稲妻の蛇
文字数 667文字
これは憶測ですが、言霊「ほむら」と共に、横笛の技も引き継がれたのではないでしょうか。
豹真の挑戦のはじまりでした。闘いぬかなければなりません。
恐れることなく、僕は祝詞の文句を口にしました。
始めさもらへ、始めさもらへ……
そのとき横笛の音は止まりましたが、そのくらいのことで、始まってしまった神楽を止めることはできなかったでしょう。
ましてや、伝統の「日御子神楽」に気を取られている関係者と観客に、豹真の操る「ほむら」が聞こえるわけがありません。
体中を悪寒が走り、豹真の言霊が動き始めたのが分かりました。
火の立つや、火の立つや、一・二・三・四、炎立つ……。
急がなければなりません。僕は目を閉じ、心の中に閃く稲妻と向き合いました。心の闇の中を疾走する、閃光の蛇と。やがて、身体の中をぞろりと這うものがありました。これが、僕の中に潜む「ナジ」です。
日御子の宣らしたまふや、汝このくにに来してひととせ、ふたとせ、長きにわ たれば、とこしえの恵みを賜はん。
祝詞に乗せて、僕は心の中の「稲妻の蛇」を天空へと解き放ちました。
誰にはばかることもないのなら、雷を呼ぶことなど造作もありません。たちまちのうちに空には暗雲が立ちこめ、満開の桜が照らすこの町を薄暗く覆い隠しました。
しかし、豹真も本気でないわけがありません。恐らく誰も気づいていなかったでしょうが、僕や理子さんの衣装からはうっすらと煙がたちのぼっていました。さらには、会場のあちこちにあるテントやのぼり、そして祭壇からも……。
豹真の挑戦のはじまりでした。闘いぬかなければなりません。
恐れることなく、僕は祝詞の文句を口にしました。
始めさもらへ、始めさもらへ……
そのとき横笛の音は止まりましたが、そのくらいのことで、始まってしまった神楽を止めることはできなかったでしょう。
ましてや、伝統の「日御子神楽」に気を取られている関係者と観客に、豹真の操る「ほむら」が聞こえるわけがありません。
体中を悪寒が走り、豹真の言霊が動き始めたのが分かりました。
火の立つや、火の立つや、一・二・三・四、炎立つ……。
急がなければなりません。僕は目を閉じ、心の中に閃く稲妻と向き合いました。心の闇の中を疾走する、閃光の蛇と。やがて、身体の中をぞろりと這うものがありました。これが、僕の中に潜む「ナジ」です。
日御子の宣らしたまふや、汝このくにに来してひととせ、ふたとせ、長きにわ たれば、とこしえの恵みを賜はん。
祝詞に乗せて、僕は心の中の「稲妻の蛇」を天空へと解き放ちました。
誰にはばかることもないのなら、雷を呼ぶことなど造作もありません。たちまちのうちに空には暗雲が立ちこめ、満開の桜が照らすこの町を薄暗く覆い隠しました。
しかし、豹真も本気でないわけがありません。恐らく誰も気づいていなかったでしょうが、僕や理子さんの衣装からはうっすらと煙がたちのぼっていました。さらには、会場のあちこちにあるテントやのぼり、そして祭壇からも……。