いましたが、一人で考えるにはおあつらえ向きだったのです。
 しかし、そこでも予想外のことが起こりました。
 そう、理子さんが玄関先に立っていたのです。
 あなたがそこで真っ先に遣ったことは、僕に詫びることでした。
「話は町内会長さんから聞きました。苦しんでいるのが私のせいなら、これから説得に行ってきます」
 薄暗がりの中、冷たい春の風が、むやみやたらと頭を下げることなく僕をまっすぐ見つめる理子さんの髪を微かに揺らしていました。
 そんなことはしなくていい、と僕は言いました。理子さんのそのひと言で、心は決まっていたのです。
 豹真と闘って、あなたを守る。
 僕は何を迷っていたのでしょう。単純な話だったのです。その結果、父と共に再び流浪の身となっても、それが普通の人間とは違う「言霊使い」の宿命だと割り切れば済むことではありませんか。
 分かりました、と抑揚のない声で答える理子さんがどんな目で僕を見ているのか、もう暗くて見当がつきませんでした。考え事をする理由もなくなったので、僕は家の中に戻ろうとしましたが、そのとき理子さんに呼び止められました。
「そこで送ってくれるのがエチケットだと思うんですけど」
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、重大な決断からはつい逃げてしまう。

 しかし、追い詰められたときに発する力は、大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、心のうちには自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いが秘められている。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、年長者にも妥協しない。

 物静かだが。判断は早く、行動力にあふれている。時機を捉えれば、最小限の手間でやるべきことをやり遂げる

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