巫女狂乱
文字数 652文字
僕は辺りをもう一度見渡しました。
目立たない、しかし障害物のないところ。
眼を凝らすと、駐車場の向こうにある町役場の車寄せで、屋根を支える柱にもたれかかっている背の低い人影が見えます。
それが、豹真でした。
しかも、屋根の下ではなく、雷を落とせと言わんばかりの外側で。
衣装の焦げる臭いで、時間がないことが分かります。落雷させてでも理子さんを「ほむら」の言霊から守る覚悟は決まりました。
僕は遠くから見つめているであろう豹真を見据えました。
豹真! だから僕たちは、闘ってはいけないんだ!
心の中で叫んだ、そのときです。
豹真に向けて稲妻を放とうとした僕の耳に、理子さんの悲鳴が聞こえてきました。
間に合わなかったかと思ってそちらを見れば、まだ火は出ていません。
しかし、理子さんの状態はただ事ではありませんでした。
祝詞を上げるその声は、ここ数日聞いていた中学三年生の女の子のものではなく、地の底から轟いてくるような響きを持っていました。
米・麦・豆・粟・稗、月詠の弑する保食神より来たりて、五・六・七・八・ 九・十年、実りて生して速日、速水祀らん。
鈴を振り鳴らし、髪を振り乱し、独楽のように舞う巫女の姿に目を奪われた僕の視界の隅で、光るものが二つありました。
一つは、暗い雲の中で閃く稲妻。
もう一つは、テントの端で揺れる陽炎。
瞬く間もなく、舞い続ける理子さんの巫女の衣装の周りにふわりとしたものが立ちのぼり、僕も全身に、灼けつくような熱さを覚えました。
目立たない、しかし障害物のないところ。
眼を凝らすと、駐車場の向こうにある町役場の車寄せで、屋根を支える柱にもたれかかっている背の低い人影が見えます。
それが、豹真でした。
しかも、屋根の下ではなく、雷を落とせと言わんばかりの外側で。
衣装の焦げる臭いで、時間がないことが分かります。落雷させてでも理子さんを「ほむら」の言霊から守る覚悟は決まりました。
僕は遠くから見つめているであろう豹真を見据えました。
豹真! だから僕たちは、闘ってはいけないんだ!
心の中で叫んだ、そのときです。
豹真に向けて稲妻を放とうとした僕の耳に、理子さんの悲鳴が聞こえてきました。
間に合わなかったかと思ってそちらを見れば、まだ火は出ていません。
しかし、理子さんの状態はただ事ではありませんでした。
祝詞を上げるその声は、ここ数日聞いていた中学三年生の女の子のものではなく、地の底から轟いてくるような響きを持っていました。
米・麦・豆・粟・稗、月詠の弑する保食神より来たりて、五・六・七・八・ 九・十年、実りて生して速日、速水祀らん。
鈴を振り鳴らし、髪を振り乱し、独楽のように舞う巫女の姿に目を奪われた僕の視界の隅で、光るものが二つありました。
一つは、暗い雲の中で閃く稲妻。
もう一つは、テントの端で揺れる陽炎。
瞬く間もなく、舞い続ける理子さんの巫女の衣装の周りにふわりとしたものが立ちのぼり、僕も全身に、灼けつくような熱さを覚えました。